「いよいよ、交流戦、最後を締めくくる競技がやってきました!」

 ラビ=ホストが絶好調なテンションで叫ぶ。



 「へぇ……こんな場所まであったんだな」

 大きなプール、そこに設置された大掛かりなアスレチック。



 「サ〇ケでもやらされるのか……」

 数々の仕掛けを見ながら俺は呟く。



 今回の競技の参加者……

 各クラス2人1組を2チームの計4名の参加になる。

 水競技とも有り、レインが名乗り出る。

 もう一人は、俺……レスと、リヴァー、クリアの4名がこのクラスからの参加が決まった。



 ……俺にこういった体力競技を任せるのは得策じゃないと思うが……

 ……しかし、中々どうして……



 周囲の普段見慣れない水着姿に、思わず顔が熱くなる。



 思わず3名の胸元に目線を送りながらも……



 リヴァーもクリアも……胸がでかい。



 「レス、貴様……今失礼な事考えておったな?」

 左手を腰に、右手で拳銃の指の形を作った人差し指を俺に向ける。



 「この左右の女が、牛みたいな乳をしているだけで、《《わたしが普通》》なのだからなっ!!」

 決して小さくないと遠まわしに告げる。



 「リヴァー、私の隣で乳を揺らすなッ!!」

 怒鳴るレインに……リヴァーは困った顔をしながら……



 「レイン様……なんだかご機嫌ななめみたいですねぇ」

 左手を頬にそえながら困まりましたと嘆く。



 「まぁ……リヴァーには悪いが、今回はリヴァーではなく、こやつとコンビを組んでやるとするか」

 そう、しかたなさそうにレインが俺を見る。



 「ま、待ってください」

 クリアが珍しく主張し話しに割り込む。



 「私だって……本来参加なんてしたくない、競技に名乗り出たんです」

 そうレインに告げた後、俺を見る。



 「《《また貴様》》か……《《こいつ》》は、《《わたし》》のものなのだ……何度言ったら理解するっ」

 そうレインがクリアに主張する。



 「あなたこそ……いつも、いつも邪魔ばかりしてっ」

 珍しくクリアが強めな発言をしている。



 「邪魔?私がいつ、貴様の邪魔をしたと言うのだ」

 そんな言い争いが続く中で……





 「さぁ、レス様……今回も優勝目指して頑張りましょう」

 手錠の様なリングが、

 俺の左手とリヴァーの右手が固定される。



 「「へっ?」」

 ヤイヤイ言い合っていた、レインとクリアの首がくいっとこちらを向き……

 思わぬ抜け駆けを果たす、リヴァーに呆然としている。



 「リヴァー……貴様……」

 目が点の状態でレインが言う。



 「今回の競技は協調性が重要です……お二人のよこしま感情では勝ち残れません」

 そう言い聞かせるように言う。



 「ぐぬぬっ……リヴァー良いか、レスの隣で乳を揺らして誑かすなよっ」

 「レス、貴様も欲情してよこしまな感情を出すのではないぞっ!」

 そう、眉毛を逆ハの字にしながら叫ぶ。





 選手が出揃い、チームが左右に別れる。

 

 各クラス1チームごとに左右に分かれ、

 異なるアスレチックをパートナーと固定された手足で挑戦し、

 奥のスイッチを押しフラッグを立てる。

 各チーム2組がスイッチを押すことで各チームゴールする権限が与えられ、

 開いたゲートからゴールを目指すというルールのようだ。



 能力の使用は自由だが、攻撃判定のある能力を直接相手にぶつけるのは反則となる。

 直接相手に能力をぶつけることは禁止だが、そこらにある障害物に能力を使って相手を妨害したり、障害物に能力をぶつけて障害物そのものを相手にぶつけるなんてことはOKという訳だ。



 「それじゃ、いちについて、よーい、どーーーんっ」

 ラビの掛け声でいっせいにスタートする。



 まずは、お決まりのように準備してあるうんてい……

 それぞれのクラスのチームがそれらに手をかけていく。



 決して早くないペースでそれに続く。



 「レス様、右前のAチーム……前方の障害物に能力をぶつけ、攻撃をしかけてきます」

 そうリヴァーに告げられ、俺は結界を支持された場所にはると、指示通りにサンドバックのようなものがチェーンに揺られながらこちらに向かってくる。

 結界に弾かれ、そのままAチームに返るとそのままバランスを崩し、体勢を直すのに苦労しているようだ。



 「さすがです、レス様」

 そう言われながらも、逆にリヴァーのその能力に改めて感心する。



 「左、Cチーム、同じく攻撃しかけてきます……左下水面に魔力を放つようです、水撃に備えてください」

 そう支持され、同じように結界をはって水撃をやり過ごす。



 各チーム互いに互いを攻撃しあう中で3方向からの妨害行動をリヴァーの支持により回避し安定し進んでいく。





 水面に落ちては一からやり直し……

 安全に進めていく。

 平均台、ネットなどの障害物を乗り越えつつ、

 繰り返される妨害をリヴァーの感知能力と防御結界で乗り越えていく。



 そして、再びうんていが現れる。

 

 「気をつけてください、場所によって弱い電流が流れているようです」

 そうリヴァーにトラップをつげられる。



 リヴァーの再び支持に従い、電流の無い場所を選び進んでいく……が



 ぬるりっ



 「「えっ?」」

 同時にそんな声をあげる。



 棒にはぬらりと透明な液体が塗られている。



 「……ローション?」

 俺がぼそりと呟く。

 魔力の感知ができるリヴァーの欠点だろうか。

 そこに頼りすぎると、このような魔力の含まない古典的な罠にかかってしまう。



 ずるりとお互いの手が滑り落ちる。



 まずいっ



 俺はフリーの右手に防御魔力をめぐらせると、

 一つ右のうんていに右手を即座に移した。



 弱い電流……もちろん防壁をはってる腕で耐えられない訳ではない。

 だが……完全に両手を滑らせたリヴァーと、

 つられるように落ちた俺の左腕……

 そして、咄嗟に俺の腰あたりにしがみついたリヴァー。



 もちろんリヴァーはお世辞じゃなく軽い。

 その豊富な胸元があるのに軽い。



 だが……自慢じゃないが俺は右手だけでこの状況を耐え続けられる体力はない。



 必死にしがみつくリヴァー。

 リヴァーの顔が丁度、俺の股間のあたりにうずくまるように……



 ちょっと……待て?

 これってすっげぇ……絵面的にまずい状況なんじゃ……?





 「こらっ……貴様ら、どさくさ紛れに何をやっておるっ!!」

 隣のコースからそんな叫び声が聞こえる。

 レインが顔を真っ赤に叫んでいるようだ。



 「は、ハレンチですっ」

 クリアもその隣で叫ぶ。



 「違うっ……それどころじゃ……」

 腰にしがみつくリヴァーがゆっくりゆっくり下に下がっていく。

 

 「あ……あぁ……」

 思わず情けない声をあげる。



 ズボンが……リヴァーと一緒に俺の海パンが下がっていく。



 「レスっ、貴様……その声はなんだっ」

 

 「違う、そう言って……リヴァー、これ以上は……まず……い」

 これ以上は……俺の産まれたままの姿を晒すことになる……



 「まずい?これ以上はまずいって……貴様はっ?」

 隣の仲間チームも俺らが気になって試合どころではないようだ。



 「このままでは……ごめん、リヴァー、一度……(手を離す)」

 そう……リヴァーに伝える。

 明らかにずり下がっている俺の海パン……周囲から変な誤解を産んでしまう。

 それに、もしかするとすでにリヴァーの目線からはそれが目に入ってしまってる恐れさえある。



 「駄目です……レス様、このままイ(行)ってください」

 運動力のある二人ではない。

 お互いの能力でここまでトップで来たが、ここでスタートに戻っては、

 運動量で負けている分、再びここまで戻ってくるのは確かにつらいものがある。



 「イ……!?、A組、B組、C組っ、何をしているっ、そやつらをさっさと妨害しろっ」

 ついにレインが他のクラスの味方をし始めた。



 「貴様も私の横で乳を揺らす暇があったらさっさとゴールするぞ」

 「乳、揺ら……あなたが無駄に暴れるからじゃないっ」

 レインとクリアも火がついたように……最後の追い上げに入る。



 反動をつけ、右手だけで一歩、一歩次の棒に飛び移るように……進んでいく。



 そのたび、ずるり、ずるりと海パンとリヴァーの落下も進んでいく。

 そして、ようやく床のある場所が見えると……俺は一気に飛び移る。



 完全に下がった海パン……リヴァーの顔のお陰でそのお披露目には至らなかったが……あわててズボンをあげる。



 「レス様……何とか(落下せずに)イ(行)けましたね?」

 「あぁ……リヴァー(が軽くて)助かったよ」

 そう言って、再びフラッグを立てるためゴールを目指すが、

 何やら、隣でレインとクリアが顔を真っ赤に叫んでいるようだった。



 だいぶ稼いだ差も随分と縮まっていたが、なんとか1着でフラッグを立てた。

 後は、向こうの二人がフラッグを立てるのを待つだけだが……



 レインとクリアがフラッグを立て、ゴールを目指せるようになった頃には、

 すでにほとんどのチームが同様にゴールを目指す権利を得ており、

 正直、二人の体力で勝利を掴むのは難しいと判断できる……



 それは、レインとクリアのチームも同様だろう。



 「なぁ……リヴァー、これは反則になるのかな?」

 そうリヴァーに尋ねる。



 「どうでしょう……でも、フラッグを立てたことで、ゴールする権限は得ている訳ですから」

 そうリヴァーが返す。



 各チームが懸命にアスレチックに挑戦し、お互いに妨害を続けているのを傍観しながら……



 「能力を……誰の妨害にも使ってないしな」

 俺はそう言って……



 「一緒に行こうか、リヴァー」

 「はい、レス様がよければ」

 そんな台詞にレインとクリアが反応する中……

 二人で水の中に飛び込む。



 が……水面にはった俺の結界を足場に落下が防がれる。

 そして、二人でゴールまで繋ぎあわせた結界を走りぬけた。



 障害物も妨害もない……一直線に……





 「これは、また……前代未聞の展開です……」

 司会のラビも……どう反応していいかわからないようにそのトップでゴールする二人を向かい入れる。



 「優勝は特別クラス……レス選手、リヴァー選手のお二人です!!」

 釈然としない様子のまま、ラビがその勝者の名をあげる。





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 「まったく……この俺が、あんな奴に負けたのか」

 やれやれとその試合を見届けたスコールがぼやく。



 「くっくっく……本当に馬鹿だな」

 その隣でアストリアが楽しそうに笑っている。



 「だが……」

 始終を見届けたスコールがその場を立ち上がり立ち去ろうとする中、アストリアの方に振り返り……



 「アストリア、お前が言うように……あいつの滅茶苦茶加減は、この学園の闇を見事にかき乱してくれる……本当にそんな気がしてきた」

 そうスコールがアストリアに言う。



 「あやつは決して、歴史の表には立たぬだろう……だが、その歴史を動かす誰かの後ろには、必ずあやつが立っている……」

 そうアストリアがスコールの方を見ず告げる。



 「確かに……トリア、スコール、お前たちが、彼を気にかける理由がわかった気がする」

 そう金髪の女性が会話に割って入る。

 ルンライト=ブレイブ

 男も女もとりこにするような完璧な容姿とスタイル……



 「ライト……珍しいな、どういう風のふきまわしだ?」

 そうトリアがライトに問う。



 「単純に……興味が沸いた、それだけさ」

 そうライトの目はレスを追っていた。









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 取りあえず反則は取られず、表彰台を降りると……

 共に戦った、レインとクリアが俺とリヴァーを称えるように待っていた……



 犬猿の二人が珍しく息を合わせたように、

 悪魔がゆっくりと行進してくるように両腕を開きノシノシと眉を逆ハの字に歩み寄ってくる。





 無事……交流戦を終わった……と思いたかったが……

 彼女たちの誤解を解く……

 一番の課題が残っているようだ。