「なっ……レスが誘拐された?」

 交流戦最終戦から2日後の出来事……

 学校から帰宅した、レインはリヴァーにそう告げられた。



 「なっ…なぁ?どういうことだ?」

 かなり動揺しパニックを起こしている。



 「はい……帰宅途中……突如現れた高級車にレス様が連れ去られました……偶然居合わせた、ヴァニさんが即座に、



 「俺のレスを返しやがれっ」と叫びながら追いかけていきましたが……まだ、帰宅されていない様子を見ると……」

 そうリヴァーが言う。





 「どうした……《《俺の》》レスがどうこうと聞こえたが……」

 そう真剣にスコールが二人の話に割って入った。



 取りあえず、二人はごくりと生唾を飲み、一部の言葉が聞こえなかったふりをする。











 「なにっ、レスが誘拐された? リヴァー、お前はそれで……」

 動揺したようにスコールがリヴァーに怒鳴るように言う。



 「はい……ただ、その高級車についていた家紋ですが……」

 その続く言葉に……







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 「……ここは、いったい……」

 かなり動揺している。

 俺はどうして此処にいるのか?

 いったい、何が起きているのか?



 「どうしたんだ、レス……」

 身に覚えの無い人が優しく微笑む。

 腕を組み考えるが見に覚えが無い。





 「ここは……何処だ?」

 なんとなく落ち着く和風のつくりの家。

 家の大きさよりも大きな池のある庭……

 綺麗に生えそろった木や花……



 「レス、君が私と今日から暮らす場所だ」

 当然だろうという表情で彼女は言う。



 「自立するため、私が一人で住んでいた場所であったが……こうも早くそれが終わるとはな」

 一人、頷きながら話が進んでいく。



 「どうした、レス……不服なのか?」

 まさか、断られる訳ないよな?とばかりに不思議そうな顔を向ける。



 完全に思考が追いつかない。



 文句のつけようのない綺麗な小顔に長く美しい金髪……俺を覗くワイン色の瞳……

 文句のつけようのない抜群のスタイル……



 一瞬で虜になりそうな美しさではある……でも、

 どう説明したらよいのか……



 もちろん、あの学園には、レイン、クリア、リヴァー、アストリア、クロハ、可愛い、美しい女性は沢山いる。



 だが、この人は何処か神々しいというか……一緒に居ると緊張するというか……

 



 「いや……一緒に暮らすって?どうして……?」

 そんな話になっているんだ?



 「どうして……?わたしが君を気に入ったからだ」

 さらりと返す。



 「気に入ったって……すまない、俺は貴方のこと……」

 知らない……覚えていない?



 「あぁ、そうか……ルンライト=ブレイブだ」

 そう名乗る。



 「私がレスの事を一方的に知っていたから、てっきり君も私の事を知ってくれている気でいた……」

 そう言い訳する。



 「ライトでいい、わたしも君のことをレスと呼ぶ」

 その瞳に自分が映るたびどきりとする。



 いったい……何がどうなっているんだ……



 「こう見えて、誰かを気に入ったのは初めてなんだ、少々行き過ぎた行為だったかもしれないが……諦めてくれ」

 ライトはそう言って楽しそうに笑った。





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 「ブレイブ家の紋章……だと」

 さすがのスコールの額からも冷や汗が流れる。



 トップ3を名乗るスコール、ナイツ、ライト



 もちろん、実力は3名ともその呼び名に恥じぬ実力。

 それでも、勇者の血筋を持つとされるライトは……

 一番に敵に回したくないそんな相手だ。



 もちろん実力も去ることながら……

 彼女の高いプライド、そして良く言えば真っ直ぐな感情、悪く言えば我侭な感情……下手をすれば本気で殺し合いにまで発展しかねない。





 「……覚悟を決めなければならないか……この命に変え、レス……お前を取り戻す」

 そうスコールが誰かに誓った。





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 「いや……帰る……帰るからいいよ」

 自分のためにご飯を作り始めたライトにそう言うが……



 「帰る?君の帰る場所はここだろ?」

 何を不思議なことを言っているんだ?とライトは返す。



 「いや……俺は今はアクア家に……だから……」

 そう言うが……



 「レス、君は異世界から召喚されて来たのであろう?」

 そう返し

 「だったら、別にアクア家は君を召喚しただけに過ぎない、それだけの理由で君を所有する権利などないだろう」

 そう正論だと言いたげに言い放つ。



 わからなくもないが……

 「それを言うと、その権利とやらの行き先はきりがないだろ」

 その言葉に……



 「多少の、いざこざでレス、君が手に入るなら争うことも厭わない」

 そう凛とした態度で言う。



 「どうして、そこまで……俺を?」

 ……まったく理解ができない。



 「一つ目に……素直に君のその能力に魅力を感じた」

 ワインの瞳が迷うことなく俺を映す。



 「絶対的な防御、それを攻撃へ展開させたり、敵の能力を封じる発想力……実に見ていて感心したよ」

 そう、何かを思い出すように語る。



 「仮に君の攻撃が50、相手の攻撃が80だったとする……普通であれば当然、相手の80の攻撃に飲まれ、レス、君の負けだ」

 そうライトが言う。



 「しかし、君の場合は特殊な計算式でなりたっている……君の攻撃には防御値がのっているのさ……仮にその防御値を100としよう」

 そうライトが続ける……

 「相手の80の攻撃は君の100の防御値にかき消され、逆に君の持つ50の攻撃がそのまま相手に直撃する……そうして、君はあのスコールほどの強者の攻撃を封じ、叩きのめした」

 そう自分のことのように嬉しそうに笑い……





 「二つ目……普段は何処か頼りなさそうな面構えに見えたが、何かを決意した、仲間を守ろうとする君の顔は……私が見てきたどんな男よりも魅力的だった……その顔を私のために向けさせたい……そう思った」

 そうライトが語る。



 「三つ目……それらを踏まえて、おどけて笑う君の顔は誰よりも愛しく見えた……」

 そう言った。





 「私の勇者と呼ばれる使命……あの学園の闇を払うために、私が英雄になるために……レス、君の力が必要だ……その使命のために捨てたはずの、私の女の部分……それが、レス君を求めた……」

 そう言い……



 「どうだ……レス、これでは、私が君を求める理由にはならないか?」

 そう告げられる……





 こんな美人に思われるのが嬉しいとか……否定するのは嘘にはなるけど……

 単純に……俺の力が……彼女の助けになれるというのなら……

 こんな俺が……彼女を救えるというのなら……





 「それよりも……せっかく作った、食べてくれるよな、レス」

 そう言って、ライトが作った料理が食卓に運ばれる。



 「……え?」

 思わず驚く……

 

 「レス、君の元いた世界を少しだけ調べた、そして食材を取り寄せた」

 焼き魚や味噌汁……白い米……いったいどうやって?



 「君のその驚いた顔も愛しいな……レス、君の知らない事はまだこの世界に沢山ある……必要であれば私が教えよう、必要であれば私を頼ってくれ……そんな君に私は頼りたい……もう一度、言おう……わたしには君が必要だ」

 そうライトは優しく……それで何かにすがる様に……その綺麗なワイン色の瞳に俺を映した。







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 「なんだか、随分と面白い話になっているようだな」

 アストリアが楽しそうに笑う。



 レス奪還作戦。



 リヴァーの案でクリアを巻き込んだ。

 レスの身を案じたクリアはその付き人のアストリアを引き連れ、

 真っ先に現場に現れる。



 「約束してくれた……俺には今、あいつが必要なんだ」

 レインとの仲……それ以外にも、レスを頼りにしている。



 「レスは俺が唯一認めた男だ……誰だかしらねーけど、絶対取り返す」

 ヴァニが知らぬ誰かを睨むように言う。



 「くくくっ」

 アストリアが一人楽しそうに笑いながら、

 「実に愉快な展開だな、こんなことなら、お嬢に遠慮せず私も唾をつけておくべきであったな」

 そう零す。



 





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 「どう、レス……美味しい?」

 自分のためにつくってくれた料理を食す。

 お世辞を抜きに旨い。

 なんなら、元の世界で食べていたものより美味いとさえ思える。



 「滅茶苦茶旨い……」

 そう素直に返す。



 「良かった、食べたいものがあったら言ってくれ……作れるように努力する」

 別の世界の食べ物……

 どんな能力のもとそれを可能にしているのだろうか。



 不意にライトが庭の方に目をやる。



 「どうか……したのか?」

 そう俺が尋ねる。



 「いや……少しだけ庭の掃除をしてくる、レス、君は私の作った料理を食べていてくれ」

 そう言って立ち上がった。

 少しだけ、その雰囲気が気にはなったが……



 せっかくの料理を冷めないうちに食べたかった。





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 リヴァーの感知能力を駆使し、レスの居場所を探り当てた。



 レイン、スコール、リヴァー、ヴァニ、クリア、アストリアの6人。



 その和風の建物……

 その入り口に近づいた途端、

 足音が向こうから近づいてくる。



 一瞬にその場が凍りつき……

 アストリア以外の全員が真剣な顔に変わる。

 アストリアひとりが、未だ楽しそうに笑い……



 「わたしに何かようなのか?」

 金髪の女性が現れる。

 ワイン色の瞳……



 「き……貴様に用はない、レスをレスを返せっ!!」

 そう、レインが右手で拳銃の指のかたちを作りライトにつけつける。





 「いやだ……そう言ったら?」

 そうまるで、レスが見ていた瞳とはまるで別のように冷たいワイン色の瞳が睨みつける。



 「てめぇをぶっ飛ばす……そして連れて帰る」

 そうヴァニも加勢する。



 「わ、私も……」

 そうクリアも続く。



 「威勢はいいな……ぶっ飛ばされなければいいのか……それともぶっ飛ばし返せばいいのか?」

 レイン、クリア、ヴァニの3名一緒に動くが……



 一瞬、ライトの目が素早く動くと……



 まったく何が起きたかわからない……



 「相変わらず、規格外な奴だな……」

 「悪いが、野郎までは助けてやれなかったぞ」

 両脇にクリアとレインを抱え、アストリアが近くの家の屋根に飛び乗った。

 ヴァニだけが無残にぶっ飛ばされ……完全にノックアウトされている。



 「くっ反応……できなかった」

 自分は標的になっていなかったが……まったく持って攻撃を読めなかった。

 同じトップ3と呼ばれた頃よりもずっと……目の前の女は成長を遂げている。



 「集え……奴を捕らえろ」

 上空の水蒸気を形どり、魔力を送り……数十個の魔装具を作り上げる。



 「……手の内を見せすぎたな、それは《《分析》》済みだ」

 そうライトは言うと……

 迫ってくる魔装具を再び瞳を素早く動かす。



 光輝く剣を取り出す……

 そして、ふたたび何が起きたのか……



 一瞬で上空の魔装具が水に戻り弾けとんだ。





 「分析……または見切り……まぢで地味な割に規格外な性能をしているな奴は」

 笑いながらも、アストリアからはどこか先ほどの余裕が消えている。



 「そして……能力を必要とさえしないまでの運動能力……武術の才能……学園が認める……秀才だ」

 アストリアすらも認めるその実力……



 「どうする……続けるか?」

 そう冷たくライトが言い放つ。



 「絶体絶命……さて、どうする、お嬢」

 敵に回してはならない相手だと改めて実感する……



 「あの簒奪(さんだつ)癖さえなければ……最高にいい女なんだがな」

 そう苦笑するアストリア。



 アストリア、スコール、ライト……

 長い沈黙が続く……