……ミスト=ダーク。
 街で殺人鬼と呼ばれている。
 そんな奴までもがこの学園の生徒だったというのか。

 学園の闇……か。
 そんな奴らが3人……
 そんな奴らを彼女1人に相手にさせる訳には。


 「……まったく、別人格になるみたいで好きじゃないんだよ」
 そう……ツキヨは1人呟き……

 「……レス……今日のわたしのことは他言するんじゃないよ」
 そう俺に忠告し、刀の柄に手をかける。


 「なにをぶつくさ言っている」
 そう3名が構える。


 「呪え……まさむね」
 そうツキヨは呟き柄を抜く。

 「!?」
 暗闇の中で……ツキヨの抜いた刀が光輝く。
 いつもと同じ、初桜と同じ鞘から抜いた刀のはずだ。
 だが……抜かれた刀の刃はいつもの桃色ではなく……

 紫色の刀身……。
 
 彼女の黒い瞳が真っ赤に変化する。


 「簡単に死ねると思うなっ!」
 そうツキヨは不適に笑みを浮かべ、一気に距離を縮める。

 「ひひひっ」
 ミストは得意の笑い声を響かせると……
 ようやく、少しだけ目がなれた暗闇にさらに闇の霧を作り出す。

 闇につつまれると、俺とツキヨの二人だけを残す形で、
 他の3名の姿が消える。

 投擲がツキヨに向かい飛び交う。

 それらを回避、刀で弾き無効化する。

 「フンッ!」
 ツキヨは不適に笑うと、刀を持つ逆の左手を左に突き出すと、
 闇の中近寄ってきた1人の男の首を締め上げるように持ち上げる。

 飛んできた投擲をその男の背中で防ぎ、用がなくなったようにその身体を投げ捨てる。


 「どうした?学園の闇ってのはこの程度の闇か?」
 そうツキヨが挑発する。

 次にツキヨが右前方に刀を払うと、もう1人の男に命中したようだ。

 「紫月紫光《しげつしこう》」
 ツキヨがそう呟き、右手を突き出し刀を横に構える。

 前に突き出した手を自分の右に突き出すようにすばやく動かす。

 斬った空間から、薄紫の一閃が広がり……
 闇が剥がされるように、ミストの姿が現れる。

 「ひっ……」
 ミストが恐怖の声をあげる。

 「さて……どう遊んでやろうか」
 そう真っ赤な瞳がミストをにらみ付け、紫色の刀身をミストに突きつける。


 途端、廊下から物音がする。
 ツキヨはその真っ赤な瞳を廊下に向けると……

 「ちっ……」
 低く舌打ちをすると……瞳の色が黒に戻った。

 「レスっ……無事かっ!!」
 スコールとヴァニが同時に教室に入ってくる。
 その頃には、ツキヨは刀に鞘を収めていて、

 3名の俺を誘拐した生徒達は窓ガラスを突き破るように外に飛び出した。

 遅れて、リヴァーとクロハも現れる。


 なるほど……クロハがリヴァーに助けを求めてくれて、
 俺の居場所を突き止めたのか。

 で、リヴァーとの会話を聞いていたスコールが共に助けに来てくれた訳か。

 とりあえず、ヴァニが一緒にいるのは不思議だが、そこは考えないでおく。


 「あぁ……おかげで無事だよ」
 余計な事は言うなという、ツキヨの無言の圧を受け俺はそれ以上の台詞は飲み込む。

 「……なぁ、ツキヨ……あんたは誰かの護衛はしてるの?」
 俺はそう彼女に尋ねる。

 「……どうした、突然?」
 その質問の意図が読めないように、ツキヨが俺に問い返す。

 「もし……居ないのなら、しばらく俺の護衛をやってもらえないか?」
 そうお願いしてみる。

 「はぁ……?」
 まゆの間にしわを寄せ、その質問の意図を理解できない様子だ。

 懸念……
 少なくとも彼女は俺のせいで、学園の闇に深く関わってしまった。

 もともと、彼女が学園側の邪魔者リストに入っていたにしろ、
 今回の件で、直接彼女に危険が及ぶ確立はあがるだろう。

 俺も同じことなのだろうが……
 1人よりは2人……

 しばらく、お互いの身を案じるべきではないだろうか。
 と……そう考えた。

 彼女は確かに強い。
 あの、本気を開放した彼女なら心配する必要はないのかもしれないが……

 この学園……その闇。
 まだ、知れぬ闇が潜んでいるのだろう。

 「……将来的に、護衛職につくつもりも無かったが……」
 俺の意図を読んだのか、他の意図があるのかはわからない……

 「今回の件もあってか……少しの間っていうのなら……」
 そうツキヨは返すが……

 「しかし、報酬は?」
 そうツキヨが俺に問う。


 ……確かに俺が払えるお金は無い。
 
 「……何か、稼ぐ方法を教えてもらって、少しずつ払うよ」
 そう俺が返す。

 「俺が立て替えてやってもいい……が……何かあれば俺が守ってやれる」
 そう、自分を頼るようスコールは言うが……

 「いや、レス、俺がっ」
 ヴァニも横から入ってくるが……


 「悪いけど、レスに最初に護衛の以来を受けたのは私だよ」
 ツキヨはそう、その権利を主張する。


 俺はようやく解放されると、
 クロハとヴァニと別れ……

 スコールとリヴァーそして、ツキヨとアクア邸に帰る。


 夜も遅く、自分に与えられた寝室に戻るとベットに突っ伏す。


 「どういうつもりだ……」
 自分一人だと思っていた。
 さすがにびくりとしてその声の方をみる。

 黒い髪……ポニーテール。
 ツキヨがいつの間にか俺のベットに腰をかけるように、
 突っ伏す俺の顔を見下ろしている。

 「……あんた、強いし……フリーだったみたいだから」
 俺はそう返すが……

 「本当に……」
 そう、黒い瞳が俺を覗き込む。
 
 「本当は……わたしを助けようとか思っているんじゃないのか」
 そう……俺の心の中を覗き込むように……

 「……それもある」
 あえて、隠すこともなく俺はそう返す。

 「そっちは……?」
 そう俺は問い返す。

 「ん……?」
 その意図が読めないように、そう聞き返す。

 「なんで……承諾した?」
 ……ほとんど利益のない護衛。

 「今じゃ……学園が大注目の召喚者様だからな……少しは興味は持つさ、それに……」
 俺にゆっくり顔を近づけ……

 「あんたには、私の見られたくない所まで見せてしまったからな」
 あらためて見ると……すっげぇ美人だよな、この人も。

 「……取りあえず、この様子、生徒会長に見られたらまずいだろ、今日はそろそろ寝ようぜ」
 俺は目を反らしそうツキヨに告げる。

 「……わたしは別にかまわない……それなら、わたしもここで一緒に寝よう」
 そうツキヨが小悪魔的な笑みを浮かべる。
 
 「……馬鹿言うなよ」
 そう突き放そうとするが……

 「……私はあんたの護衛だろう?いかなる時も主の安全を守る、その義務がわたしにはある……」
 そう彼女の瞳は俺を逃そうとしない。

 「今宵の口止め料として……わたしの初めての身体でも差し出そうか?」
 そうあらためて子悪魔的な笑みを浮かべる。

 「……俺も童貞だ……そんな度胸はないよ」
 ……この世界のこの身体なら……嘘ではない。
 
 「……まぁ、だろうな」
 そうツキヨは言ってずるりとベットからすべり落ちるように、
 ベットの脇に背中をつけ、そのまま奪った毛布を一枚はおるように眠りにつく。

 本当にここでは寝るのか……。

 そう思い、俺も目を閉じる。


 「……あんた、少しだけ優しすぎるな……それもいいが、守るべきものは見失うなよ」
 そう眠りに入る最中、ツキヨは俺に言った。

 ……ひたすらに守るべきものを増やしていく。

 それは、俺の力量に見合っているのだろうか……

 その答えは決まりきっている。

 それでも俺は……


 それが、この世界での自分で望んだ能力だ。

 それすら、放棄すれば……

 俺はこの世界に来た意味など無くなってしまう。

 
 必要が無くなれば……どうなるのか。

 俺を望む人が居なくなれば……どうなるのだろうか。

 
 ……考えるな。

 今日は疲れた。

 ……もう休め。


 悪が居て……守るべきものがある……だから……必要。

 それじゃ……逆は?

 考えるな。

 疲れている。

 ……もう休もう。