「さて……いよいよ、ナイツと小僧の対決か……」
 観客席でそうリングを見下ろしながらアストリアが言う。

 「攻撃、守備力……素早さ……ずば抜けた部分は無いが、全てに置いて高水準、攻守に切り替えが可能な能力……場合によっては、小僧、能力は貴様の上位互換にあたる……そうか、そうでないか……中々に楽しめそうだ」
 そうトリアが軽い笑みを浮かべ言った。


 「……レス、見せてくれ……君の可能性を」
 そう……ライトが隣で呟く。




 「それでは、大将戦……開始します」
 そのラビの掛け声と共に試合がはじまる。

 気がつけば、だいぶ……この異能力バトルになれてきている自分に今更違和感を覚える……
 だが、今、それを困惑している暇などない。

 「参ります……」
 以外にもいち早く動くのはクリアだった。

 にぎりこぶしを作った左手を前に突き出し、そのこぶしを左に90度ひねる。

 「貫け……」
 そうクリアのめがねの奥からは普段余りみない真剣な眼差しが相手に向けられる」

 青白い光で精製された、洋弓……
 弦に手をかける。

 現れる光の矢……クリアが弦をはじくと矢がまるでレーザー光線のように一瞬で、ウルハめがけ飛んでいく。


 同時に、ナイツが動くと、その場から姿を見失う。

 「ご無事ですが、お嬢様」
 な……

 周囲の目がいろんな目でその二人に向けられる。

 矢の一撃からウルハを救ったナイツが彼女をお姫様抱っこする状態でトンとその場に着地する。


 「うむ……ナイツ、助かった」
 そうウルハがナイツに返す。

 「感謝には及びません……わたしは貴方のヒーローです」
 スコールとは別の紳士的な雰囲気のイケメン。
 

 そっとリングに、ウルハを降ろす。


 「ナイツ、反撃といくぞ」
 そうウルハはこちらを睨み

 「我に従え……」
 そう言って、紙幣のようなものを手に天に腕をかざし……
 紙幣をばらまく。

 「歴戦の戦場に名を残した……スナイパーよ」
 そうウルハの言葉に……

 一人の男が召喚され現れる。

 男は、後方から銃を構え……

 銃口から火をふく。

 が、クリアに届く寸前でその銃弾は俺の結界に防がれる。

 「ありがとうございます」
 そうクリアが俺に礼を言う。

 「俺も……無駄にお姫様抱っこでもするべきだったか?」
 そう笑って返すが……

 「いえ……そんな……大丈夫です」
 そう否定され……
 「とても、魅力的な提案ではありますが……」
 そうぼそりと言う。


 「参ります……」
 再びクリアはそう真剣な眼差しで言う。

 「ミラー発動」
 続けてクリアが言う。

 不意に俺たちとナイツたちの位置する中央の上空あたりに透明な水晶が現れる。

 突き出した浸り手にはクリーム色の光の和弓が握られている。
 クリア……今度は何をするつもりなのか……

 作り出した水晶に向け、その光の矢を放つ。

 「弾け……」
 そうクリアは言うと、
 水晶に印が刻まれ矢が吸収されるように消え……


 光の矢が3本に分身するようにナイツ、ウルハ、召喚された男に向け飛ぶ。

 召喚された男を無視し、ナイツはウルハの前に立つと迫る光の矢に手をかざす。
 召喚された男は矢に貫かれその姿が消える。

 ナイツに迫った矢はかざす手の前で消滅する。


 「防御……能力?」
 レス同様に、クリアの光の矢を無力化した能力に、観客席のレインが反応する。
 「はい……レス様のように自由な場所に発生させることはできないようですが、強力なシールド発動能力のようです」
 リヴァーがその能力をサーチする。


 「我に従え……」
 ウルハは先ほどより多くの紙幣を握り締めそれを上空になげる。

 現れる、数多の見知らぬ過去に歴史を残す英雄の擬態。

 こちらにそれぞれの武器を手にこちらに向かってくる。

 「貫けっ」
 クリアが光の矢で応戦するが……その数と、
 ウルハの魔力で具現化されているにすぎない英雄と言えど、
 一筋縄ではいかない。

 防御結界でクリアを守りながらも、自分の腕に防御結界を巻きつけ、
 応戦する。

 少しずつ、敵の数を減らしていくが……
 予感……

 ナイツはこちらを睨みつける。

 スコールとライト……それに並ぶ、学園のトップ3そう、昨日スコールから教えられた。

 そんな奴が、俺同様の防壁をはれる……というので終わるわけがない。


 「ヒーロータイム……」
 そうナイツが呟くと身体が光輝く。

 全身、顔面を覆う白銀の鎧が装着されている。


 「……まさか、これまでのように……なんとか勝てるなんて思っていないだろうな」
 目の前にせまったナイツからこぶしがつきだされる。

 腕にまきつけた結界でそれを防ぐ……

 何とか防ぎきるが……よろよろと後ろに後退する。


 「隙などあたえん」
 そう、ナイツは言い、再び目の前まで一気に距離をつめる。
 右、左のラッシュが続く……そのたび、膨大な体力が削られるような感覚を覚え、
 気を抜くと、腕の防御結界が解けてしまいそうだ。

 「レスさん……今、お助けします」
 そうクリアが言うと……

 「参ります……」
 「ミラー発動……」

 そうナイツを睨みつけ

 「貫けっ」
 青白い洋弓から光の矢を放つ。

 「増強しろっ」
 そう言うと先ほどと違う印が描かれ、光の矢が吸収されると……


 「……っ」
 ナイツは俺への攻撃の手を休め……

 「モードチェンジ……鉄《くろがね》」
 鎧は黒に変色し……

 「鉄壁、発動」
 先ほどと変わり、クリアの光の矢は分裂ではなく、ミラーを通過することで、
 さらに魔力をまとい、強力な矢がナイツに迫るが、

 その漆黒に輝く大きな盾がそれを完全に防ぐ。


 「モード……チェンジ、白銀《プラチナ》」
 そう言うと……鎧が白銀に戻る。


 「お嬢様……見ていてください、私がヒーローです」
 そうナイツは誰かにささやく……





 ・
 ・
 ・




 ……7年前。


 街中で起きた事件……
 数名の悪党が絵に描いたように街中で暴れまわっている。

 「おーーー」
 その様子を野次馬のように見ていた。
 押さない、ウルハの姿。

 駆けつけたのは一人のヒーロー。
 人質に取られていた自分と同じくらいの少女をあっという間に助け出した。
 ウルハは目を輝かせ……


 「とー様、欲しい、ウルハも欲しい」
 そう父にせがむ。


 マネードル家。
 当時から、その莫大な富を有している。
 すぐに娘ウルハの護衛役を雇う面接が行われるが……

 ウルハのめがねに叶う者はなかなか現れることは無かった。





 「トリア……雇われ先が決まったんだってな」
 爽やかな外見の茶髪の少年。

 「……スノウ家、わたしより2つ年下の小娘の護衛役だ」
 そう幼きアストリアが言う。

 ここでは、名家である子供に、生涯仕えることを前提に置き、
 こうして若く才のある年の近いものを護衛に置くことは珍しくなく、
 幼くして職につく者も少なくない。

 むしろ、こうして若くしてどこかに仕えるというのは、
 一般の家系に産まれた者にはこうして、早いうちに名家に目をつけてもらう事が重要だったりもする。


 だが……大切な子を託す側として、
 幼い彼らを雇い託すというのも、中々決断のできない話なのだろう。

 現に、幼きナイツもその雇われ先が決まらず……
 同い年のアストリアに先を越された。


 不意に大きな物音と……このころは、少し治安も悪く、
 半端に高い能力を持った者がそういった名家を襲う事件が多発していた。


 「マネードル家……今回、悪党の餌食になったようだな」
 そうニュースを見ながら、アストリアが言う。

 「マネードル家?」
 ……聞いたことは無いが……

 「……知らぬのか、ここらじゃ1,2を争うほどの名家だぞ」
 そうアストリアが返す。


 「どこへ行く……事件なら大人や自分らの護衛に任せておけばいい」
 ナイツにむかいそうアストリアが言うが。

 「人を助けるのに……理由は必要ない」
 そう返し、煙のあがった方に向かう。


 それに……単純に今の自分の力が……大人に通用するのか。
 単純に知りたかった。


 

 絵に描いたような身体の大きい悪党。
 数名のいかにも子悪党な奴らに雇われているようだ。

 だが、そんな悪党、一人にマネードル家は襲われている。


 「さっさと出て行けっ」
 そう小さなウルハが悪党を恐れず叫ぶ。

 「ウルハっやめなさい!」
 そう母親がウルハを静止するが

 「何をしている、とー様、かー様、あんな奴……ぶっとばしてくれるんだ、正義のヒーローがぶっとばしてくれるんだ!」
 そう、期待を周囲のマネードル家の護衛人たちに向ける。

 が……勇敢に立ち向かい……目の前で倒れている者。
 その圧倒的な悪に恐れをなし、座り込んだまま立ち上がれない者。

 「何をしている、屈するなっ……こんなちんけな悪になど屈するなっ」
 そう、後ろを振り返り父と母に必死に訴えかける。


 「ずいぶんと威勢がいいな、お譲ちゃん」
 がたいのいい悪党の大きな影が、ウルハの身体を背中から影で覆い隠す。

 強がっていたウルハも恐怖の中恐る恐る、後ろを振り返る。

 悪党がウルハの両手を片手で掴み、自分の顔の位置までウルハの身体を持ち上げる。


 「屈しない……マネードル家はお前なんかに屈しないぞっ」
 ウルハが一人その悪へと立ち向かう。


 「おい……その子を離せ」
 
 「ん?」
 一瞬気がつかないほど……低い位置からの声
 茶髪の少年が一人そこに立っている。

 「その子を離せっ……そう言った」
 ナイツはそんな悪党の後ろに立っている。

 「なんだ……小僧」
 そうがたいのいい悪党が睨みつけ、
 同時に周囲の子悪党どもが、ナイツに容赦なく襲い掛かる。

 が、能力も使わずその体術でそれらをなぎ払う。

 「くそがきが……」
 そうがたいのよい悪党が上空にウルハの身体をぶん投げ、ナイツに襲い掛かる。

 
 「……あなたのその勇気こそ、ヒーローが守るべきものだ」
 そうナイツは呟き……

 「ヒーロータイム……」
 ナイツの言葉と共にその身体が光の中に包まれ、白銀の鎧をまとっている。

 素早い連撃からのアッパーで、その巨大な身体が浮かぶ、その浮かんだ巨大な身体より上空に飛び上がると、頭上までふりあげた右足のかかとをその身体の腹部に叩き込む。

 巨大な身体が地面に穴をあけるように地にめりこみ、建物の1階まで建物を床を破壊して沈んでいった。


 その間、数秒……

 上空に投げられた小さな身体がかなり高く放り投げられ、さらにその場所がマネードル家の2階であり、運悪くさらに1階までその身体が落下する。


 落下の恐怖に目を伏せる。


 が……その身体は地面にいつまでも落下することはなく。

 目を開くと白銀をまとう何者かがそこに居た。

 お姫様抱っこされる形で……その姿を見て……

 地を破壊し、横たわる巨体の悪党……

 ウルハの中の何かが震え上がり、


 「お前……名前は?」
 そのウルハはたずねる。

 「……ナイツ=マッドガイアです」
 そう名を名乗る。

 「……雇われ先はあるのか?」
 そう続けて尋ねる。

 「……いえ、まだ……」
 その言葉にウルハは何かの運命さえも感じる。

 「だったら……今日からお前は私の護衛《ヒーロー》だ」
 そうウルハは自分を抱える彼に告げた。




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 「……あの日からずっと……わたしはあなたのために……」
 マネードル家のために勇敢に戦うあなたを……
 そんなあなたを学園が利用しているとしても……
 あなたのその輝かしい勇気を守れるのなら……

 そんなあなたのそばに私《ヒーロー》は居ます。



 もちろん、そんな事情を俺は知らない……わかってやれない。

 俺はそんな勇気も憧《ヒーロー》れも……壊してでも、
 守るべきものがあるんだ……