翌日……正午。
 話を聞きつけた生徒が闘技場の客席に足を運ぶ。

 同クラスのレイン、リヴァー、クロハ、ヴァニの姿もある。

 別の場所には、ライト、アストリア、スコールの姿もある。

 
 そして、別の場所……
 レイフィスの数名の姿……
 ミストと裏生徒会としてレイフィスとクレイと一緒にいた、
 もう一人の姿もそこにある。

 
 お馴染みの2学年のラビが司会と審判としてリング中央で待機している。

 ゆっくりとツキヨと共にそこに歩いていく。

 逆側の階段からリングにあがってくる女性と男性。

 クレイ=ブラッドと……初めて見る男。

 白髪の少し細身で見た目は少し頼りなさそうにも見える。


 「どうも……2学年B組、リルト=アジリティです」
 ペコリと頭を下げ自己紹介する男。
 
 「……リルト、無駄口はいい」
 クレイが割ってはいる。

 「ツキヨ……あんな女の子らしかったあんたがね……私の容姿を真似たりして勇ましくなったつもりなのか」
 そうクレイがツキヨに蔑む目で見る。

 「昔話でもしたいのか……闇に落ちたあんたなんて、もう尊敬なんてしてないよ」
 そうツキヨは返す。

 「そう……言うな、あんたから貰ったこのぬいぐるみ、大事に今日までもっていたんだ」
 そう言って、ひとつのぬいぐるみを取り出して……

 「ツキヨ、あんたが昔にくれたものだ、大好きな私と共有したいってくれたもんだったよな」
 見下すような目で見下ろし……それをずたずたに引き裂く。

 「あーどうした、ツキヨ?昔のあんたなら泣いて怒ってるんじゃないか」
 見下すような目で……


 「つまんねぇ…って」
 ぼそりと俺が言う。

 「なんか言ったか一年?」
 クレイが俺に向かって言う。

 「つまんねぇってんだよ」
 光の無い瞳でクレイを睨み付け言う。


 俺は引き裂かれたぬいぐるみを拾い上げる。

 「悪い、持っててくれ」
 
 「は……い」
 ラビが俺からそれを受け取り思わず二つ返事する。


 「理解しろなんて言わない……」
 そう俺は再びクレイを睨み付け……

 「好きな人と好きなモノを共有したい……それくらいわかってやれねぇのか?」
 この手の奴だけは許せない。

 「……くだらないな、結局なんだというのだ」
 そう見下す目を今度は俺に向ける。


 「てめぇが許せない……そう言ってるんだよっ!」

 ラビの開始の合図と同時に、俺は結界を両腕に巻きつけ、問答無用でクレイに殴りかかる。
 が……一瞬で目の前からクレイの姿が消える。

 「あぶない、あぶない……意外と野蛮だなぁ、でもクレイさんも挑発しすぎですよ」
 そうリルトがクレイを抱え移動している。

 駿足……的な能力だろうか。


 「……咲け、初桜っ」
 ツキヨが桃色の刀を抜刀する。

 「あんたが私のために怒る必要はない……ケジメくらい自分で取れるくらいにはあの日から大人になったさ」
 そうツキヨは言って、俺の前に立つ。


 「ふん……見せてもらおうか……抜刀、無銘刀《むめいとう》」
 変哲も無い普通の刀が抜かれる。

 ……裏生徒会に任命されるほどの者だ……

 きっと何かあるだろうとは……思うが……


 「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」
 桃色の桜の花びらの光がこぼれ落ち、鋭い刀風に姿を変えると一気にクレイに向い飛ぶ。

 涼しい顔で、普通の刀を振るいクレイは受け止める。

 リルトの両手が黄緑色に光ると、同時にクレイの両足が光輝き……

 「「!?」」
 一瞬でツキヨの前にクレイが現れる。

 咄嗟に俺が作り出した結界で繰り出された一撃を防ぐ。


 再びリルトの手が光ると、今度は自分の足が輝き……

 「くっ!?」
 両腕に巻いた結界を顔の前に動かし、繰り出された蹴りを防ぐ。
 駿足として両足にまとった魔力……
 それなりに攻撃としての能力も備わっているようだ。

 「悪いけど……負けられないよ……」
 リルトがそう呟き……

 「期待されているんだ……こんな僕が、クレイさんから」
 そう俺を睨み、さらに蹴りが繰り出される。
 すばやい攻撃を何とか防いでいく。


 ・

 ・

 ・



 1年前。

 この学園に入学して数日……
 戦闘能力が控えめな能力とこんな性格のせいか、
 ガラの悪い奴らに目をつけられた。

 それでも、この能力のお陰で僕はそれを避けて生きてきた。

 スピードだけなら大抵の能力者には負けない。


 だが、ある日……ガラの悪い連中に取り囲まれていた。

 いろんな能力者がいる……

 そんな能力者が集まれば僕なんて人間を追い詰めることなど、

 そこまで難しい話ではないだろう。


 調子に乗っていた……からかもしれない。
 幾度も殴られ、何度も意識を失いかけた。

 どうして……なぜ……?
 自分がこんな目にあわされている意味がわからない。

 流す涙もかれて……

 助けを呼ぶ叫び声をかれて……

 絶望の感情だけが支配して……


 もう、何もかもがどうでもよくなって……


 「大丈夫か?」
 その言葉でやっと気がついた。

 赤茶色の髪……知的な眼鏡。

 たった一人のクレイさんだけが……そんな僕に手を差し伸べてくれた。


 裏生徒会……それが何なのか……僕は良く知らない。

 クレイさんに誘われ、僕は……そこに足を踏み入れた。

 ……利用されている?そうなのかもしれない。

 でも……それでも……

 産まれてから……いつも一人……期待などされたことなどない……

 そんな僕に……


 「リルト……あんたに期待しているよ」

 そうクレイさんは僕に言ってくれた。

 例え……嘘だったとても……騙されているとしても……

 僕はそれに答えたいんだ。



 ・

 ・

 ・


 「期待に答えるんだっ」
 リルトの両足が輝くと、高く飛躍する。
 上空に飛び上がり上空から一気に加速するように飛び蹴りを繰り出す。

 結界を巻きつけた両腕を顔の前でクロスさせてそれを防ぐ。

 少し両足を地面につけたまま後退するが持ちこたるが、
 さらにリルトの蹴りのラッシュが続く。

 「……嫌いなんだ」
 俺はぼそりとそうリルトに言って……

 結界をまき付けた拳と駿足の魔力を巻きつけた蹴りがぶつかり合うと、
 リルトの足の魔力がかき消される。

 「期待……って言葉……嫌いなんだよ」
 俺はそうリルトに告げる。

 「……なにを?」
 そう、リルトは言う。

 「期待って言葉は……一方的なんだ……」
 そう俺の言葉に……競り合っていたツキヨとクレイも目を向ける。

 「散々、何かに期待した人間の戯言だけどよ……言えた人間じゃないんだけどよ……だからこそ……俺は、ここに来る前の世界が嫌いでさ……ずっと、ずっと何かが変わってくれる、これまで不幸だった分、何かが変わってくれる、報われるってずっと……期待していた」
 俺はそう何かを思い返すように……

 「結果……何も変わらない……結局、自分が何かしねぇと……何も変わらない……それを知っただけで、何も返られなかったんだけどな……」
 そう俺はリルトに言う。

 「僕は期待するんじゃない……期待に答えるんだっ」
 そうリルトは返す。

 「……期待したって……何も変わらないんだ……期待に答えたって……それが、何のためになる?期待するだけの人間は……何もしない、何の努力もせず誰かに甘え……その結果だけを得ようとするだけだ」
 それが、前の世界での俺の教訓。

 「……違うっ!団体戦……チームに仲間に期待する、信じる……それが無駄だと、お互い努力して期待しあう、それが無駄だと?」
 そう少しリルトがムキになり返す。

 「あぁ……違う……仲間同士、互いに努力し期待しあうことができれば、それは立派な信頼だ……昔の俺や、今のお前が答えようとしている期待とは全くべつものだよ」
 そう、俺は返すが……
 
 聞く耳なしか……

 再びリルトは魔力を両足にまとい、一度俺と距離をとる。


 「ほんと……年下には思えないよなあんた」
 俺にだけ聞こえるような声で、ツキヨが言う。


 「遊びは終わりにしよう……」
 クレイはそう言い……
 無銘刀を目の前に構えると、

 リルトはその刀身を強く握ると……

 手のひらから血が流れ落ち、刀身にリルトの血が滴る。

 「無銘刀……その名を明かせ、紅桜《べにざくら》」
 刀が紅色に変色する。
 その刀の刀身から薄紫色の瘴気が漂う。

 「「……散れっ、徒桜《あだざくら》ッ」」

 クレイとツキヨが同時にその技名を叫ぶ

 「!?」
 相殺されるかと思ったが、クレイの放った技が打ち勝ち、ツキヨにそのまま襲い掛かる。

 ツキヨの前に結界をはりそれを防ぐ。

 「憧れだけで、私を超えられると思うな」
 そうクレイがツキヨを見下すように言う。

 「「……舞散れっ、残桜《ざんおう》ッ」」
 再び二人同時に叫ぶが、寸前でクレイの両足にリルトの駿足の魔力が送られる。

 ツキヨが地を蹴り動き出すのと同時に、すでにクレイがツキヨに迫りその一撃を加える。
 再び俺の結界で攻撃を防ぐが……

 「……舞散れっ、残桜ざんおうッ」
 そうクレイが再び技名を叫ぶ。

 てっきりツキヨに向けられると思った一撃は……俺の身体をとらえる。
 
 「ぐっ……つぅ」
 多少……結界をはったが、かなりモロにその一撃を喰らい、身体がリング上を転がる。

 「レスっ」
 そう心配そうにツキヨが叫ぶ。

 ……自称だが、ツキヨの憧れの先輩を名乗るだけの存在だということか。

 ……突破口を探せ……

 ツキヨと協力して……何ができる。

 防ぐことしか能がないんだ……悪い頭で考えろ……

 
 期待……するな……よく言えたな。

 世界は何もしてくれない。

 人は誰かに勝手に期待するだけだ。


 何かをする……何かを成し遂げる……

 そんな期待に答えるのは自分自身だ。


 それを誰かに期待するなら……それ相応の期待をされろ。

 そこで初めて信頼が産まれる。

 ただ、己を正当化したいだけかもしれない……それでも。


 「全く……偉そうに言えるがらじゃないんだけどな」

 ツキヨ、期待……している……。

 だから……俺に期待してくれ……。