「相変わらずだな……だが、その貴様の忠義心嫌いではないが……」
そうアストリアが……昔を思い出すようにナイツを見る。
「トリア……お前の雇い主のクリア=スノウと言ったか……思ったよりも面白い能力をしている……」
そう少しだけ感心するが……
「……だが、レス、彼女を生かせるかキミ次第だな」
そうライトが再びレスの姿をその瞳で追った。
ウルハが召喚する兵士……
俺は自分とクリアに防御結界をはり、それらの攻撃を防ぎながら、
また、目の前の白銀をまとうヒーローの攻撃に耐える。
そして、あまった余力で両腕に結界をまとわらせ、
反撃をこころみるが……
「モードチェンジ……鉄《くろがね》」
「……発動、鉄壁」
繰り出したパンチは相手の漆黒の盾に防がれる。
「……打ち破れない?」
ヴァニが……あの一撃を思い出しながらそうこぼす。
「……俺の魔装具を防ぐほどの鉄壁だ……防御特化のレスの攻撃ではさすがに貫くのは難しいだろう」
そうスコールが返す。
「……あの鉄壁を彼の防御値の魔力を変換して突破するには……まだ、キミの魔力では難しいか……」
その可能性はある……そうライトは信じているかのように言う。
「……まして、お嬢のためにその魔力の半分近くを使っているようだからな」
そうアストリアも続いて言う。
「……それに、ナイツとあの小娘のコンビ……あなどれんぞ、小僧」
そうアストリアがレスとクリアを見る。
「……頑張れよ、お嬢……頼んだぞ、レス」
そうアストリアが呟く。
二度目の結界をまとったパンチが漆黒の盾に防がれる。
深呼吸する……
落ち着け……
俺の攻撃が相手に通じないなど……それは最初から想定していたことだ。
それよりも、俺がどうやって彼女《クリア》の能力を生かせてやれるか。
それが、俺の役目。
俺がこの能力でできることだ。
俺はナイツと間合いを取ると、クリアのそばによると、防御に徹する。
「クリア……お前の力の特性を教えてくれ」
そう尋ねる。
「主に光の矢を形成して戦う能力です……和弓と洋弓で特性が変わってきます、和弓は反射、洋弓が貫通(パワー)と言ったところでしょうか」
クリアの使った能力を思い出しながら聞く。
「あの……水晶は?」
迫りくる攻撃に耐えながらさらに質問する。
「印を組むことで通過することでその水晶内の魔力を矢に蓄え、和弓なら分裂、洋弓なら威力上昇を付加させられます……が、威力のアップは、今の私の能力により上限があるので、あの水晶にどれだけ魔力を蓄えようと、私の限界値以上の威力は出せません」
……そう説明を受けたところで……だいたいイメージができた。
クリア……使い方によってはけっこうチート級かもしれないぞ。
俺はひとつの案を考えるが……それが可能なのかどうかはわからない。
そうこうするうちに、先に相手側が動く。
「ナイツ……やるぞ」
そうウルハが何かを告げる。
「了解しました」
何かを承諾する。
なにを……
ウルハが再び魔力で作り上げた紙幣をばらまく。
現れる歴史をさ迷う英雄の擬態。
「伝承……」
そして……ナイツがそう言葉にすると。
その擬態は眩く光ると……全身白い鎧をまとっている。
「くっ!?」
白い鎧をまとった擬態は一気に距離をつめると、
俺に向かい魔力をまとったこぶしを放つが、
それを結界によりくいとめる。
ナイツ本体ほどの能力はないとしても……
その能力の一部を分け与えた。
それに……
「もらったっ」
ナイツ本体からの一撃をまともに受ける。
「ぐ……」
重たい……
視界がうっすらと揺らぐ。
殴られるなんて……なれてないんだ。
それが嫌で、こんな能力を手に入れたのにな。
ぐちゃぐちゃと余計な事を考える。
「貫けっ」
英雄と似非英雄のコンビネーションの攻撃を必死で防ぎ続けていると、
クリアからの援護射撃で、なんとか一人と一匹(?)から距離を取る。
「……クリア、頼みがある……」
俺はクリアのそばによると……一つ提案を持ちかける。
「和弓……は、反射だったよな?その対象物は例えば俺の結界でも可能なのか?」
そう俺はクリアに尋ねる。
「……レスさんの結界は透明色で光を反射できると思うので、恐らくは」
そうクリアが返答する。
「じゃぁ……次あいつが漆黒の盾を出した時、俺は作り出した結界に和弓の光の矢を放ってくれるか?」
そう頼み……
「まずは、奴をブラックモードにするため、あの似非の方に洋弓の方でけん制してくれるか?」
一瞬、俺の勝手に名づけたネーミングに戸惑っていたクリアだが、すぐに理解してくれる。
「参ります……」
青白く光る洋弓……
「貫けっ」
似非に向かい、青白いレーザー砲が一気に飛ぶ。
単調であるが……それなりの威力を持つ。
それは、ナイツも理解している。
「モード、鉄」
似非の前にナイツは立つと漆黒の鎧にモードをチェンジした。
「発動……鉄壁」
巨大な漆黒の盾でその一撃を簡単に防ぐ……
「……いくぞ、クリア」
俺はそうクリアに告げると……
「……えっ…はい」
あまりにも、不規則な場所に設置されていく。
「どれでもいい……好きな結界《まと》に、できるだけ沢山撃ってくれ」
そうクリアに言う。
クリアは戸惑いながらも言われた通り、俺の作った結界の何箇所かをめがけ、光の矢を放っていく。
「……なんだ?どこに……撃って……」
そうナイツが戸惑いの声をあげるが……
「!?」
結界によって反射した光の矢が自分の前方に広がる盾の無い、横側から飛んでくる。
「なるほど……」
向きを変え、その一撃を防ぐ。
「……考えたが、反射さえ確認してしまえば、防ぐことは……」
「……!?」
再び、フルフェイスの兜では見えない表情をゆがむ。
反射によって……向きを変え向かってきた矢が、再び自分の前で結界により、方向を変える……それを目で追うが……目で捉える時には再びその向きを変える……
さらに、クリアがその矢を増やすため、しだいに矢を目で追うことすら不可能になる。
恐らく……これを回避できるのは、一瞬でこの結界の位置と反射の向きを見極めることのできるライトくらいだろう。
「面白い……やっぱり君は面白い」
目を開き、食い入るようにその様子を見ているライト。
「確かに……お嬢の技をあそこまで……底知れぬ奴だ」
アストリアもそれに続いて言った。
「……だが、相手はあのナイツ……そう簡単にダウンする奴ではないぞ」
煙の中から現れるナイツを見てアストリアは言った。
「あの……似非は倒せたが……さすがに、あんたまで倒すことはできないか」
ナイツの身体が光ると……漆黒の鎧がはがれ、元の姿が現れる。
「……なるほど……それが、お前の戦い方という訳か」
そう、ナイツは俺を見る。
「……お前に問う」
そうナイツは俺に問いかける。
「俺ではなく、お嬢様を狙うチャンスはいくらでもあっただろう……なぜそうしない」
確かにどちらか一人を倒せばいいこの試合に……無理にこんな化け物を相手にするよりも、あのウルハというお嬢様を狙う方が簡単だ。
そうしなかった理由を問う。
「……別に、単純にファミニストなんだ……それに、あんただって同じだろ?」
そう俺はナイツに同じ問いを返す。
ウルハの作り出した擬態はクリアを狙ったが、ナイツ自身はそうしていない。
「なるほど……レスと言ったな」
そうナイツは俺の名を呼ぶ。
「あ、あぁ……」
俺は少し戸惑うように答え……
「出会いが違っていればお前とは良き友になれただろうな……」
そう言いながら……
「ヒーロータイム」
再び白銀の鎧を全身にまとう。
「……だが、負ける訳にはいかない……俺はこの勝利をお嬢様にささげなければならない……俺はお前の友となる前に、お嬢様のヒーローでなければならない」
そう告げる。
「……終わりにしよう……わたしとお嬢様が、最強のコンビたる所以……最強の兵団……何人たりとも、この兵団を超えることはかなわない」
そのナイツの言葉に……
ウルハは両手いっぱいの魔力の紙幣の札束を上空に投げた。
現れる英雄の擬態……つめれば人が1000人以上乗れそうな広いリング……
その何割かを占める具現体が現れる。
「ざっと……100以上はいるよな?」
俺のぼそりと他人事のように呟き……
「……まさか……これを」
そう、その先の台詞の実現を否定しようとするが、
「伝承……」
そうナイツは……俺のそんな言葉を否定する。
真っ白な鎧を全員が身にまとう……
「……さすがにチートだろ、それは……」
そう呟きながらも……
「レスさん……」
その軍勢を前に……絶望の眼差しのクリアを他所に……
俺はクリアに笑顔で笑いかけ振り替える。
「……あの顔だ……」
ライトは立ち上がり、観客席のフェンスに手をかけ羨ましそうに二人を見る。
いつか、自分に向かせたいと思った笑顔……
「……最高のお膳立てだよな……」
そう俺は呟き……
「リングの中央の上空……できるだけ高い場所……光の矢を分裂させる水晶を形成してくれ」
そう俺はクリアにお願いする。
「えっ……」
クリアは戸惑いながらも……
「……きっとうまくいく」
俺はそう告げる。
クリアは言われた通りそれに従い……
迫ってくる軍勢に……
「……レスさん、何を……?」
全員が注目している。
「和弓《や》を放てっ」
俺は上空の水晶を指差してクリアに言った。
「えっ……」
思わずクリアはそれに従うが……
矢は水晶を通し3本に分裂するが……
当然、そのままさらに遥か上空に飛んでいく……
誰もその後に何がおこるのか……理解していなかったが……
ライトが身体を震わせて立ち上がる。
「……レス、君という男は……本気で君を手に入れたい」
それにいち早く気づいたライトだけが、そう身震いを抑えられず言った。
反射した3本の光の矢が結界によって、方向が変更される。
再び3本の矢は水晶に吸収されると……9本の光の矢が四方八方に飛び散る。
それをまたさらに反射させる……
矢は再び、水晶に吸収される……それを幾度も上空で繰り返す。
そして……軍勢が半分以上迫ってきたころ……
「……これが、クリアが起した奇跡だっ」
俺はそう言って……
上空に手をかざすと……
その数百、数千にも増殖した光の矢を……リングめがけ反射させる。
「……レス……これを皆に見せているのは君だというのか……」
如何なる事にも興味をほとんど示さないライト……
観客席から身を乗り出すように見ている。
「あれほどの光の矢……一度に浴びてはさすがにひとたまりもないぞ」
さすがのアストリアも苦笑いしている。
光の矢が降り止んだころには……リングは半壊していて……
最強の兵団は一人残らず消し飛んでいた。
俺とクリアはもちろん無傷。
そして……ウルハの位置だけ綺麗に光の矢は避けるように……
呆然とウルハは状況をつかめずにいる。
咄嗟に鉄にモードチェンジしていたが……
自慢の盾も鎧もボロボロで……
立っていることさえ……やっとの状態で……
「……わたしは……マネードル家の護衛《えいゆう》だ……」
かろうじて動く口でナイツがそう言う。
「お嬢様のため……負ける訳にはいかない」
よろよろと身体を動かし……俺に向かってくる。
「……もうよい、もういい……ナイツっ」
そうウルハが叫ぶが……
「あなたの意思を……あなたの正義を……汚しはしない」
そうナイツが一歩、一歩時間をかけ、俺の方に近寄ってくる。
……悪が必要か?
お前たちは、クリアを英雄にした。
それと勝利さえ貰えれば……俺の目的は果たされる。
それで、十分だ。
俺が悪になろう……
だから……ナイツのお嬢様……
あとはお前が選べ……
マネードル家の名誉として、悪に立ち向かい敗北するのか……
愛しい英雄を敗北させないため……悪に屈するのか……
俺はナイツの横を通り抜け……
ウルハの首を掴み締め上げる。
「き、貴様……」
ナイツがそう俺をにらみつけ……
「降参するか……まだ抗うか……?」
どちらを守るか選んでくれ……
今の俺には……そのどちらしか選ばせてやれない。
俺の意図をよんだように……
ウルハは……ナイツを見て……
「降参します……」
そう悪《おれ》に屈した。
「勝者、クリア選手とレス選手です」
そうラビの言葉で勝負は決し、延長戦に持ち込まれることもなくなった。
あの上空で何が起きていたかを理解しているのは……ごく一部。
ほとんどの者にはクリアが何かしらの方法で大量の矢を上空から降らせたようにしか見えていない。
これまでと同様に……
目立つことなく、俺は彼女たちをサポートする。
彼女たちを英雄にするため……自分の目的のために……
そうアストリアが……昔を思い出すようにナイツを見る。
「トリア……お前の雇い主のクリア=スノウと言ったか……思ったよりも面白い能力をしている……」
そう少しだけ感心するが……
「……だが、レス、彼女を生かせるかキミ次第だな」
そうライトが再びレスの姿をその瞳で追った。
ウルハが召喚する兵士……
俺は自分とクリアに防御結界をはり、それらの攻撃を防ぎながら、
また、目の前の白銀をまとうヒーローの攻撃に耐える。
そして、あまった余力で両腕に結界をまとわらせ、
反撃をこころみるが……
「モードチェンジ……鉄《くろがね》」
「……発動、鉄壁」
繰り出したパンチは相手の漆黒の盾に防がれる。
「……打ち破れない?」
ヴァニが……あの一撃を思い出しながらそうこぼす。
「……俺の魔装具を防ぐほどの鉄壁だ……防御特化のレスの攻撃ではさすがに貫くのは難しいだろう」
そうスコールが返す。
「……あの鉄壁を彼の防御値の魔力を変換して突破するには……まだ、キミの魔力では難しいか……」
その可能性はある……そうライトは信じているかのように言う。
「……まして、お嬢のためにその魔力の半分近くを使っているようだからな」
そうアストリアも続いて言う。
「……それに、ナイツとあの小娘のコンビ……あなどれんぞ、小僧」
そうアストリアがレスとクリアを見る。
「……頑張れよ、お嬢……頼んだぞ、レス」
そうアストリアが呟く。
二度目の結界をまとったパンチが漆黒の盾に防がれる。
深呼吸する……
落ち着け……
俺の攻撃が相手に通じないなど……それは最初から想定していたことだ。
それよりも、俺がどうやって彼女《クリア》の能力を生かせてやれるか。
それが、俺の役目。
俺がこの能力でできることだ。
俺はナイツと間合いを取ると、クリアのそばによると、防御に徹する。
「クリア……お前の力の特性を教えてくれ」
そう尋ねる。
「主に光の矢を形成して戦う能力です……和弓と洋弓で特性が変わってきます、和弓は反射、洋弓が貫通(パワー)と言ったところでしょうか」
クリアの使った能力を思い出しながら聞く。
「あの……水晶は?」
迫りくる攻撃に耐えながらさらに質問する。
「印を組むことで通過することでその水晶内の魔力を矢に蓄え、和弓なら分裂、洋弓なら威力上昇を付加させられます……が、威力のアップは、今の私の能力により上限があるので、あの水晶にどれだけ魔力を蓄えようと、私の限界値以上の威力は出せません」
……そう説明を受けたところで……だいたいイメージができた。
クリア……使い方によってはけっこうチート級かもしれないぞ。
俺はひとつの案を考えるが……それが可能なのかどうかはわからない。
そうこうするうちに、先に相手側が動く。
「ナイツ……やるぞ」
そうウルハが何かを告げる。
「了解しました」
何かを承諾する。
なにを……
ウルハが再び魔力で作り上げた紙幣をばらまく。
現れる歴史をさ迷う英雄の擬態。
「伝承……」
そして……ナイツがそう言葉にすると。
その擬態は眩く光ると……全身白い鎧をまとっている。
「くっ!?」
白い鎧をまとった擬態は一気に距離をつめると、
俺に向かい魔力をまとったこぶしを放つが、
それを結界によりくいとめる。
ナイツ本体ほどの能力はないとしても……
その能力の一部を分け与えた。
それに……
「もらったっ」
ナイツ本体からの一撃をまともに受ける。
「ぐ……」
重たい……
視界がうっすらと揺らぐ。
殴られるなんて……なれてないんだ。
それが嫌で、こんな能力を手に入れたのにな。
ぐちゃぐちゃと余計な事を考える。
「貫けっ」
英雄と似非英雄のコンビネーションの攻撃を必死で防ぎ続けていると、
クリアからの援護射撃で、なんとか一人と一匹(?)から距離を取る。
「……クリア、頼みがある……」
俺はクリアのそばによると……一つ提案を持ちかける。
「和弓……は、反射だったよな?その対象物は例えば俺の結界でも可能なのか?」
そう俺はクリアに尋ねる。
「……レスさんの結界は透明色で光を反射できると思うので、恐らくは」
そうクリアが返答する。
「じゃぁ……次あいつが漆黒の盾を出した時、俺は作り出した結界に和弓の光の矢を放ってくれるか?」
そう頼み……
「まずは、奴をブラックモードにするため、あの似非の方に洋弓の方でけん制してくれるか?」
一瞬、俺の勝手に名づけたネーミングに戸惑っていたクリアだが、すぐに理解してくれる。
「参ります……」
青白く光る洋弓……
「貫けっ」
似非に向かい、青白いレーザー砲が一気に飛ぶ。
単調であるが……それなりの威力を持つ。
それは、ナイツも理解している。
「モード、鉄」
似非の前にナイツは立つと漆黒の鎧にモードをチェンジした。
「発動……鉄壁」
巨大な漆黒の盾でその一撃を簡単に防ぐ……
「……いくぞ、クリア」
俺はそうクリアに告げると……
「……えっ…はい」
あまりにも、不規則な場所に設置されていく。
「どれでもいい……好きな結界《まと》に、できるだけ沢山撃ってくれ」
そうクリアに言う。
クリアは戸惑いながらも言われた通り、俺の作った結界の何箇所かをめがけ、光の矢を放っていく。
「……なんだ?どこに……撃って……」
そうナイツが戸惑いの声をあげるが……
「!?」
結界によって反射した光の矢が自分の前方に広がる盾の無い、横側から飛んでくる。
「なるほど……」
向きを変え、その一撃を防ぐ。
「……考えたが、反射さえ確認してしまえば、防ぐことは……」
「……!?」
再び、フルフェイスの兜では見えない表情をゆがむ。
反射によって……向きを変え向かってきた矢が、再び自分の前で結界により、方向を変える……それを目で追うが……目で捉える時には再びその向きを変える……
さらに、クリアがその矢を増やすため、しだいに矢を目で追うことすら不可能になる。
恐らく……これを回避できるのは、一瞬でこの結界の位置と反射の向きを見極めることのできるライトくらいだろう。
「面白い……やっぱり君は面白い」
目を開き、食い入るようにその様子を見ているライト。
「確かに……お嬢の技をあそこまで……底知れぬ奴だ」
アストリアもそれに続いて言った。
「……だが、相手はあのナイツ……そう簡単にダウンする奴ではないぞ」
煙の中から現れるナイツを見てアストリアは言った。
「あの……似非は倒せたが……さすがに、あんたまで倒すことはできないか」
ナイツの身体が光ると……漆黒の鎧がはがれ、元の姿が現れる。
「……なるほど……それが、お前の戦い方という訳か」
そう、ナイツは俺を見る。
「……お前に問う」
そうナイツは俺に問いかける。
「俺ではなく、お嬢様を狙うチャンスはいくらでもあっただろう……なぜそうしない」
確かにどちらか一人を倒せばいいこの試合に……無理にこんな化け物を相手にするよりも、あのウルハというお嬢様を狙う方が簡単だ。
そうしなかった理由を問う。
「……別に、単純にファミニストなんだ……それに、あんただって同じだろ?」
そう俺はナイツに同じ問いを返す。
ウルハの作り出した擬態はクリアを狙ったが、ナイツ自身はそうしていない。
「なるほど……レスと言ったな」
そうナイツは俺の名を呼ぶ。
「あ、あぁ……」
俺は少し戸惑うように答え……
「出会いが違っていればお前とは良き友になれただろうな……」
そう言いながら……
「ヒーロータイム」
再び白銀の鎧を全身にまとう。
「……だが、負ける訳にはいかない……俺はこの勝利をお嬢様にささげなければならない……俺はお前の友となる前に、お嬢様のヒーローでなければならない」
そう告げる。
「……終わりにしよう……わたしとお嬢様が、最強のコンビたる所以……最強の兵団……何人たりとも、この兵団を超えることはかなわない」
そのナイツの言葉に……
ウルハは両手いっぱいの魔力の紙幣の札束を上空に投げた。
現れる英雄の擬態……つめれば人が1000人以上乗れそうな広いリング……
その何割かを占める具現体が現れる。
「ざっと……100以上はいるよな?」
俺のぼそりと他人事のように呟き……
「……まさか……これを」
そう、その先の台詞の実現を否定しようとするが、
「伝承……」
そうナイツは……俺のそんな言葉を否定する。
真っ白な鎧を全員が身にまとう……
「……さすがにチートだろ、それは……」
そう呟きながらも……
「レスさん……」
その軍勢を前に……絶望の眼差しのクリアを他所に……
俺はクリアに笑顔で笑いかけ振り替える。
「……あの顔だ……」
ライトは立ち上がり、観客席のフェンスに手をかけ羨ましそうに二人を見る。
いつか、自分に向かせたいと思った笑顔……
「……最高のお膳立てだよな……」
そう俺は呟き……
「リングの中央の上空……できるだけ高い場所……光の矢を分裂させる水晶を形成してくれ」
そう俺はクリアにお願いする。
「えっ……」
クリアは戸惑いながらも……
「……きっとうまくいく」
俺はそう告げる。
クリアは言われた通りそれに従い……
迫ってくる軍勢に……
「……レスさん、何を……?」
全員が注目している。
「和弓《や》を放てっ」
俺は上空の水晶を指差してクリアに言った。
「えっ……」
思わずクリアはそれに従うが……
矢は水晶を通し3本に分裂するが……
当然、そのままさらに遥か上空に飛んでいく……
誰もその後に何がおこるのか……理解していなかったが……
ライトが身体を震わせて立ち上がる。
「……レス、君という男は……本気で君を手に入れたい」
それにいち早く気づいたライトだけが、そう身震いを抑えられず言った。
反射した3本の光の矢が結界によって、方向が変更される。
再び3本の矢は水晶に吸収されると……9本の光の矢が四方八方に飛び散る。
それをまたさらに反射させる……
矢は再び、水晶に吸収される……それを幾度も上空で繰り返す。
そして……軍勢が半分以上迫ってきたころ……
「……これが、クリアが起した奇跡だっ」
俺はそう言って……
上空に手をかざすと……
その数百、数千にも増殖した光の矢を……リングめがけ反射させる。
「……レス……これを皆に見せているのは君だというのか……」
如何なる事にも興味をほとんど示さないライト……
観客席から身を乗り出すように見ている。
「あれほどの光の矢……一度に浴びてはさすがにひとたまりもないぞ」
さすがのアストリアも苦笑いしている。
光の矢が降り止んだころには……リングは半壊していて……
最強の兵団は一人残らず消し飛んでいた。
俺とクリアはもちろん無傷。
そして……ウルハの位置だけ綺麗に光の矢は避けるように……
呆然とウルハは状況をつかめずにいる。
咄嗟に鉄にモードチェンジしていたが……
自慢の盾も鎧もボロボロで……
立っていることさえ……やっとの状態で……
「……わたしは……マネードル家の護衛《えいゆう》だ……」
かろうじて動く口でナイツがそう言う。
「お嬢様のため……負ける訳にはいかない」
よろよろと身体を動かし……俺に向かってくる。
「……もうよい、もういい……ナイツっ」
そうウルハが叫ぶが……
「あなたの意思を……あなたの正義を……汚しはしない」
そうナイツが一歩、一歩時間をかけ、俺の方に近寄ってくる。
……悪が必要か?
お前たちは、クリアを英雄にした。
それと勝利さえ貰えれば……俺の目的は果たされる。
それで、十分だ。
俺が悪になろう……
だから……ナイツのお嬢様……
あとはお前が選べ……
マネードル家の名誉として、悪に立ち向かい敗北するのか……
愛しい英雄を敗北させないため……悪に屈するのか……
俺はナイツの横を通り抜け……
ウルハの首を掴み締め上げる。
「き、貴様……」
ナイツがそう俺をにらみつけ……
「降参するか……まだ抗うか……?」
どちらを守るか選んでくれ……
今の俺には……そのどちらしか選ばせてやれない。
俺の意図をよんだように……
ウルハは……ナイツを見て……
「降参します……」
そう悪《おれ》に屈した。
「勝者、クリア選手とレス選手です」
そうラビの言葉で勝負は決し、延長戦に持ち込まれることもなくなった。
あの上空で何が起きていたかを理解しているのは……ごく一部。
ほとんどの者にはクリアが何かしらの方法で大量の矢を上空から降らせたようにしか見えていない。
これまでと同様に……
目立つことなく、俺は彼女たちをサポートする。
彼女たちを英雄にするため……自分の目的のために……