「お食事です……お口に合えば宜しいのですが」
そう言われ、リヴァーに出された食事を眺める。
見た感じ、自分の知る世界の料理とほとんど代わり映えは無い。
「……うん、美味い」
そう答えると、取り敢えず目の前の女性が安心する。
「お嬢様の兄であるスコール様は、レイン様共に通う学園で、生徒会長をも務める学園切ってのエリートです」
興味無さそうに食事をしながら聞いて、その言葉を噛み砕く。
「……お嬢様は、その兄や家族に恥じぬよう、その期待に答えようと必死なのです」
そうリヴァーが続ける。
「……目が覚めればさ、また……俺は俺の住みなれたつまらない世界に戻るのかもしれない……」
夢半ば……
「……リヴァーさんが作ってくれた料理の味も……あの俺なんかを召喚したお嬢様の劣等感も……悪いけど、その兄に抱いた嫌悪感も……本物なのかもまだ曖昧だ……」
その言葉を少し不思議そうにリヴァーは聞いている。
「せっかくの能力……そのお嬢様のためにももっと、この世界で役に立つ最強の能力をイメージできれば良かったのだろうけどな」
そう呟く。
「……いえ、能力を不使用だったとはいえ、あのスコール様の魔力を込めた打撃を生身で受け流す……正直そんな者が存在するとは思いませんでした」
そう評価される。
そのスコールと呼ばれる兄様とやらは、余程の攻撃魔力の高い奴なのだろう。
まぁ……鉄壁だけが取り得だからな。
「……転生……ね」
与えられた部屋の鏡の前に立つ。
レインと同じ16歳くらいまでの年齢まで若返った身体。
どうせなら、顔もイケメンにするくらいのオマケが欲しかったが、
それは、まぁ……。
「レス様……貴方がここに召喚されたのはきっと何かの運命だと思います……どうかお嬢様……レイン様の救世主になってください」
そうリヴァーが自分ごとのように頭を下げる。
「……俺は前に立つのが嫌いだ……注目をされるのが嫌いだ……」
その言葉にリヴァーが不安そうな顔をする。
「生憎、俺の能力というのは、誰かを守る事だけに特化している……この能力がお嬢様とやらを英雄にしてやれるかはわからない……そんな俺が優勢に対抗できる手段なんてものは限られている……その程度の男ができる英雄で本当にいいのか?」
その言葉に、リヴァーは嬉しそうに笑顔を作り
「はい……お願いします」
まるで、自分ごとのように喜ぶリヴァー。
目を開ける……目を覚ますという感覚。
見慣れない天井。
まだ……俺は夢を見続けているのだろうか?
「おはようございます」
俺がベッドから起き上がると同時にリヴァーが部屋に訪れる。
ダイニングテーブルを押して俺の前に立ち止まる。
「良ければ、顔を洗ってください」
桶に汲まれたぬるま湯とタオルがテーブルの上に置かれている。
取り敢えず言葉に従い、顔を洗いタオルで顔をふいていると……
「朝食です……」
続けて、下の段と上の段を入れ替えるように、朝食を並べる。
「それ……?」
何やら衣服を大事そうに抱え、俺の朝食を終えるを待っているリヴァーを横目に尋ねる。
「今日から、レス様も通う学園の制服になります」
……その台詞に思わず青ざめる。
「……学園?」
そんな場所に再び通う羽目になるとは……
相変わらず美味な料理。
朝食を済ませると俺は用意されたっ制服に身を包む。
かつての俺の中二心を擽るデザインの制服に少しだけ歓喜してしまう。
リヴァーに連れられ、一人早めに学園に向かわせられた。
入学テストとような行事を受けさせられる。
防御一線の自分にアピールできる能力は無い。
異世界から来た自分にこの世界の歴史や学問に知識などない。
恐らく、そのテストの結果とやらはさぞ、最悪なものであろう。
1学年、クラスは3つ……そのクラスに入学テストの結果の能力を平等に分散するように振り分けられている……らしい。
それとは別の特別クラス……
別け有りクラス……そこに俺は割り当てられた。
言えば……出来損ない、はみ出し物の集まりだろうか。
「全く……こういう時期に転入してくる奴ってのは、同じはみ出し者でも不正能力を持った、チート級じゃねーのかよ」
担任と教師と思われる少し乱暴な口調の女。
「解り易い劣勢者で申し訳ありませんね……」
教師の後ろを歩き、割り当てられるだろう教室を目指す。
「解り易い?そんな生易しい存在ならこのクラスに割り当てられず普通に3クラスのどこかに劣勢者として平等に分散されてるんだよ」
そう担任の教師と思われる女が言う。
「魔力の数値は平均以上の値を叩き出してはいるんだ……だが、お前は先のテストでその能力を披露していない……それはお前が捻くれているだけなのか……それともそうせざる得ない何か……があるのか、どちらにせよ、得体の知れない存在だよお前」
乱暴な口調で教師は続ける。
通された教室で……つまらない自己紹介の挨拶を済ませる。
見知った顔が二人。
レインとリヴァーの二人。
少しだけ安心するのと同時に……
優等生の家計であるレインも、このはみ出しもののクラスに割り当てられていた事。
リヴァーもこの学園に通っていて、同じようにこのクラスに割り当てられている事だ。
だが、与えられた席は二人からは程遠い。
自分的には好みの一番後ろの窓際の席。
隣の席の女性が不思議そうにこちらを見ている。
白い髪……眼鏡から覗く瞳は少しだけ大人びて見える。
「ども……宜しく」
目が合って思わずそんな挨拶をして頭を下げる。
「クリア=スノーです……レスさん、宜しくお願いします」
丁寧に頭を下げ挨拶を返してくる。
すぐに自分の机に目を向けると、次の授業で使うだろう教科書を広げている。
「……って、え?」
そういや、俺……
思わず持って来た転生時に一緒にこの世界にやってきたバックを開ける。
出て来たのは、自分の大好きな漫画の本や小説……
いや、俺の人生の教科書バイブルなのは確かなのだが……
この世界からすれば不思議な書物だろう漫画や小説をパラパラ広げながら苦笑いする。
その様子を不思議そうにながめるクリアと名乗った女性に目を向ける。
「教科書……見せてもらっていいかな?」
そう……クリアに尋ねる。
「……はい……」
その……訳もわからず返す彼女の興味は俺ではなく……別の場所にあるようだった。
「あの……さっきの書物は?」
少し間隔の空いていた席をつめ、クリアの横に並ぶとすでにクリアの興味は別に有り、その興味に逆らえないとばかりにそう質問をしてくる。
自分が別世界から召喚された者だというのは……そう紹介されたのですでにクラスの者が理解している。
「小説や……漫画……この世界にもあるかはわからないけど、なんだろ……作者の考えた物語を文字や絵に書きおこしたモノ……とでもいうところかな?」
そう表現する。
「……小説はこの世界にもあるのですが……漫画……凄いです、こんな考えた物語を表現する方法……」
手渡した漫画を興味深そうに眺めるクリア。
別に自分が描いたものでは無いにしろ、やはり自分が好きなものにこうやって興味を持ってくれるのは嬉しいものである。
「この世界に持ち込めたものだけで良かったら、貸してあげようか?」
少しだけ踏み入ってみる。
「え……ほ、本当ですか?」
手にした本を大切そうに胸元に抱え大げさに驚く。
「あ…うん、教科書を見せてもらうお礼」
そう理由をつける。
3時限目の授業を終え……ようやく見つけたお手洗いから教室に帰還する。
目立たないよう心がけては居たが……
転生、転入……この二つのワードは十分に……少なくともこの数日の間は人の興味に触るのかもしれない。
「……えっとレス……なんだっけあいつ」
素行の悪そうな集団……
「何処の世界にもいるもんだな……」
……思わず口に出す。
「……あぁ、何か言ったか?」
威圧するようにガンを飛ばしてくる。
「いえいえ……勘弁してくださいよ」
情けない……でも昔からの俺に染み付いた、
上手く生きる方法……
「返してくださいっ!!」
自分の席の方からそんな叫び声がする。
思わず、そちらに目を向けると……
この男と同じ集団に属していると思われる女がクリアから何かを取り上げ、
クリアが必死にそれを取り返そうとしている。
「なにこれ、うけるーーー、ヴァニ、こいつなんか変なもん見てたんだけど」
クリアに貸した漫画の本。
何処の世界でも……このような人種は浮いてしまう。
浮いた人間の行き着く場所は決まって惨めな場所だ。
女はヴァニと呼ばれた俺に絡んだ男にその本を投げて渡す。
俺が生きて来た教訓……こういった人間には関わらないことが一番。
そのつもりだったが……
「返して下さいッ!!」
震えながら、男の前に立ち塞がる……白い髪の女性。
「……ははは、クリア行こう、また違うの持ってくるから……な」
そう説得して一緒に席へ戻ろうとする。
「小説……だっけ?こいつの頭の中の妄想みたいなの……そういうの書くのが趣味なんだよな、なにコレ、その妄想のいきついた先?」
その言葉に周囲がゲラゲラと笑っている。
悔しそうにする……クリアの顔に……
次第に笑い声や周りの言葉が脳内にぐるぐると回るように……聞き取りにくくなる。
無難に生きることは得意な筈だったのに……
怒りを誤魔化して生きるのは得意なつもりだったのに……
ガンッと激しい音と共に、俺の目の前の机が天井にぶつかるように浮いた。
ドンッと机がヴァニと呼ばれた男の近くに落ちた。
「……ねぇ、今の台詞言ったの誰?」
静まり返った教室の空気……そんな事すら気づけないほどに俺はどうかしていた。
「……何が?」
ヴァニが近寄ってくる。
先の台詞がこの男の言葉だったかは解らない。
それでも、その言葉の責任を負う事を恐れる理由がないヴァニは、俺の行動と言動が面白くないと目の前に立ち塞がっている。
「……別に他人の趣味を理解しろなんて言わない……」
負けじと冷たい目で目の前の男をにらみ返す。
「……訂正しろよ……その好きの凄さや喜びがわかんねー奴が、他人の好きなものを笑うなっ!」
凍り付いている教室……
「!?」
繰り出された一撃を咄嗟に両手に巻きつけた防御結界で防ぐ。
その勢いで数メートル床に足をついたまま後退する。
俺が防御特化というなら、この男は攻撃特化というところか……
この素行の悪さがなければ、普通の3クラスでも上位の魔力成績を所持しているのではないだろうか?
「えっ……ヴァニのアレを防いだの?」
ヴァニの集団であった女の一人がそうぼそりとこぼす。
「馬鹿……まだ、本気じゃねぇ……調子に乗るな、転入生っ」
そうヴァニと呼ばれた男は魔力を解放する。
両手に手甲のようなものが現れる。
魔力で具現化された武装だろうか……
かっけぇな……思わず余計なことを考える。
「あぶねっ……」
繰り出される攻撃を魔力を集中させ丁寧に防いでいく。
防御魔力に全振りした能力だ……
その通常であれば鉄の壁すら簡単に破壊しそうな一撃を、
まるで、普通のパンチを防ぐ感覚で無力化する。
「……なんだ、てめぇ……その力」
無敗とは言わないだろう……
だが、この己の攻撃をことごとく無力化されたことはなかったのかもしれない。
男もその周囲のクラスの人間も……静かにその様子を見入っている。
だが……レインの兄と対峙した時と同様。
防戦に徹する。
活きこんで……殴られているだけ……とか……
「守ってやる……クレア……」
ぼそりと呟く。
勝手な押し付けだろうか……
「お前の好き……は、俺が守ってやる」
諦める事無く繰り出される攻撃を防ぐ。
さて、防御だけのこの能力でどう……これを抗う?
考える……
「疑問だったんだ……」
そう過去の疑問を思い返す。
「矛盾という言葉……その意味はもちろん……」
最強の矛と最強の盾はどちらが……優れているのか……それはもちろん。
その最強の矛に肩を並べる盾で人を攻撃したら……どうなるのか?
同様に疑問だったんだ……
両手には目の前の強力な攻撃を防ぐ腕がある……
教室は静かに静まり返っていて……
繰り出された一撃を耐え、再び攻撃に備える……そのルーティンを崩す、
防御に特化したその腕を振り上げる。
「どうなっても、しんねーぞっ!!」
繰り出した、ヴァニの拳と、俺の防御特化の拳がぶつかり合う。
ぶつかり合う拳……ヴァニの手甲にヒビが入りその手甲が砕け散る……
繰り出した右手がそのまま、ヴァニの頬を捉え、そのまま俺の体重を乗せた一撃がヴァニを吹き飛ばした。
クリアも……初めは興味無さそうにしていたレインも気がつけば、席から立ち上がりその様子を見ていた。
「目立つのは……好きじゃないんだけどな……」
登っていた血が下がると……現状に後悔するようにそう漏らした。
そう言われ、リヴァーに出された食事を眺める。
見た感じ、自分の知る世界の料理とほとんど代わり映えは無い。
「……うん、美味い」
そう答えると、取り敢えず目の前の女性が安心する。
「お嬢様の兄であるスコール様は、レイン様共に通う学園で、生徒会長をも務める学園切ってのエリートです」
興味無さそうに食事をしながら聞いて、その言葉を噛み砕く。
「……お嬢様は、その兄や家族に恥じぬよう、その期待に答えようと必死なのです」
そうリヴァーが続ける。
「……目が覚めればさ、また……俺は俺の住みなれたつまらない世界に戻るのかもしれない……」
夢半ば……
「……リヴァーさんが作ってくれた料理の味も……あの俺なんかを召喚したお嬢様の劣等感も……悪いけど、その兄に抱いた嫌悪感も……本物なのかもまだ曖昧だ……」
その言葉を少し不思議そうにリヴァーは聞いている。
「せっかくの能力……そのお嬢様のためにももっと、この世界で役に立つ最強の能力をイメージできれば良かったのだろうけどな」
そう呟く。
「……いえ、能力を不使用だったとはいえ、あのスコール様の魔力を込めた打撃を生身で受け流す……正直そんな者が存在するとは思いませんでした」
そう評価される。
そのスコールと呼ばれる兄様とやらは、余程の攻撃魔力の高い奴なのだろう。
まぁ……鉄壁だけが取り得だからな。
「……転生……ね」
与えられた部屋の鏡の前に立つ。
レインと同じ16歳くらいまでの年齢まで若返った身体。
どうせなら、顔もイケメンにするくらいのオマケが欲しかったが、
それは、まぁ……。
「レス様……貴方がここに召喚されたのはきっと何かの運命だと思います……どうかお嬢様……レイン様の救世主になってください」
そうリヴァーが自分ごとのように頭を下げる。
「……俺は前に立つのが嫌いだ……注目をされるのが嫌いだ……」
その言葉にリヴァーが不安そうな顔をする。
「生憎、俺の能力というのは、誰かを守る事だけに特化している……この能力がお嬢様とやらを英雄にしてやれるかはわからない……そんな俺が優勢に対抗できる手段なんてものは限られている……その程度の男ができる英雄で本当にいいのか?」
その言葉に、リヴァーは嬉しそうに笑顔を作り
「はい……お願いします」
まるで、自分ごとのように喜ぶリヴァー。
目を開ける……目を覚ますという感覚。
見慣れない天井。
まだ……俺は夢を見続けているのだろうか?
「おはようございます」
俺がベッドから起き上がると同時にリヴァーが部屋に訪れる。
ダイニングテーブルを押して俺の前に立ち止まる。
「良ければ、顔を洗ってください」
桶に汲まれたぬるま湯とタオルがテーブルの上に置かれている。
取り敢えず言葉に従い、顔を洗いタオルで顔をふいていると……
「朝食です……」
続けて、下の段と上の段を入れ替えるように、朝食を並べる。
「それ……?」
何やら衣服を大事そうに抱え、俺の朝食を終えるを待っているリヴァーを横目に尋ねる。
「今日から、レス様も通う学園の制服になります」
……その台詞に思わず青ざめる。
「……学園?」
そんな場所に再び通う羽目になるとは……
相変わらず美味な料理。
朝食を済ませると俺は用意されたっ制服に身を包む。
かつての俺の中二心を擽るデザインの制服に少しだけ歓喜してしまう。
リヴァーに連れられ、一人早めに学園に向かわせられた。
入学テストとような行事を受けさせられる。
防御一線の自分にアピールできる能力は無い。
異世界から来た自分にこの世界の歴史や学問に知識などない。
恐らく、そのテストの結果とやらはさぞ、最悪なものであろう。
1学年、クラスは3つ……そのクラスに入学テストの結果の能力を平等に分散するように振り分けられている……らしい。
それとは別の特別クラス……
別け有りクラス……そこに俺は割り当てられた。
言えば……出来損ない、はみ出し物の集まりだろうか。
「全く……こういう時期に転入してくる奴ってのは、同じはみ出し者でも不正能力を持った、チート級じゃねーのかよ」
担任と教師と思われる少し乱暴な口調の女。
「解り易い劣勢者で申し訳ありませんね……」
教師の後ろを歩き、割り当てられるだろう教室を目指す。
「解り易い?そんな生易しい存在ならこのクラスに割り当てられず普通に3クラスのどこかに劣勢者として平等に分散されてるんだよ」
そう担任の教師と思われる女が言う。
「魔力の数値は平均以上の値を叩き出してはいるんだ……だが、お前は先のテストでその能力を披露していない……それはお前が捻くれているだけなのか……それともそうせざる得ない何か……があるのか、どちらにせよ、得体の知れない存在だよお前」
乱暴な口調で教師は続ける。
通された教室で……つまらない自己紹介の挨拶を済ませる。
見知った顔が二人。
レインとリヴァーの二人。
少しだけ安心するのと同時に……
優等生の家計であるレインも、このはみ出しもののクラスに割り当てられていた事。
リヴァーもこの学園に通っていて、同じようにこのクラスに割り当てられている事だ。
だが、与えられた席は二人からは程遠い。
自分的には好みの一番後ろの窓際の席。
隣の席の女性が不思議そうにこちらを見ている。
白い髪……眼鏡から覗く瞳は少しだけ大人びて見える。
「ども……宜しく」
目が合って思わずそんな挨拶をして頭を下げる。
「クリア=スノーです……レスさん、宜しくお願いします」
丁寧に頭を下げ挨拶を返してくる。
すぐに自分の机に目を向けると、次の授業で使うだろう教科書を広げている。
「……って、え?」
そういや、俺……
思わず持って来た転生時に一緒にこの世界にやってきたバックを開ける。
出て来たのは、自分の大好きな漫画の本や小説……
いや、俺の人生の教科書バイブルなのは確かなのだが……
この世界からすれば不思議な書物だろう漫画や小説をパラパラ広げながら苦笑いする。
その様子を不思議そうにながめるクリアと名乗った女性に目を向ける。
「教科書……見せてもらっていいかな?」
そう……クリアに尋ねる。
「……はい……」
その……訳もわからず返す彼女の興味は俺ではなく……別の場所にあるようだった。
「あの……さっきの書物は?」
少し間隔の空いていた席をつめ、クリアの横に並ぶとすでにクリアの興味は別に有り、その興味に逆らえないとばかりにそう質問をしてくる。
自分が別世界から召喚された者だというのは……そう紹介されたのですでにクラスの者が理解している。
「小説や……漫画……この世界にもあるかはわからないけど、なんだろ……作者の考えた物語を文字や絵に書きおこしたモノ……とでもいうところかな?」
そう表現する。
「……小説はこの世界にもあるのですが……漫画……凄いです、こんな考えた物語を表現する方法……」
手渡した漫画を興味深そうに眺めるクリア。
別に自分が描いたものでは無いにしろ、やはり自分が好きなものにこうやって興味を持ってくれるのは嬉しいものである。
「この世界に持ち込めたものだけで良かったら、貸してあげようか?」
少しだけ踏み入ってみる。
「え……ほ、本当ですか?」
手にした本を大切そうに胸元に抱え大げさに驚く。
「あ…うん、教科書を見せてもらうお礼」
そう理由をつける。
3時限目の授業を終え……ようやく見つけたお手洗いから教室に帰還する。
目立たないよう心がけては居たが……
転生、転入……この二つのワードは十分に……少なくともこの数日の間は人の興味に触るのかもしれない。
「……えっとレス……なんだっけあいつ」
素行の悪そうな集団……
「何処の世界にもいるもんだな……」
……思わず口に出す。
「……あぁ、何か言ったか?」
威圧するようにガンを飛ばしてくる。
「いえいえ……勘弁してくださいよ」
情けない……でも昔からの俺に染み付いた、
上手く生きる方法……
「返してくださいっ!!」
自分の席の方からそんな叫び声がする。
思わず、そちらに目を向けると……
この男と同じ集団に属していると思われる女がクリアから何かを取り上げ、
クリアが必死にそれを取り返そうとしている。
「なにこれ、うけるーーー、ヴァニ、こいつなんか変なもん見てたんだけど」
クリアに貸した漫画の本。
何処の世界でも……このような人種は浮いてしまう。
浮いた人間の行き着く場所は決まって惨めな場所だ。
女はヴァニと呼ばれた俺に絡んだ男にその本を投げて渡す。
俺が生きて来た教訓……こういった人間には関わらないことが一番。
そのつもりだったが……
「返して下さいッ!!」
震えながら、男の前に立ち塞がる……白い髪の女性。
「……ははは、クリア行こう、また違うの持ってくるから……な」
そう説得して一緒に席へ戻ろうとする。
「小説……だっけ?こいつの頭の中の妄想みたいなの……そういうの書くのが趣味なんだよな、なにコレ、その妄想のいきついた先?」
その言葉に周囲がゲラゲラと笑っている。
悔しそうにする……クリアの顔に……
次第に笑い声や周りの言葉が脳内にぐるぐると回るように……聞き取りにくくなる。
無難に生きることは得意な筈だったのに……
怒りを誤魔化して生きるのは得意なつもりだったのに……
ガンッと激しい音と共に、俺の目の前の机が天井にぶつかるように浮いた。
ドンッと机がヴァニと呼ばれた男の近くに落ちた。
「……ねぇ、今の台詞言ったの誰?」
静まり返った教室の空気……そんな事すら気づけないほどに俺はどうかしていた。
「……何が?」
ヴァニが近寄ってくる。
先の台詞がこの男の言葉だったかは解らない。
それでも、その言葉の責任を負う事を恐れる理由がないヴァニは、俺の行動と言動が面白くないと目の前に立ち塞がっている。
「……別に他人の趣味を理解しろなんて言わない……」
負けじと冷たい目で目の前の男をにらみ返す。
「……訂正しろよ……その好きの凄さや喜びがわかんねー奴が、他人の好きなものを笑うなっ!」
凍り付いている教室……
「!?」
繰り出された一撃を咄嗟に両手に巻きつけた防御結界で防ぐ。
その勢いで数メートル床に足をついたまま後退する。
俺が防御特化というなら、この男は攻撃特化というところか……
この素行の悪さがなければ、普通の3クラスでも上位の魔力成績を所持しているのではないだろうか?
「えっ……ヴァニのアレを防いだの?」
ヴァニの集団であった女の一人がそうぼそりとこぼす。
「馬鹿……まだ、本気じゃねぇ……調子に乗るな、転入生っ」
そうヴァニと呼ばれた男は魔力を解放する。
両手に手甲のようなものが現れる。
魔力で具現化された武装だろうか……
かっけぇな……思わず余計なことを考える。
「あぶねっ……」
繰り出される攻撃を魔力を集中させ丁寧に防いでいく。
防御魔力に全振りした能力だ……
その通常であれば鉄の壁すら簡単に破壊しそうな一撃を、
まるで、普通のパンチを防ぐ感覚で無力化する。
「……なんだ、てめぇ……その力」
無敗とは言わないだろう……
だが、この己の攻撃をことごとく無力化されたことはなかったのかもしれない。
男もその周囲のクラスの人間も……静かにその様子を見入っている。
だが……レインの兄と対峙した時と同様。
防戦に徹する。
活きこんで……殴られているだけ……とか……
「守ってやる……クレア……」
ぼそりと呟く。
勝手な押し付けだろうか……
「お前の好き……は、俺が守ってやる」
諦める事無く繰り出される攻撃を防ぐ。
さて、防御だけのこの能力でどう……これを抗う?
考える……
「疑問だったんだ……」
そう過去の疑問を思い返す。
「矛盾という言葉……その意味はもちろん……」
最強の矛と最強の盾はどちらが……優れているのか……それはもちろん。
その最強の矛に肩を並べる盾で人を攻撃したら……どうなるのか?
同様に疑問だったんだ……
両手には目の前の強力な攻撃を防ぐ腕がある……
教室は静かに静まり返っていて……
繰り出された一撃を耐え、再び攻撃に備える……そのルーティンを崩す、
防御に特化したその腕を振り上げる。
「どうなっても、しんねーぞっ!!」
繰り出した、ヴァニの拳と、俺の防御特化の拳がぶつかり合う。
ぶつかり合う拳……ヴァニの手甲にヒビが入りその手甲が砕け散る……
繰り出した右手がそのまま、ヴァニの頬を捉え、そのまま俺の体重を乗せた一撃がヴァニを吹き飛ばした。
クリアも……初めは興味無さそうにしていたレインも気がつけば、席から立ち上がりその様子を見ていた。
「目立つのは……好きじゃないんだけどな……」
登っていた血が下がると……現状に後悔するようにそう漏らした。