セティのおかげで、一勝を勝ち取る。
 後が無くなった相手チーム。

 さすがに自分が戦わずに終わる……訳にはいかない。
 ミスト=ダークがリングにのぼる。
 
 もう一人……同じくフードつきのマントを羽織っているが……
 その素顔をさらしている男。

 おそらく、前に俺を誘拐した時に居た男の一人。
 良くしゃべっていた奴だろう。


 黙って、クロハがステージにのぼる。
 少なからず因縁がある……

 俺にもクロハにも……

 俺も黙って階段をのぼる。


 「レス……ありがとう」
 そうクロハが俺を見てうれしそうに笑う。

 もちろんクロハが心配だ。
 ただ……それ以上に……


 「ひひひ……今度は逃がさない」
 ミストが言う。

 笑うミスト以上に……

 「……お前が来るか……できれば、やりたくなかったけどな」
 そうもう一人の男が言う。

 ……本当は気づいていたんじゃないか。

 誘拐された日……あの日気まぐれに俺に話しかけてきた時と……

 本当は気づいていたんじゃないのか……


 金髪の優男……1年B組……


 「アレフ=スパーク……」
 俺がその名を呼ぶ。


 「俺が裏《こっち》側だったのがそんなに不服か……レス」
 そうアレフが俺に言う。


 「持たぬ者は……落ちるしか無いのさ……」
 そうアレフが冷たい目で笑い……

 「落ちてもなお、得られるものが無かった者は……どうなるんだろうな」
 そう人事のようにアレフは笑いながら言う。


 「お前らがそこまでして……裏《そっち》に利用される理由はなんなんだ」
 そう俺はアレフに尋ねる。


 「さてね……貧民が富豪になりたいってのは人それぞれだろ」
 アレフはそう返すと、黙って身構える。

 「それでは、次鋒戦……開始っ」
 ラビの掛け声と同時にアレフが俺に突っ込んでくる。

 振り上げた腕に激しい電流が帯電し、その拳を一気に振り下ろす。

 俺も結界両腕にまきつけるとそれを防ぐ。

 強い電流が俺の結界に伝染するように強い電流が帯電している……

 おそらく……あの俺が彼と彼女に誘拐された日……

 あの日よりも、アレフもミストも魔力が強くなっている気がする。


 「火事場の馬鹿力ってあるだろ……」
 唐突にアレフが俺に言う。

 「魔力ってのはさ……たいていの奴は、実際発揮している魔力よりも滞在している魔力ってのは高いのさ」
 そう俺に説明する。

 「例えば俺のような電流を操作する能力……現在の所持している自分の耐性で耐えられる魔力しか本能的に開放されていない……自然に限界値ってのが設定されてるんだけどな、その糧を取り外して、強制的に限界値を調整する、そういうことを裏《おれ》たちはやっている……」
 本来レベル10で習得する魔法を、レベル1で使っている……そういう訳か。

 さらに電流を両腕に巻き……若干苦しそうにするアレフ。


 「……だが、それって……自分の身を削って能力を開放しているってことだろ?」
 そうアレフに言う。

 「……凡人以下が、秀才に勝つにはそれ以外に方法なんてねぇだろ?」
 そうアレフが答える。

 

 ・
 ・
 ・



 この学園に入った頃……

 「この子のことお願いね……」
 そう彼女の母親に頼まれた。

 幼馴染……みたいな関係で……別にそれだけだった。
 凄くおとなしい性格で……

 素直になれない俺は、少し不機嫌そうにそれでも二つ返事をして……
 そんな彼女は少し申し訳なさそうにそれでも、俺の少し離れながら隣を歩いていた。


 
 「……なに、してるんだ?」
 数ヵ月後……
 なんだか、彼女の様子がおかしくて……俺は彼女の後をつけた。

 見知らぬ3年生らしき男子生徒と歩く彼女。
 少し照れくさそうに笑い……

 別に……彼女が幸せならそういうことでも……いい……そう思った。

 そう思いながらも……そんな自分に自己嫌悪を覚えながらも、
 彼女と3年の男子生徒が入って行った、普段踏み入れない旧校舎の奥の教室。

 俺は……その教室の中を盗み見た。


 「なに……してるんだよ」
 謎の機械を取り付けられ、苦しんでいる彼女……

 「……彼女の真の能力を開花しているんだよ」
 そう男が言う。

 「……なんのために……おいっ、ミストっ!」
 俺はそう叫ぶが……苦しむ彼女の声でそれは閉ざされる。

 「彼女が望んだ……邪魔をするな」
 そう男が返す。

 「うそをつくな……」
 彼女はこんなこと……俺は知っている……
 彼女は弱くて……こんなこと……望んでなんて……

 「……どうする、ミストやめるかい?」
 優しく男がミストに尋ねる。

 「へ……平気です……先輩、わたし……頑張りますから……先輩……わたし……」
 そう、ミストは必死に笑顔をつくり、答える。

 「やめろっ……やめろと言っている」
 俺はそう言って、教室の中に踏み入る。


 俺は電流を両手に巻きつけると、ミストに取り付けられている機材を破壊するように取り外す。

 3年のその先輩はそんな俺を止める訳でもなく……冷たい目で見ている。


 「……なにするの、アレフ」
 ミストがそう俺に言う。

 「なに……するって、お前を助けに……」
 そう返すが……返すミストの眼差しがあまりにも想定外で……言葉が続かない。

 「……もう、いいの……先輩がね……わたしのこと助けてくれるんだ」
 そう嬉しそうにミストが照れくさそうに笑う。

 「……なに言って……るんだよ」
 そんな俺の言葉に。

 「どうする……ミスト、ぼくは別にこれ以上強要はする気はないよ」
 ……であれば、用済みだと男の目はそう告げている。

 「続けて、先輩……続けてっ」
 見捨てないでと……必死にその拷問のような行為を受け入れる。

 「なに言ってる……この人が助けてくれるならなおさら、こんな事必要ないだろっ」
 俺のそんな声に……

 「私も……先輩の力になりたいの……先輩の……だから、邪魔しないでよ」
 そう……言葉を突きつけられ、思わず膝から崩れ落ちる。

 「……俺が、守る……お前を俺が守る……お前の母親にもお願いされている……俺がお前を……」
 そう俺が彼女に言うが……


 「今更……遅いよ……」
 そう彼女が返す。

 「勝負……するか?」
 男が俺に言う。

 「ミストを守るのがどちらが相応しいのか……」
 男が俺に言う。

 両手に激しい電流が流れる……

 「あーーーーーーーーーーーっ!!」
 俺はそう叫び先輩に突進する。


 目が覚めた。

 自宅の天井。

 自宅のベット。


 呆気なく……

 平凡……それ以下……そんなことはとっくに自覚している。

 それでも……どこかでアイツを見下していたのだろう。

 そんな俺でも、彼女を守れる……支えられるそうどこかで自惚れていた。


 そりゃ……自分よりも強くてかっこいい王子様が現れれば……

 当然の結果だったのだ。


 遠慮がちに俺の隣を歩く彼女……
 手を伸ばす……
 今更、過去はその手をつなぐ事は許さない……

 伸ばした手を曲げて、自分の両目を隠すように視界を閉ざした。

 流れる涙を隠すように……

 自分の無力を呪い……

 そんな……自分より底辺に居た彼女を救ってやるのは自分なんだとそんな卑劣な考えの自分を今更呪い……


 次の日も……また次の日も……
 彼女を取り戻そうと……そのたび……自分の無力さを知る。


 いつもの旧校舎の教室……
 抗うことにも少し疲れ果てて……


 「ひひひっ……ひひひ……」

 次第に壊れていく彼女の様子に……

 絶望と自分の罪の感情が押し寄せて……


 「頑張れ、ミスト……まだ……まだ足りない、お前の力をもっと引き出してくれ」
 そう先輩がミストに言う。

 「ひひ……はい……先輩」
 ミストが頬を赤らめ、その期待にこたえようとする。


 「……もう……やめて……くれ……」
 壊れていく彼女を見るのが辛くて……
 とっくに俺は同様に壊れていて……

 「……彼女じゃなくて……いいだろ?」
 そう俺は先輩に言う。

 お前が欲しいのは、その実験による成果だろ?
 実験体に彼女を利用しているのだろう?

 だったら……

 俺は顔をあげ……虚ろな目で前を見る。

 「もう……やめてくれよ……」
 そう乞う。


 「どうする……ミスト」
 先輩はいつものように……その時だけミストに甘い声を聞かせ……

 「大丈夫……私は大丈夫……ひひひ、ひひひ……」
 そうミストは返し……

 「もう……やめて……くれ」
 俺はそう繰り返し……

 再び彼女からその機材を取り外し……

 「おまえ……」
 「アレフ……?」
 そう二人の少し戸惑う声がする。


 取り上げた機材を自分に取り付ける。


 「代わりに……俺が……やるから……もう……やめろよ……」
 凡人以下が……彼女を守る方法……

 守れる方法……

 身代わりになる……それ以外に何がある?

 
 ……いい……

 壊れたっていい……

 てめぇらの作り上げた、この機械で……

 俺はその糧というものを外し……

 文字通りに、この身を削って……


 てめぇら秀才に復習してやる。

 この力で……学園のトップに立ち……

 ……だから、もう少し待ってろ、

 ミスト……お前は、お前らしく……

 あの日のままずっと暮らしていればいい……


 ・
 ・
 ・



 「代わりに……俺がやってやる……」
 アレフが全身に電流を帯電させる。
   
 額に汗を浮かべながらもその状態を維持し俺に突進する。

 両手の結界で防ぐも、激しい電流の帯が鞭のように防御の薄い部分に襲い掛かる。

 アレフが手を伸ばす……

 俺の結界を越えようと……

 過去にいろんなものをつかみ損なった手を伸ばす……


 「……今の少ない会話で全部わかった……というつもりはないけどよ」
 そんな、彼の過去を俺は知らない。
 知らされたからといえ……俺が何かしてやれる訳でもないのだろう。


 「……届かないだろ」
 俺のその台詞に少しムキになり、俺の結界を突破しようとするが……

 「手を伸ばす方向……まちがってんじゃねーか?」
 俺はそうアレフに返すと……
 少し戸惑ったように力が弱まる。

 「間違ってなんて……この大会で勝ち進み、アイツもこの手で……俺が倒す……倒す、俺がっ!!」
 さらに魔力を上げ、右腕に電流を巻きつける。

 「くっ……」
 俺も魔力をあげ、それを耐える。


 「……小鴉《コガラスマル》抜刀……」
 隣の二人も動き始める。

 「ひひ……ひひひ……」
 ミストの周りから黒い瘴気のようなものが漂い……

 周囲が闇を取り巻く……


 「裏《やみ》を払ってやる……」
 俺はその包まれる闇の中で呟き……

 「わかるさ……凡人以下の言葉は凡人やその上の奴には届かない……その言葉は全て甘えとしか捕らわれない……手を伸ばした所で誰もその手を取ってなどくれない……そのくせ、必死に抗う手段をイカサマだズルだとそう罵るだけだ」

 そう俺は過去の自分を見つめながらそう呟く。


 「今の俺にそんな資格があるのかわからないけどな……」
 抗え……手を差し出せ……
 お前は十分に頑張ったんだ……

 世界は残酷だ。
 誰も何も教えてくれない。
 誰も他人のことに責任を取りなどしない。

 持つもの持たぬもの……すでに不平等な世界でさえ……
 人がそれぞれ果たすべき義務は平等でなければならない……

 暗闇の中……対峙する。

 互いに……互いの義務を果たす。

 負けられないんだ……俺も。


 そんな……お前の取り巻く環境も全部、全部、ぶっ壊してやる。