A組の男性の教師が立会いの元、決闘は行われた。

 交流戦がおこなわれた格闘場に再び足を運ぶ。
 俺、ヴァニ、クリア、クロハ……
 少し遅れて、スコールとツキヨが現れる。

 すでに、A組のウルハとナイツ……イザヨイ、
 そして、始めてみる男子生徒が2名と……
 ハイト=クロックタイム……
 A組とあれば、あいつが出てくる……か。


 観客席には、レインとリヴァーの2名と、
 特別クラスの何名かとA組の何名かが見に来ている。
 そして、ライトとアストリアも観客席に現れる。


 「それじゃ、司会は再びこのラビ=ホストが請け負いますよ」
 マイクを片手に真っ先にリングにあがる。

 「先鋒戦……選手はあがってください」
 ラビがそう言うと、特別クラス特攻隊長のヴァニがリングにのぼる。
 
 「くじを引いてください」
 そう言われ、ヴァニは差し出された棒をひとつ抜くと棒の先にはスコールという文字が書かれている。

 パートナーは選べないそういうルールのようだ。
 もちろん、一度出た選手は次の試合には出られない。
 同じ選手が3回続闘するような真似はできない。
 また、二人のうち一人が戦闘不能、場外に落ちれば負けとなる。

 「……だめだっ」
 スコールがそう言い動こうとしない。

 「俺は、レスと組む……くじを引きなおせっ」
 そう駄々をこね始めるが……

 「馬鹿なこと言ってないで早くリングにのぼってください」
 ツキヨにドンと背中を押され、面白くなさそうにリングに上る。

 「随分……イメージかわりましたね……」
 クリアがそう呟く。

 「……割と一緒に行動していたわたしからすると変わりすぎだけど」
 ため息混じりにツキヨがこぼす。

 「不思議だよな……あの人、数日前まで本気で俺を殺そうとしていたんだぜ?」
 俺の台詞に……

 「……笑えない……」
 ツキヨがため息交じりで言った。


 相手チーム……

 見知らぬ男の一人がのぼって来る。

 「ロイド=トール……」
 自らその名を名乗る。

 ロイドと名乗った男はくじを引くと……

 「ハイト=クロックタイム……」
 その名を呼ぶ。

 だるそうにリングにあがり……

 「汚名を返上するのに……あいつと戦いたかったが……」
 スコールを見て……

 「まぁ……あんたでいいか」
 そうハイトが言う。

 ロイドという男の能力が強化系とは思えない。
 となれば……ハイトもロイドも互いに能力を生かせない。

 まぁ、こちらのチームも互いに協力しあえるようなタイプではなさそうだが……
 それでも前回のように魔力の強化付与のないハイトは若干弱体していると見ていいだろう。

 となれば、あのロイドという男の能力はどんなものか……


 「それじゃ、先鋒戦、はじめちゃうよーーーっ」
 ラビの声により試合が開始される。


 開始直後、飛び出すのはやはりヴァニ……
 手甲を身にまとうと、即座に敵陣に飛び込む。

 
 身丈の長さほどあるハンマーがロイドの手に握られる。
 鉄の棒の部分でヴァニの拳を受け止めると、
 そのヴァニの手甲を払い、そのままハンマーを横に振り回すと、
 ヴァニのわき腹にその一撃を与える。

 戦闘技術の高さは見て取れる。
 が、能力の高さはヴァニが勝っているかもしれない。

 瞬間……ぶつんと意識の飛ぶ感覚……

 奴《ハイト》の力の範囲はどこまでなのか改めて思う。

 気がつけば、ヴァニがさらに吹き飛ばされているが……
 やはり、前回のような重い一撃ではなさそうだ。

 だが、前回のように防御結界がない……
 ヴァニからするとその一撃は前回以上のダメージになっていた。

 「余裕だね……生徒会長?何もせず、勝負が終わってしまいますよ?」
 ハイトが、試合開始から一歩も動いていないスコールに吐き捨てる。

 「どちらが強いのか見定めていたところだ……場合によってはお前なんかより、そっちの方が強そうに見えるな」
 そうスコールが返す。

 「舐めるなよっ、生徒会長……あんたの2度目の敗北、僕があたえてやるよ」
 そう不適にスコールを見て笑う。

 「……身の程を知れ……集え」
 そうスコールが言うと上空に魔装具が形成される。

 「……貫けっ」
 容赦なくその魔装具がハイトを狙うが……

 「止まれっ」
 ハイトがそう呟くと……自分の周囲からゆっくりと灰色に世界が変色する。

 そう……あの日のあの油断さえなければ、僕の能力は無敵なんだ。
 例え、それが3年だろうが、生徒会長だろうが……

 ゆっくりと歩き、その魔装具の射程範囲外に身体を動かす。

 色を取り戻した世界。
 もと自分が居た場所にスコールの攻撃が落ちる。

 「使い手の性格があれでなければ、将来性のある面白い能力なんだけどな」
 リングの外からイザヨイがそうハイトを評価する。

 「確かに……あのスコールの能力を回避できるやつなどそういないな」
 ナイツがそう返す。

 ライトさえも回避することを諦めた攻撃。
 やはり、それさえも可能にするあの能力は……
 確かに驚異的な能力であることは確かだ。

 「ちっ」
 ヴァニとロイドの交戦。
 地味にヴァニが押されているようにも見える。

 ロイドの戦闘スタイルとその身丈ある武器。
 攻守のバランスが取れている。

 兎に角、攻撃に徹するヴァニの動きを旨く払い避け、
 態勢の崩れた隙を攻撃する。

 「ふむ……これは一つやつの課題のようだな」
 観戦席……アストリアがそう呟く。

 「能力の火力……これからの成長も踏まえ中々に面白……が、完全に現段階の戦闘センスはあのハンマー使いに劣っている……戦闘スタイルを変え、新しい戦い方を覚え成長するのか……そのまま、屈辱に紛れながらもその戦闘スタイルを貫くのか……その判断であいつの価値はまるっきり変わってくる」
 そうアストリアは言い、眠ったように目を瞑っているライトを見る。

 「まったく……小僧以外に興味なしか」
 そうアストリアは口をとざす。





 「……水の壁?あいつの真似事か?」
 時を止めたハイトの前にスコールの作り出した水の壁が広がっている。
 視界と多少時間のロスがされる程度……
 あの男の結界ほど厄介さはない。

 時間を止め……スコールの攻撃は回避できる。
 多少の抵抗はされるが、ゆっくりとその距離を縮める。

 後は、ゆっくりと攻撃をくわえ、
 場合によっては場外に持ち込めばいい。



 何度目の攻撃か……
 一方的に反撃を受け続けてきたヴァニ。

 何十発目かの一撃を再びロイドはハンマーの鉄の棒の部分で防ぎ、
 その拳を払いのける……



 「……ふむ、貫き通したか」
 アストリアはその様子を見て笑う。


 「なっ!?」
 ロイドの表情が変わる。

 鉄の棒にヒビが入り、二つに折れた棒をヴァニの手甲が貫き、ロイドの身体をようやく捕らえた。

 ロイドの身体が吹き飛ぶが、それでも持ち合わせた戦闘センス……
 態勢を立て直し、なんとか場外を避ける。

 「そろそろ、限界か……」
 そうハイトは呟き……

 「勝負をつけましょうか……生徒会長」
 そうハイトはスコールを睨みつけ……

 「……あぁ、そうするとしよう」
 スコールもそうハイトに返す。

 水の壁をつくりあげる……
 何の意味があるのかハイトには疑問だったが……

 構わない……

 ハイトは上空に手をかざす。

 「……止まれ」
 広がる灰色の世界……
 
 水の壁を抜け……
 拍子抜けするほどの無防備な身体に手にした棒で一撃をくわえる。

 時が戻る……

 自分の前にひざをつくスコールに棒をつきつけ……

 「次、僕が力を使えば……終わりだ、生徒会長」
 そうハイトが言い捨て……

 「……ならば、お前の負けだ、次などない」
 そう……スコールは吐き捨て……
 その言葉の意味と、水の壁の意味にようやくハイトが気がつく。

 が……すでに遅い。

 水の壁で視界を閉ざし……魔装具を形成し、自分の立ち居地にハイトが来るのを待ち能力を開放する……

 そう理解した時、数多の魔装具がハイトを貫いた。


 「勝者……スコール選手とヴァニ選手ですっ」
 そう、ラビの声が響き渡る。

 教師が少しいらだつ様に舌打ちをする……
 ロイドは意識を失ったハイトの腕を肩にまわし、リングを降りる。

 ヴァニとスコールもリングを降りる。

 
 「次鋒戦……前に出てください」

 「……わたし……でる」
 そうクロハがぼそりと言い、リングにあがる。

 「くじをひいてください」
 そう言われ、棒を抜き取る。

 「……ツキヨ=アリアケ……」
 そう読み上げる。

 「……了解した」
 めがねを左の人差し指でくいっと持ち上げ、返事をする。

 続く対戦相手……

 長く赤い髪の女性がだるそうにリングにあがる。

 「くじを引いてください」
 そうラビが近づく。

 「あぁん」
 威嚇するようにラビを見て……

 一本棒を引き抜くが……

 「えっ!?」
 引き抜いた棒をへし折った。

 「もう一人が負けたら敗北になるんだろ、だったらあたし、一人で十分……」
 そうイザヨイが吐き捨てる。

 「2対1になるけど……」
 そうラビが言うが、

 「……構わない、退屈凌ぎにちょうどいいな」
 そう不適に笑う。

 案外、今回の対戦相手で一番注意するべき相手かもしれない……
 そう思わされる。

 「負けない……」
 そうクロハが呟く。
 交流戦での……失態。
 

 「当然……この私が協力するのだから」
 くいと持ち上げたレンズの奥で目の前の敵を睨みつけていた。


 「そんじゃ、さっさとはじめてくれよ、うさぎちゃん」
 自ら背負ったハンデも、楽しむかのように目の前の敵は笑っている。