・
・
・
3年前……
この学園に入学する数日前の話だ……。
「ねぇ、待ってってばクレイちゃんってばぁ~」
のんびりした疲れ果てた声を発しながら寺の石段をのぼってくる白髪の少女。
「これくらいの階段のぼるのに毎回へばるなっ……てかあんたの家だろ」
そう隣で息を切らす少女を一括する。
「違うよ~、クレイちゃんが歩くの早いのぉ」
そう文句を言う。
「遅れると、また師が激怒して練習を追加されるぞ」
その言葉にヨウマの顔が真っ青になる。
「ほら、嫌なら休んでないで足を動かしな」
そう言って小屋をめがけ歩き出す。
「で……でもぉ、ツキヨちゃんが」
そうヨウマが後ろを振り返りながら……
「ん……ツキヨは?」
そういえば、一緒に居たはずのツキヨの姿がない。
「くまちゃんが呼んでるんだって……急にどっかいっちゃったの」
そうヨウマが返す。
「あぁ~もぅ、何故止めなかった……」
そう頭を掻き毟りながら呆れたように言う。
「だってぇ……でも何処行ったんだろ、わたしには熊ちゃんなんて見えなかったけど……」
そう不思議そうな顔をしている。
「最近できた雑貨屋だろっ、あそこには奴《ツキヨ》の好きそうな縫いぐるみがごまんとある」
そう言い、ヨウマを睨むと……
「頭を引っぱたいて早く連れ戻して来い」
そうヨウマに言う。
「……連れ戻してって……」
そう後ろを振り返り、せっかくのぼった石段を見下ろし……
「えーーーーーっ」
絶望の声をあげる。
ここ一番の大きな声……出そうと思えば出せるんだなと……改めて思う。
「早く伝えなかったあんたも悪い……師には私から話しておくから、あんたには無理だろ……」
きっとヨウマが、説明を終える頃には日が暮れている……
「---クレイちゃんのおにぃ~っあくまぁ~っ………」
むくれ顔でせっかくのぼった石段を降りながらクレイに向かい不満を口にする。
そんな言葉を気にすることな……
「………ぺったんこぉーーーッ」
その言葉にクレイの足がピタリと止まりっ
「ふーーーんだ……いっつもいっつも……」
ぶつぶつとつぶやくヨウマ。
ポンポンと不意に肩を叩かれる。
「ふぇ?」
不思議そうに振り返りかえると同時に……
「きゃんっ」
頭上から10tの重りでも落ちてきたかと勘違いしそうな拳固が振り落とされる。
「さっきのフレーズを私の前で二度と使うなっ……いいね……」
そう言って、再びそれだけのために最速で降りてきただろう石段を軽々と上っていく。
「……そのまま、クレイちゃんがツキヨちゃんを連れ戻しに行ったほうが絶対に早いよぉ」
そう……腫れ上がったコブをさすりながらヨウマが呟く。
「まったく……私はまだ15歳だぞ……きっと、これから大きく……ん?」
先ほどヨウマに言われた言葉を気にしながら、一足先に師の待つ小屋に向かう。
客……?小屋に入ると何やら師と見知らぬ男が二人話をしている。
「そんな……危険なものを私の弟子や娘にやらせろと?」
そんな師、フウマ=カスミの声がする。
思わずそこで足を止め、彼女たちの居る部屋の死角で立ち止まると、聞き耳を立てる。
「……カスミ家……このまま終わってしまって宜しいのですか?」
そう少し年配だろう男の声がする。
「カスミ家に伝わる妖刀ダリア……果たして……使いこなせる人間が、このカスミ家にいるのですか?」
その言葉に……
「私……出来損ないの娘には無理でも……ツキヨやクレイが居る……彼女たちなら将来は……」
……そう自信のなさそうな声で……
「それに……妖刀《これ》は……危険だ……触れてはならない領域の障りだ……」
そう付け加える。
「シラヌイ家、ハーモニー家……刀術に優れた家計はいくつもある……今のままではそれを越えることは愚か、並ぶ事すら適わないのではないのですか?」
その言葉に……
「夫のカスミ家を侮辱するかっ!」
手にした刀を男に突きつける。
すっと隣で座っていた男が立ち上がるが……
「ニアン……座っていなさい」
そう立ち上がった男をなだめる。
「その亡き夫のためにも……その妖刀《ちから》に触れるべきではないのですか?」
そう……男は強気に返す。
「先ほど差し上げた二つの刀は、妖刀ダリア……ほどの代物ではありませんが……二つの妖刀です……あなたがた刀術使いだからこそ出来る刀《のうりょく》の上書き……せっかくの妖刀《ちから》を捨て置くなんて真似……本当に望まれるのですか?」
その言葉に……
「だからって……私の弟子を……娘をその実験体に差し出せと……」
そうフウマが困惑する。
「我が学園では……そんな彼女たちのサポートも実現できるんですよ……障りを引き出し、それを押さえ付け……能力を限界まで引き上げる……」
そうフウマを誘い込む……
「……障りを制御し……能力を引き上げる……それを会得すれば……この妖刀《ダリア》も?」
そう……目の前の妖刀に……手を伸ばす。
「……えぇ、その気があるなら、あなたをその妖刀に相応しい能力者に学園《わたし》たちが立ち会いましょう」
師は多分……すでに……ずっと前から……魅せられていたのだろう……
その妖刀《ちから》に……
「悪い話ではないでしょう?」
そう言って……男は立ち上がり……
「良い返事をお待ちしております」
そう残し部屋を出て行く。
私の前を気にすることなく通り過ぎる。
初めから盗み聞きしていたことすら知っていたかのように……
同じ年くらいの少年……
ニアンと呼ばれた男だろうか……
一瞬、クレイを睨みつけるように見て……
彼もまた何もすることなく、その場を後にする。
クレイが変わるように部屋に入る。
妖刀ダリアを魅入るように立つ師に……
「……師匠……馬鹿なこと考えてないよね」
ずっと我慢していたのだろう……
ずっと手にしたかったのだろう……
諦めていたものがそこにある……
「大丈夫……お前たちには渡さない」
そう……うれしそうに呟いた。
・・・
しばらくの沈黙後……師は黙って部屋を出て行った。
クレイはその後もしばらくその場に立ち竦んでいた……
「ただいまだよぉ、クレイちゃーん」
間の抜ける声が後ろからする。
「ちょっと聞いてよぉ、クレイちゃーん、ツキヨちゃんったらねぇー」
早々に愚痴りだすヨウマ。
師が私たちの誰かをあの妖刀の後継者にしようとしていたことは知っていた。
それは師に弟子入りした7年以上前から……
ただ……それが叶わぬまま終わればいいと思っていた……
でも……それが不可能なら……犠牲になるのは私でいい……
この二人は……最後まで無縁で終わらせる……
「クレイ、見て、クマちゃん」
ずいっと手にした熊の縫いぐるみをクレイにかざすように見せ付ける。
「へぇーすごい、すごい」
我ここにあらずで……クレイは適当に返事を返す。
「ヨウマが、買ってくれた」
そうツキヨが言う。
「ちがうんだよぉ、ツキヨちゃんってばね、そのクマちゃんの前から全く動かないんだよぉ~、私だってお小遣い少ないのに~、でもぉこのままじゃ、遅くなって帰ったらねぇ~、クレイちゃんが私の頭をねぇ~がつーんってするでしょぉ?」
そうヨウマが嘆いている。
「あれぇ~、なにこの刀?」
そうヨウマがふらふらと先ほどの客が置いていったであろう刀に近寄る。
「触れるなっ」
少し強い口調で言う。
びくっとヨウマが身体を震わせて止まる。
「悪い……」
驚かせるつもりはなかった……素直にそのことを詫びる。
「何処かの素行の悪い客の忘れ物だ……そんなものに触れるな」
そう二人に言い聞かせる。
その妖刀《のろい》は……きっと私たちを別つのだろう……
でも……私がその妖刀《さわり》に負けなければ……
きっとまためぐり合える……だから……
わたしがその妖刀《のろい》を打ち負かせるその日まで……
二人《おまえたち》は何も知らずにいろ……
すべて私が請け負う……
ツキヨ……あんたがどれだけ私より優れていようと……
その役目は譲らない……
「……さっさと部屋に戻るぞ」
そうツキヨとヨウマに言う。
「う……うん……って、え?クレイちゃん……今日の稽古は?」
そうヨウマがクレイに尋ねる。
「今日は中止……いいから部屋に戻れ」
その言葉に……
「えっえっ?……稽古無しは嬉しい……喜ばしいけどねぇ~、わたし、何で石段何往復もしてツキヨちゃんを呼びに……わたしのお小遣い……あれれぇ~?」
ヨウマの嘆く声がするが無視をする。
この関係を守りたかったんだ……
誰のためでもない……きっと自分のために……
そう……これは私の我がままだ……
それなのに……だからこそ……
二人《あんたら》はこっちに来るなよ……
そう……ツキヨ……に出会って私はすでにそこに踏み込んでいた……
その才能に嫉妬し……焦って……
そんな私の役目を……あんたが背負っちまうんじゃないかって……
だから……ツキヨ……あんたが憧れる呪《ちから》は……
私があんたに嫉妬して得た不正《のろい》だ……
軽蔑するか……あんたが憧れた能力《わたし》を……
間の抜けた……いつだってほっておけない……ヨウマ……
才あるのに……可愛いものに目がなくて……それでもこんな私に憧れてくれる……ツキヨ……
そんな日常を守りたかったんだ……
そのために犠牲が必要だっていうのなら……
師が……一人生贄を求めているのなら……
いいよ……
名乗り出るさ……私が……
だから……二人はそのままでいろ……
こっちに来るな……
私の決意を鈍らせるな……
そこに居ろ……
こっちに来るのは私だけでいい……
・
・
・
「その名を語り、妖魔《おに》の首を刈れ……鬼丸国綱《オニマルクニツナ》」
結局……私が守りたかった三人《わたしたち》は散り散りになって……
遠ざけようと思った妖刀《のろい》は三つとも揃いに揃い……
あの日の私の思いも……今日までの努力《おちる》事も全てが無駄で……
思わず膝から崩れ落ちそうになるけれど……
「師よ……さぞ、私をお恨みでしょう……だから……その呪いは私にだけ差し向けろ……」
そう……ヨウマに宿る刀を見る。
「あんたたちはこっちに来るな……」
そう呟く……
「いつまでも……間の抜けたお前で居ろ……師の理想《ぎせい》は私でいい……」
そう目の前の妖魔《デーモン》化したヨウマに言う。
「いつまでも……私《いつわり》に憧《だまさ》れていろ……」
そう後ろの昔私に憧れていた女性に言う。
「師よ……3年待たせた……決着を付けよう……悪いが……3年越しのあんたの夢……私がぶち壊すよ」
そうクレイは強く刀を握りなおす。
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3年前……
この学園に入学する数日前の話だ……。
「ねぇ、待ってってばクレイちゃんってばぁ~」
のんびりした疲れ果てた声を発しながら寺の石段をのぼってくる白髪の少女。
「これくらいの階段のぼるのに毎回へばるなっ……てかあんたの家だろ」
そう隣で息を切らす少女を一括する。
「違うよ~、クレイちゃんが歩くの早いのぉ」
そう文句を言う。
「遅れると、また師が激怒して練習を追加されるぞ」
その言葉にヨウマの顔が真っ青になる。
「ほら、嫌なら休んでないで足を動かしな」
そう言って小屋をめがけ歩き出す。
「で……でもぉ、ツキヨちゃんが」
そうヨウマが後ろを振り返りながら……
「ん……ツキヨは?」
そういえば、一緒に居たはずのツキヨの姿がない。
「くまちゃんが呼んでるんだって……急にどっかいっちゃったの」
そうヨウマが返す。
「あぁ~もぅ、何故止めなかった……」
そう頭を掻き毟りながら呆れたように言う。
「だってぇ……でも何処行ったんだろ、わたしには熊ちゃんなんて見えなかったけど……」
そう不思議そうな顔をしている。
「最近できた雑貨屋だろっ、あそこには奴《ツキヨ》の好きそうな縫いぐるみがごまんとある」
そう言い、ヨウマを睨むと……
「頭を引っぱたいて早く連れ戻して来い」
そうヨウマに言う。
「……連れ戻してって……」
そう後ろを振り返り、せっかくのぼった石段を見下ろし……
「えーーーーーっ」
絶望の声をあげる。
ここ一番の大きな声……出そうと思えば出せるんだなと……改めて思う。
「早く伝えなかったあんたも悪い……師には私から話しておくから、あんたには無理だろ……」
きっとヨウマが、説明を終える頃には日が暮れている……
「---クレイちゃんのおにぃ~っあくまぁ~っ………」
むくれ顔でせっかくのぼった石段を降りながらクレイに向かい不満を口にする。
そんな言葉を気にすることな……
「………ぺったんこぉーーーッ」
その言葉にクレイの足がピタリと止まりっ
「ふーーーんだ……いっつもいっつも……」
ぶつぶつとつぶやくヨウマ。
ポンポンと不意に肩を叩かれる。
「ふぇ?」
不思議そうに振り返りかえると同時に……
「きゃんっ」
頭上から10tの重りでも落ちてきたかと勘違いしそうな拳固が振り落とされる。
「さっきのフレーズを私の前で二度と使うなっ……いいね……」
そう言って、再びそれだけのために最速で降りてきただろう石段を軽々と上っていく。
「……そのまま、クレイちゃんがツキヨちゃんを連れ戻しに行ったほうが絶対に早いよぉ」
そう……腫れ上がったコブをさすりながらヨウマが呟く。
「まったく……私はまだ15歳だぞ……きっと、これから大きく……ん?」
先ほどヨウマに言われた言葉を気にしながら、一足先に師の待つ小屋に向かう。
客……?小屋に入ると何やら師と見知らぬ男が二人話をしている。
「そんな……危険なものを私の弟子や娘にやらせろと?」
そんな師、フウマ=カスミの声がする。
思わずそこで足を止め、彼女たちの居る部屋の死角で立ち止まると、聞き耳を立てる。
「……カスミ家……このまま終わってしまって宜しいのですか?」
そう少し年配だろう男の声がする。
「カスミ家に伝わる妖刀ダリア……果たして……使いこなせる人間が、このカスミ家にいるのですか?」
その言葉に……
「私……出来損ないの娘には無理でも……ツキヨやクレイが居る……彼女たちなら将来は……」
……そう自信のなさそうな声で……
「それに……妖刀《これ》は……危険だ……触れてはならない領域の障りだ……」
そう付け加える。
「シラヌイ家、ハーモニー家……刀術に優れた家計はいくつもある……今のままではそれを越えることは愚か、並ぶ事すら適わないのではないのですか?」
その言葉に……
「夫のカスミ家を侮辱するかっ!」
手にした刀を男に突きつける。
すっと隣で座っていた男が立ち上がるが……
「ニアン……座っていなさい」
そう立ち上がった男をなだめる。
「その亡き夫のためにも……その妖刀《ちから》に触れるべきではないのですか?」
そう……男は強気に返す。
「先ほど差し上げた二つの刀は、妖刀ダリア……ほどの代物ではありませんが……二つの妖刀です……あなたがた刀術使いだからこそ出来る刀《のうりょく》の上書き……せっかくの妖刀《ちから》を捨て置くなんて真似……本当に望まれるのですか?」
その言葉に……
「だからって……私の弟子を……娘をその実験体に差し出せと……」
そうフウマが困惑する。
「我が学園では……そんな彼女たちのサポートも実現できるんですよ……障りを引き出し、それを押さえ付け……能力を限界まで引き上げる……」
そうフウマを誘い込む……
「……障りを制御し……能力を引き上げる……それを会得すれば……この妖刀《ダリア》も?」
そう……目の前の妖刀に……手を伸ばす。
「……えぇ、その気があるなら、あなたをその妖刀に相応しい能力者に学園《わたし》たちが立ち会いましょう」
師は多分……すでに……ずっと前から……魅せられていたのだろう……
その妖刀《ちから》に……
「悪い話ではないでしょう?」
そう言って……男は立ち上がり……
「良い返事をお待ちしております」
そう残し部屋を出て行く。
私の前を気にすることなく通り過ぎる。
初めから盗み聞きしていたことすら知っていたかのように……
同じ年くらいの少年……
ニアンと呼ばれた男だろうか……
一瞬、クレイを睨みつけるように見て……
彼もまた何もすることなく、その場を後にする。
クレイが変わるように部屋に入る。
妖刀ダリアを魅入るように立つ師に……
「……師匠……馬鹿なこと考えてないよね」
ずっと我慢していたのだろう……
ずっと手にしたかったのだろう……
諦めていたものがそこにある……
「大丈夫……お前たちには渡さない」
そう……うれしそうに呟いた。
・・・
しばらくの沈黙後……師は黙って部屋を出て行った。
クレイはその後もしばらくその場に立ち竦んでいた……
「ただいまだよぉ、クレイちゃーん」
間の抜ける声が後ろからする。
「ちょっと聞いてよぉ、クレイちゃーん、ツキヨちゃんったらねぇー」
早々に愚痴りだすヨウマ。
師が私たちの誰かをあの妖刀の後継者にしようとしていたことは知っていた。
それは師に弟子入りした7年以上前から……
ただ……それが叶わぬまま終わればいいと思っていた……
でも……それが不可能なら……犠牲になるのは私でいい……
この二人は……最後まで無縁で終わらせる……
「クレイ、見て、クマちゃん」
ずいっと手にした熊の縫いぐるみをクレイにかざすように見せ付ける。
「へぇーすごい、すごい」
我ここにあらずで……クレイは適当に返事を返す。
「ヨウマが、買ってくれた」
そうツキヨが言う。
「ちがうんだよぉ、ツキヨちゃんってばね、そのクマちゃんの前から全く動かないんだよぉ~、私だってお小遣い少ないのに~、でもぉこのままじゃ、遅くなって帰ったらねぇ~、クレイちゃんが私の頭をねぇ~がつーんってするでしょぉ?」
そうヨウマが嘆いている。
「あれぇ~、なにこの刀?」
そうヨウマがふらふらと先ほどの客が置いていったであろう刀に近寄る。
「触れるなっ」
少し強い口調で言う。
びくっとヨウマが身体を震わせて止まる。
「悪い……」
驚かせるつもりはなかった……素直にそのことを詫びる。
「何処かの素行の悪い客の忘れ物だ……そんなものに触れるな」
そう二人に言い聞かせる。
その妖刀《のろい》は……きっと私たちを別つのだろう……
でも……私がその妖刀《さわり》に負けなければ……
きっとまためぐり合える……だから……
わたしがその妖刀《のろい》を打ち負かせるその日まで……
二人《おまえたち》は何も知らずにいろ……
すべて私が請け負う……
ツキヨ……あんたがどれだけ私より優れていようと……
その役目は譲らない……
「……さっさと部屋に戻るぞ」
そうツキヨとヨウマに言う。
「う……うん……って、え?クレイちゃん……今日の稽古は?」
そうヨウマがクレイに尋ねる。
「今日は中止……いいから部屋に戻れ」
その言葉に……
「えっえっ?……稽古無しは嬉しい……喜ばしいけどねぇ~、わたし、何で石段何往復もしてツキヨちゃんを呼びに……わたしのお小遣い……あれれぇ~?」
ヨウマの嘆く声がするが無視をする。
この関係を守りたかったんだ……
誰のためでもない……きっと自分のために……
そう……これは私の我がままだ……
それなのに……だからこそ……
二人《あんたら》はこっちに来るなよ……
そう……ツキヨ……に出会って私はすでにそこに踏み込んでいた……
その才能に嫉妬し……焦って……
そんな私の役目を……あんたが背負っちまうんじゃないかって……
だから……ツキヨ……あんたが憧れる呪《ちから》は……
私があんたに嫉妬して得た不正《のろい》だ……
軽蔑するか……あんたが憧れた能力《わたし》を……
間の抜けた……いつだってほっておけない……ヨウマ……
才あるのに……可愛いものに目がなくて……それでもこんな私に憧れてくれる……ツキヨ……
そんな日常を守りたかったんだ……
そのために犠牲が必要だっていうのなら……
師が……一人生贄を求めているのなら……
いいよ……
名乗り出るさ……私が……
だから……二人はそのままでいろ……
こっちに来るな……
私の決意を鈍らせるな……
そこに居ろ……
こっちに来るのは私だけでいい……
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「その名を語り、妖魔《おに》の首を刈れ……鬼丸国綱《オニマルクニツナ》」
結局……私が守りたかった三人《わたしたち》は散り散りになって……
遠ざけようと思った妖刀《のろい》は三つとも揃いに揃い……
あの日の私の思いも……今日までの努力《おちる》事も全てが無駄で……
思わず膝から崩れ落ちそうになるけれど……
「師よ……さぞ、私をお恨みでしょう……だから……その呪いは私にだけ差し向けろ……」
そう……ヨウマに宿る刀を見る。
「あんたたちはこっちに来るな……」
そう呟く……
「いつまでも……間の抜けたお前で居ろ……師の理想《ぎせい》は私でいい……」
そう目の前の妖魔《デーモン》化したヨウマに言う。
「いつまでも……私《いつわり》に憧《だまさ》れていろ……」
そう後ろの昔私に憧れていた女性に言う。
「師よ……3年待たせた……決着を付けよう……悪いが……3年越しのあんたの夢……私がぶち壊すよ」
そうクレイは強く刀を握りなおす。