トーナメント、Aブロック決勝戦……そして学園武術会の準決勝戦となる……が、
 ライト達とは再び別行動中……
 そして……学園側による妨害工作により……

 確かに、試合会場に足を踏み込んだはずだった……
 セティと似た能力だろうか?

 俺とレイン、クリア、ヴァニ、クロハ、ツキヨ、セティ、マリアの8名は、
 見知らぬ部屋に閉じ込められている。

 「……空間製造能力か」
 そうセティは呟きながら……

 「害は無いが……能力者が能力を解くか、魔力が尽きない限り出ることは難しいな」
 そうセティが言う。

 「……どうする?このままじゃ……」
 ヴァニがこのままでは不戦敗になると言う。

 「少年……、ここは一つ君に託そう」
 そうセティが俺に告げる。

 「なにを?」
 マリアがそう不思議そうに尋ねる。

 「私の能力でこの空間を騙し一部を中和する……でも騙せる空間は一人が限界だ……」
 そうセティが俺に言う。

 「恐らく、私の魔力が続く限りはこの空間の外に少年、君を送り出せる……その時間内にこの大会に勝ち続け、そして……この空間を作り出す何者かを潰してほしい」
 そうセティに託される。

 「待て……」
 その言葉を途中で止め……7人の顔を見る……
 自惚れている訳では無いが……
 
 「いや……俺がやるよ……」
 そうセティに頼む。

 「任せた、少年……」
 相当な魔力を消費するのだろう……
 今までと少し余裕の無い笑みを浮かべセティは俺に告げ、
 周辺が光ると目の前には、学園のコロシアムがある……

 もちろん、周囲には誰も居なく自分ひとり……

 「おや……驚いた、てっきり全員でしっぽを巻いて逃げ出したかと思ったが……」
 リングまで独り訪れた俺に橙色の髪の女……
 最凶と俺がなずけた女……レイフィス=リターンは俺に言う。

 「ちょっと……誰かの卑怯な妨害にあってさ……今は俺一人だ」
 そう言いながら……その元凶となる相手を探る……
 恐らく、彼女のチームの誰かの仕業と考えて間違いはない……

 そして、彼女のチームもまた、この2戦を潜り抜けるために、
 激戦を潜り抜けてきたのであろう……
 この3戦を潜り抜けるには、人数が足りていない……

 「悪いが人数を補充させてもらうよ……」
 そう気づいた矢先に、彼女はそう言い……
 
 キルエ=サモン……そして、マネードル家に雇われていた……
 イザヨイ……二人が現れる。

 こっちは、現在……俺独りだと言うのに……
 しかも一人は前試合で倒したばかりの相手だ……

 有りなのかよ……
 知っている……この大会は俺たちに都合が悪く……
 闇《そっち》には都合が良くできている……

 「それじゃ……先鋒戦……前に出てください」
 そう毎度のラビが告げる。

 ほぼ……この一戦ですべてが終わる。
 そう……レイフィスが前に出る。
 もう一人、キルエがリングに立つ。

 ………勝算など全くない……
 それでも……

 「おや……まさか君独りで?」
 そうレイフィスが俺に言う……

 やるしかない……時間を稼ぐんだ……
 そして、できるなら……
 この戦闘中にあの空間を作り出した誰かを見つけ出せ……
 
 そして皆をあの空間から救出すれば……
 残り2戦……皆に託すことができれば……

 リングに立つ……

 「……ぱらりらっ……ぱらりらっ」
 そんな愛らしい言葉と共に、会場に一人の少女が蛇行して走りながら登場する。

 「なん……だ?」
 思った、俺の言葉を先にレイフィスが言う。
 てっきり、さらにレイフィスが自軍への助っ人を要請したのかと思ったが……

 白髪のぱっつん少女は……そのままリングまで蛇行しながら登ると……
 俺の隣に立った。

 少女は不思議そうに見ている俺に微笑むと……

 「レス……助けに来た」
 そう一言告げる。

 「オトネ……でも……」
 いいのか……彼女に敵対するというのは……学園に敵対……
 お前は……学園に……

 「レスが私を助けてくれる……だからオトネはレスを助ける……」
 そうだ……約束したんだ……
 だから……ここで負ける訳にいかないよな……

 「オトネ……あんた何を、そんな事がっ!」
 ルール違反だとキルエは司会のラビに言うが……

 「だったら、今のあんたはどうなんだ?」
 俺の台詞に……キルエは言葉を紡ぐ。

 「キルエ……構わんさ」
 そうレイフィスは少し余裕の笑みを浮かべながら……
 俺とオトネに自分が負ける訳が無いと……

 「始めようか……レス君……」
 そうレイフィスが俺に言い……

 「そして、いつでも君を私たちは歓迎する……」
 そう付け加える。

 オトネの能力を知っている……
 この学園最強に匹敵するほどの能力……

 学園の闇に利用されながらも、その能力の高さは、
 その闇による無理な能力の開放を強要されるまでもなく……
 それに匹敵する、それ以上の能力を秘めている。

 だが、そんなオトネを恐れるキルエを他所に……
 レイフィスは余裕の笑みを浮かべている。

 巻き戻しの能力……
 最凶……
 すべてを無に返す能力。

 もっとも自分の能力と相性が悪い……

 守るだけの俺の能力に……彼女の能力は……

 突破口は何処だ?
 オトネの能力をどうすれば俺は……

 足りない頭で必死に考える。

 約束したんだろ……
 そんな彼女がそんな自分を信じてこの場所に駆けつけ立っているんだ……

 どうにかしろ……足りない頭で考えろ……

 最強が居なくとも、あの最凶を追い詰めろ……

 何のためにお前はここに召喚された……
 何のためにお前はその能力《ちから》を授かった……


 「先鋒戦……試合開始っ!」
 ラビの合図と共に……
 レイフィスが素早く動く

 「びゅーんっ」
 オトネはそう言葉を放つと……そのレイフィスよりも素早く動き……

 俺の前に迫ったレイフィスの前に割ってはいる。

 「どーんっ」
 そうオトネはレイフィスに回し蹴りを喰らわすと、そのレイフィスの身体は遠くに投げ飛ばされる。

 が……

 「戻れ……」
 その言葉と共に再びオトネの前に現れ……
 両腕に闘気を宿し容赦なくラッシュを繰り出す。

 「ひゅんっ」
 そうオトネは呟くと、その攻撃を華麗に回避する。

 そして、その攻撃を避け出来た隙を突くように……

 「オトネ……だめだっ!」
 そんな俺の言葉は遅すぎて……

 「どーんっ」
 繰り出す正拳突きにレイフィスは再び遠く投げ飛ばされるが……

 「戻れ……」
 その言葉と共に、オトネの前に現れ……

 「痛い……っ」
 オトネの身体が逆に遠く吹き飛ばされる……。
 俺の結界で壁を作りオトネの体を受け止めるが……

 ……考えろ……
 考えろ……

 時を戻す……
 与えたダメージも回復する……
 繰り出した攻撃を再現する……

 そんなチートな能力……

 巻き戻す能力といえ、その痛みと苦痛の記憶は残っている……
 だが、その能力を逆手に拷問するような最強は今は居ない……

 巻き戻しの攻撃は……結界で防ぐのは難しい……

 考えれば、考えるほど……
 くそ……今回の俺は余りにも無能じゃないのか……
 苦笑いと冷や汗が流れる。
 
 考えろ……
 能力《これが》が防御に生かすことができないのなら……
 考えろ……
 彼女《オトネ》の能力を発揮できる状況を……

 火の玉が俺とオトネめがけ飛んでくる。
 それを俺の結界で防ぐ。

 キルエの召喚獣……

 一瞬……俺の目線はレイフィスから彼女に移るが……

 確かに彼女《レイフィス》を倒すより簡単だろう……
 だが、そうさせない策はとってくるはずだ……
 それよりも……

 彼女《レイフィス》からここから逃げ、勝利しても……
 何故か、オトネを闇《がくえん》から救ってはやれない気がした……

 時戻しを逆手に取るなんて最強《のうりょく》は俺には無い……

 考えろ……

 オトネのその凶悪な能力も時戻しで無効化される……

 考えろ……

 俺《てめぇ》の防御結界など何の役にも立たない……

 《《だったら》》他にどう利用する……?
 俺《てめぇ》がせいぜい出来るその結界《のうりょく》をどう利用する?

 考えろ……自惚れるな……
 俺がどうするかじゃない……
 彼女《オトネ》が俺《のうりょく》をどうするか……

 英雄になるのは彼女なんだ……
 闇を払い……共に学園を卒業しよう……

 大丈夫だ……駒は揃っている……
 後は俺の足りない頭を働かせるだけだ……

 俺はオトネを助け……オトネに俺は助けられる……

 そう……考えろ……

 俺《てめぇ》の能力が防御に使えないのならそれ以外にどうする……?
 俺《てめぇ》の能力をオトネに生かしてもらう方法が何処にある?

 その二つから……時戻しをどう攻略するのか……

 ほら、脳内には駒は揃っている……後は考えろ……

 「……オトネ、俺たちのために英雄になってくれ」
 そうポンっと隣に居るオトネの頭に手を載せる。
 不思議そうに眺めるオトネに……
 ただ、俺は微笑む。


 「茶番は終わりにしようか、レス君」
 レイフィスの両腕の闘気をまとったオーラがさらに膨れ上がる。
 自分の強さは時戻しの能力だけではないと主張するように……

 確かに彼女は……ライトに継ぐ能力……
 時戻しの能力に合わせ下手な能力者を凌駕するだけの格闘スキルを持つ……
 そんな彼女を前に……

 今も俺がここに存在できるよう……魔力を駆使しているセティ。
 俺を信じ、学園に忍び込んでいるライトたち……
 俺を信じ、その身を犠牲にしているレインたち……

 自分に一番似合わない言葉だと思っていたけどな……

 「諦める訳にいかねーだろっ!!」
 俺はそう言葉を投げ捨てる。