10年前……

 同じ師の元……その刀術を習っていた。
 当時8歳であった、クレイ=ブラッド、私と。
 1つ年下のツキヨ=アリアケ。


 確かあれは……何かの祭りの日だっただろうか。
 
 「ねぇ、クレイ……あの縫いぐるみ可愛いよ」
 私の手を引っ張るようにツキヨがその場所に導く。

 迷惑そうな顔で半場強引に引きずられていく。

 祭りの景品……店主の剣術を見せびらかせたいのだろう。
 そんな店主とのチャンバラに勝てばその景品が貰える。

 見世物の内容との景品のギャップが突っ込み所満載だったけどな。



 「参った」
 店主の腕自慢を負かせ、奪い取った景品をツキヨに渡す。

 「凄い、やっぱクレイはカッコいい、わたしもクレイみたいになりたいっ」
 嬉しそうに縫いぐるみを抱えてツキヨは笑って言った。

 
 ……なんにも知らないくせに。
 なんにも……わたしが何者なのか……
 知らないくせに。


 翌年……

 「参った……」
 こりずに祭りで見世物として得意のチャンバラをしていた店主。

 ツキヨは見事に負かし、その景品を今度は私に渡してよこした。

 彼女への嫉妬と期待が混在したような気持ち。

 師も言っていた。
 センスは私よりも上だと。
 それには、素直に嫉妬した。

 それ以上に期待もした。
 その期待が何の期待だったのか……

 彼女が笑えば笑うほどに……
 彼女が私に憧れれば憧れるほどに……

 それは遠ざけるべきモノなのだと……そう解釈した。


 ……何もしらないくせに。

 ……わたしの中に入り込むな。

 ……わたしの決意を鈍らせるな。

 ……あんたはこっちに来るな。


 ・
 ・
 ・


 「百鬼夜行《ひゃっきやこう》……」
 そうツキヨが呟くと、闇のフィールドが広がり、地からツキヨの影が産まれる。

 「させないっ!」
 リルトが一瞬でツキヨの本体の正面に駆け寄ると、
 激しい蹴りのラッシュを浴びせる。

 何発かを回避するが……その一撃を受けると、
 闇のフィールドが消え、影は溶けるように消えていく。

 
 「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」
 クレイの紅姫から紅の刀風が飛ぶ。

 「……舞散れっ、残桜《ざんおう》ッ」
 ツキヨがあえて、その刀風を残桜で突破し、クレイと鍔迫《つばぜ》り合いに持ち込む。

 「……まったく、この紅姫の火力にもう、追いついてきたというのか」
 そう……冷たい目をツキヨに向ける。

 「……あんたみたいな嫉妬《センス》の塊……が誰に憧れていたって?」
 そうクレイは言葉を投げ捨て、リルトに付与されたスピードで一気にツキヨとの間合いを取り直す。


 紅姫の刀を右手に握り横に刃を上に向け持つ。

 左手を刃に乗せ……ゆっくり引くと血が流れ出す。

 「その名を叫べ……紅桜」
 流れる液体を刃が飲み込むように吸収し……

 薄紫色の瘴気が強くなり……


 「☆■×★〇ーーーーーーーッ」
 刀から言葉にならない不快な音《さけび》が響く。

 
 「……舞散れっ、残桜《ざんおう》ッ」
 再び、リルトに俊足を付与されたクレイが一気に場をつめる。
 俺のはった結界がツキヨを守るが、


 「喰らえ、紅月っ」
 突いた刃が結界を破り、ツキヨの身体を捕らえる。

 斬撃が衝撃に変わりツキヨの身体が吹き飛ぶ。

 「……半端な魔力じゃ防げないか……」
 人の血を喰らいその鋭さを増す刀……か。

 「……舞散れっ、残桜《ざんおう》ッ」
 再びクレイが刀を構える。
 ありったけの魔力をツキヨの前の結界につぎ込む。


 「……ぐっ!?」
 一瞬で俺の前に来たクレイが俺にその刃を叩きつける。
 場外まで一直線に吹っ飛ぶ俺の身体。

 場外直前で、自分のはった結界にぶつかり、ずるりと落ちる。

 「しぶといな……」
 そうクレイが俺に吐き捨てる。


 情けないなぁ……
 お前に期待する……だから俺に期待しろ……だって?

 この様で誰が俺《てめぇ》に期待する。
 
 あー、全く俺は何を勘違いしていた?
 元々……俺はこの程度の男だろ?
 異世界に来て夢を見て……何か特別だと勘違いしていたのか?

 くだらない……

 「おぃ……レスっ」
 フラフラで歩いてきたツキヨが俺の肩を掴む。

 「てぇっ!?」
 左の頬を思いっきり殴られる。

 「あんた……勘違いしてないか?あんた一人が私を守っているつもりか?」
 そう俺を見下ろしツキヨが言う。

 ……その言葉に何の意味を含んでいるのかは多くは語らない。

 突き放されたのかと……正直思ってしまった。

 「立てよ……じゃないとあんたを守れない……私はあんたの護衛だ……あんたは私が守るよ、そして、あんたは死ぬ気で私を守ってくれるんだろ……あんたと私の信頼なんてそれぐらいチグハグで丁度いいよ」
 そうツキヨが笑いながら言う。

 そして、ゆっくりツキヨは自分の刀を鞘に納める。

 「なんで……裏切るような形で私の前から姿を消したのかとか……可愛い縫いぐるみをずたずたにされた恨みとか……それほど気にしちゃいない……あんたに憧れて剣術を勉強して……勇ましい性格を目指したとか……そういうのも、もうどうでもいいか」
 ツキヨは吹っ切れるように……


 「呪え……まさむね」
 そう呟き再び刀を抜く。
 紫色に変色した刀。


 黒い瞳の中央に赤い光が灯る。

 
 「名を叫べ……紅桜」
 その異変に気づいたクレイは再び自分の血を刀に吸わせる。

 全く持って……彼女の言うとおりだ。

 俺はゆっくりと起き上がる。

 俺の力で彼女たちの力を最大限に生かす……そんな自惚れでもしていたか?
 彼女たちは彼女たちで俺がどうこうするまでなく強いんだ。

 だったら、それを信用して俺はただ……できるサポートをしていればいい。

 血を喰らい最大限に能力を開放された刀とリルトがサポートする瞬発力の高い攻撃を俺の結界で防ぐ。

 すべての技を捨て、身体能力を最大限に開放したツキヨの攻撃をリルトの魔力で高まった瞬発力で回避と攻撃を繰り返す、それを俺の結界が防ぐ。

 繰り返す。

 俺ができること……。
 あの……スピードに俺が唯一抵抗できる手段。

 あのスピードを逆手に取れ……。

 防御しか能のない俺の能力で……できること。

 利用しろ。


 「その名を叫べ……紅桜」
 さらにクレイはその血を与え……決着に持ち込もうとしている。

 血を吸わせすぎたせいだろう……その身体の負担も相当なものだ。

 チャンスは一度だ。

 そのスピードは多分制御できない。

 今の彼女にはきっと……それを予期できない。


 ツキヨ……俺を信じろ。

 俺もお前を信じる。


 リルトの魔力を足にまとうとクレイは高く飛び上がり、
 そして、そのまま頭からツキヨに向かい急降下する。

 ツキヨはその場から一歩も動かず刀を構え、クレイの到着を待つ。

 俺を信じ……その身を一歩も動かさず……

 俺を信じてくれると信じ……



 「ぐっ!?」
 クレイの身体が急降下の途中、透明な壁に最大出力で頭から激突しそのまま地面に落ちた。


 「クレイさんっ!!」
 リルトがそう叫ぶ。

 ラビのカウントが続く……

 そして0を告げた。



 「勝者、ツキヨ選手、レス選手!!」
 ラビの声が響き渡る。

 
 少しだけ時間を置いて……ゆっくりとクレイは上半身を起こす。


 「クレイさん」
 リルトが彼女に駆け寄る。

 「……去れ、お前は期待外れだ」
 少し悲しそうにそうクレイはリルトに告げる。

 「……もっと……頑張ります……次はもっと、もっと頑張ります……あなたの期待に答えられるよう、もっと頑張ります」
 そうリルトがクレイに告げる。

 「……馬鹿なのか……私はお前を利用していた……馬鹿なのか?」
 そう悲しそうな顔で罪を告白する。

 「……知ってます……」
 そうリルトは返す。

 「……僕は馬鹿ですから……」
 リルトは涙を流しながら笑い……

 「だから……僕を死ぬまで騙し続けてください……」
 そうクレイを抱きしめる。


 クレイは天を仰ぎ、流れそうな涙をせき止める。

 「……騙すにも値しない……さっさと去れ」
 きっと本心ではないその言葉。

 「ずっと……逃げるだけの人生だったんです……ずっと惰性するだけの人生だったんです……そんな僕がたった一つ、見つけた場所なんです……そんな僕を騙《いか》す言葉をくれた人なんです……」
 そうリルトはクレイに言う。

 「騙されている……その言葉の意味を理解しているのか……それがお前を生かす理由になるのか……私は自分の目的のために……・・・の代わりにお前を利用した……のだぞ」
 必死にリルトに嫌われようとする。

 「……僕が騙され続ければ……それは真実と変わりません……僕がここに居る理由は変わりません……無能な馬鹿が、貴方の期待に答えたいと……ただそう思っているだけです……だから……」
 泣きながらしがみつく男の頭をそっと押さえ込む。


 「お取り込み中わりぃな……」
 裏生徒会のもう一人が気がつくとその場にしゃがみこんでいる。

 「わりぃけど、続闘ね?」
 そう、レイフィスとクレイと一緒にいたもう一人の女が俺を指差す。

 「……それは、そうと……だっせぇ負け犬の処分をしないとね」
 そうクレイを睨む。

 静かにクレイも睨み返すが、この激闘の後だ……
 

 「……死ねよ」
 そう女はクレイに言うと……

 「くっ」
 咄嗟に俺は彼女たちの間に入ると繰り出された魔法のようなものを防ぐ。

 「……なんのつもりだ」
 クレイがそう俺に問う。

 「あんたには……あの縫いぐるみを直してもらわないとならないからな」
 そう、ラビの持つ縫いぐるみを指して言う。

 「邪魔するなっ」
 女がそう言ってさらにクレイに向かい何かをする。
 咄嗟に俺は彼女をその場から突き飛ばし彼女の場所に立つ。

 何が起きたかわからなかった。

 俺の身体は上空に浮かんでいて……
 地面に真っ逆さまに落ちている。


 が……不意に大きな影が俺の視界を塞ぎ。

 落下する身体は何かに支えられ、俺でない誰かの足が地に着き着地する。


 「連戦……というなら、彼女《ツキヨ》の変わりに俺が受け持とう」
 俺をお姫様抱っこしている何者かが言う。

 俺はようやくその誰かに目を向ける。
 茶髪の好青年。

 「ヒーロータイム……」
 そう茶髪の男は言葉にすると……
 そのイケメンの顔を覆い隠す鎧を身にまとう。

 「ナイツ=マッドガイア?」
 俺はその名を呼ぶ。


 「この前の雪辱……忘れてはいない……だが、英雄《ヒーロー》として、目の前の悪を放置できない……不本意ながら助太刀する、友よ」
 そうナイツが俺に言う。

 ……いろいろ他にいいたいこともあるが、


 「……取りあえず、俺を地に下ろしてくれ」
 お姫様抱っこを続けるナイツに俺はそうお願いした。