暗闇の中……

 下手に動いてしまうと、クロハの位置さえ見失ってしまう。


 真っ黒な霧の中、
 飛び交う投擲具を結界をはり防ぐ……

 このまま……この闇の中ただこうして防御に徹する訳にもいかない。
 だが……下手に動きクロハの位置がわからなくなれば……
 
 「くっ……」
 俺は再び結界を両腕に巻きつけると、
 目の前に現れたアレフの攻撃を防ぐ。

 見えている……?
 暗闇を作る本人以外にもこの闇の中を見渡せるというわけか。


 「レス……助けるっ」
 クロハは漆黒の刀を振るうが……

 アレフの右腕が激しく光る。

 苦痛で額に汗を浮かべながらも激しい電流をまとい、その腕でその一撃を防ぐ。
 そして、刃を手で掴むと……

 「っ……」
 刀を通し、電流がクロハの身体を伝う。

 

 俺も両手に結界を巻きつけるとその拳をアレフに振りかざす。

 アレフは左腕にも激しい電流を帯びると、俺の拳をその手のひらで受け止める。

 「くっ……」
 結界を伝い俺の身体にもその電流が流れ込む。

 ……その流れる電流にクロハも俺も苦痛の声をあげるが……

 当の本人の耐性を超える力……
 額に汗を浮かべるアレフ……場合によっては先に限界を迎えるだろう。

 だが、その間も暗闇の中から投擲具は飛び交い、
 俺とクロハを襲う。

 斬撃は衝撃に変換されるがそのダメージが蓄積されていく。


 初めてのクロハとの出会い。
 あの日もこの暗闇だった。

 アストリアさえも、リヴァーの能力が無ければ、この能力を認識できなかった。
 となれば、この能力の外にミストが居るとは考えにくい。

 ならば……この闇の何処かに潜んでいる……

 「根拠はないんだけどな……」
 俺はそう呟く……。

 闇を作り出す……ミストの位置を特定する。
 リヴァーのような便利な能力はない。
 それでも……一瞬でいい……その場所を特定できればいい……

 だが……その一瞬で俺は彼女をどうにかできない。
 それは……クロハに任せるしかない……

 なら、どうクロハにそれを知らせられるのか……

 「一瞬だ……そのチャンスを繋いでくれ」
 そうクロハに告げる。

 「よく、わからないけど……わかった」
 そうクロハが答える。

 アレフは苦痛で顔をしかめながら……さらに電流を強める。

 俺は両腕の結界を解く。


 「つぅ……」
 その電流が俺の身体を直に伝う。

 俺は姿勢を低くすると……捕まれる右手とは逆の左手を地につける。


 「……悪いが、利用するぞ」
 そう俺はアレフに言う。

 結界すら帯電し電流が伝う。
 ならば……

 俺は、できる限りの結界を地に張り巡らせる。


 「きゃっ」
 そんな小さな悲鳴がやみの中に響く。

 「しまった」
 そうアレフが言い、能力を解除するが……

 「刀技……牙閃《がせん》」
 だが、その一瞬の綻びをクロハは逃さない。
 その一瞬の隙をクロハの技がミストを捕らえた。


 闇がバラバラと卵の殻が剥けるように剥がれていく。


 再び視界に光が戻り……すっかり見慣れたリングに引き戻された。


 「4者が戻ってきました」
 ラビがそう告げる……
 今まで、他者からはどう映っていたのか……


 俺もクロハもそれなりのダメージを負っている。
 だが、それ以上に、アレフとミストも疲労している。

 クロハの一撃というより、二人とも能力の維持にその魔力を……消耗しているのだろう。


 「……全部捨てて……自らを実験体に宛がってさえも……こんな結末だって言うのか」
 そう……アレフが嘆く。

 「……ふざけるなよ……終れるかよ……とっくに限界をこえてるんだ……、だったらその限界の限界まで……吐き出してやる」
 そうアレフが言うと空から巨大な稲妻が落ち、アレフの身体を捕らえる。

 「ぐ……」
 悲痛な声をあげ……
 その身体に青白く発行すると……身体全体にその稲妻をまとう。

 「……捨てて、得た力で……少しの結果くらい残させろよ」
 そうアレフは言い……地を蹴り俺めがけ突撃する。


 「言えた立場じゃないけどな……」
 俺はそう呟く。

 「捨てるものを間違うな……守り方を見誤るな……」
 そう目の前の男に告げる。


 余力など残すな……
 ありったけの魔力を右腕に結界として巻きつける。


 白に近い薄緑のオーラが俺の右腕にまとわりつく。


 地を蹴る……拳を振り上げ俺に突撃するアレフの身体をめがけその拳を振るう。


 ・
 ・
 ・



 正直……恋愛の対象として見たことはなかった。

 小さなころから親通しの交流のある、幼馴染……そんな関係だった。

 この学園に通い、あの先輩にあいつが夢中になった。
 その時は、正直に不思議な感情が芽生えた。

 あいつの事を守ってやるのは俺だけだ。
 守れるのは俺だけだ……たぶんそう思ってたから。

 
 先輩《そいつ》からは……悪い予感しかしなくて……
 悪いやつにしか思えなくて……
 それが嫉妬みたいな感情からくるものなのかはわからない……

 それでも、今更……彼女を助ける権利を取り戻そうと……

 抗った……でも結果は……身代わりになるしかなかった……

 それが間違いなのか……
 それが……見誤った守り方だと言うのか?

 俺の最善なんだよ……
 持つものにはわからねぇだろう……
 これが、俺の最善だ……

 ・
 ・
 ・

 「わかるさ……」
 俺もずっとずっと……その劣等の中を生きてきたんだ。

 それ以外のことを知らずに生きてきたんだ。

 だからこそ……その間違いを指摘してやれる。


 互いの全力の拳がぶつかり合う。



 激しい電流が結界を伝い俺の身体を襲う……
 が、発光するアレフの身体から電流が消滅し……
 俺の拳がアレフを捉える。

 アレフの身体が吹き飛ぶが……

 数メートル離れた場所で地に足をつき持ちこたえる。

 「刀技……牙閃《がせん》」
 クロハが再び地を蹴り、アレフにしかける。

 アレフは高く飛び上がると、その身体に再び最大の電力を帯びるが……


 「……修羅気迫……」
 クロハが漆黒のオーラを身にまとう。

 「秘技……八艘飛び……」
 クロハがそう言葉にする。

 アレフをめがけ飛び上がるクロハ……
 一度その身体を斬りつけ、上空でくるりとその体制向きを変え、
 透明な壁に足をつけると、それを新たな足場として蹴り上げ、
 再びアレフの身体を斬りつける。

 そして、落下したその先で再び俺が作り出す結界を蹴り上げ、それを繰り返し、
 クロハは四方八方飛び回り、アレフの身体を斬りつける。

 最後は上空からアレフの身体を地に叩きつけるようにスマッシュを決める。


 
 地に這い蹲りながら……
 稲妻が再びアレフに落ちる……が……
 一瞬帯電したその能力が……その身体が耐えられぬようにすぐに能力が解ける。

 「……だったら、何が正解だったと言うんだ」
 そうアレフが呟く。

 力なきものに……何ができた?
 どう抗うことができた……


 「何が正解か……間違いか……俺が言えた義理じゃないけどな」
 俺はそう前置きをし……

 「お前はとっくに諦めちまってるんだよ……裏《そっち》に屈してしまった時点で……お前はその何かを諦めてしまってるんだよ」
 俺はそうアレフに告げる。

 守ることを諦めた。
 
 「……その罪悪感から自己犠牲で彼女同様のそれ以上の苦痛で自分を正当化しているだけなんだ……それが悪いことだと言わない……そんな生き方は俺も良く知っている……でも、結局一緒に壊れることしかできない」
 俺はそうアレフに言う。

 「これだけ……(学園に)利用されて……今更……彼女は利用され続け……殺人鬼と呼ばれるほどの大罪さえ背負っている……今更……どうすれと……落ちる以外に何ができるって言うんだ」
 そう……地を這いアレフが言う。

 「別に俺はお前や彼女を裁くためにここに居るんじゃない……その罪を肯定するつもりもないが、裁くつもりはない」
 その俺の台詞に……

 「……なら、どうすると言うんだ」
 そうアレフは俺に返す。


 「……救うさ……裏《そこ》から……」
 その俺の言葉に……

 「あーーちくしょう、日差しが眩しい……」
 仰向けに倒れる、右腕で目元を隠し……

 「なんでだ……なんでもう少し早く俺の前に現れなかった……」
 そうアレフは俺に言う。

 
 「こんな形じゃなく……お前はきちんと友と呼びたかった……そんな関係になりたかった」
 そうアレフは目元を隠したまま言う。


 「なれるさ……お前がそう望んでくれるなら……」
 俺はそう返す。

 「……ラビ先輩……降参する」
 そうアレフが司会のラビに告げる。

 「アレフ……何を勝手に」
 そうミストが苦痛の顔をあげアレフに言うが……

 「負けたのも罪を背負うのも……俺だ……」
 そう自分の力で彼女を守れない不甲斐なさを感じながらもアレフがそうミストに告げる。


 「次鋒戦、勝者……チーム:コムラッド」
 そうラビから宣言される。

 トーナメント1回戦……2勝を取る。


 「1回戦……勝利チーム、コムラッド!」
 歓声とブーイングのような声が観客席から広がっている。


 ステージを降りる。
 セティが親指を立て、よくやったと言いたげに立っている。
 クリアも笑顔で出迎える。
 レインに関してはまるで自分の手柄だったかのように、腰に手をあて、胸をはって立っている。

 負ける訳にはいかないんだ……
 ライトたちが目的を達成するためにも……

 その結果がきっと……彼らをも救う結果になるんだと。