その後の競技も何とか終え……
 運動的な競技は、ほぼ回復をしたクロハがトップの成績でクリアしてきた。

 一応、何でも有りのうたっている交流戦だ。
 彼女の能力は反則にはならないだろう。

 そんな日曜の予定……と言ってよいのかはわからないが、
 クリア=スノーから思いがけない誘いを受ける。


 明日の日曜、この世界に着てからまだ間もない。
 覚えること、やるべきことは沢山あるとは思ったが……

 それらをこの世界の書物で得るのも悪くない。
 クリアに何かそういう本を借りられないか頼んだところ、
 俺がこっちの世界に持ち込んだ本のいくつかも読んでみたいと彼女が言い、
 お互いの本を貸し借りする話になったが……


 「あの……よければ、よければですけど……今度の日曜、私の家で読書会をしませんか?」
 とそう告げられた。

 最初は、読書をするのに2人で黙々と読むのはどうだろうとは思ったが……
 その場でお互いに、その作品の感想を言い合うのも悪くないなと思った。

 俺はその言葉に二つ返事で了承したが……


 クリア家に招待された当日……
 俺はこの世界に持ち込んだスーツと学園の制服……そしてリヴァーさんに用意してもらった部屋着くらいしか持って居ない……


 「どうした、レス……困りごとか?」
 何やら困り顔で考え込んでいた俺をスコールは見てそう訪ねる。

 「いや……明日、ちょっとクラスメートと出かける事になったんだが……思ってみたら俺、こっちの世界の服持ってなくてな……」
 そう言うと、少しスコールは考え込んで……

 「……まぁ、俺ほどじゃないが、レス…お前もそこそこスタイルは悪くない、身長も俺より少し低いといったところか……そうだな、俺のもので良ければ一着、二着くれてやる」
 そうスコールが提案する。
 いやいや……俺の居た世界で言うところの一流アイドルクラスのお方が着る服……
 俺に似合うわけが……とも思うが、他に頼るやつも居ない現状。

 実際着る着ない別で、その言葉に甘えて、服を見てみる。


 俺のこれまでの人生で縁が無かったようなセンスの塊過ぎる服の数々……

 スコールが俺の姿を眺めながら、このあたりか……
 そういって、俺をコーディネートしていく。


 ちょっと……自分の姿が気恥ずかしいが……

 「悪い、今日1日……借りることにする」
 そんな俺の言葉に……

 「……他でもない、お前の頼みだ、くれてやる、そう言ったはずだ」
 あっさりとそうスコールが言う。

 「安心しろ、案外似合っている、俺が保障する」
 そうスコールが笑った。






 「孫にも衣装とは……このことか」
 外出しようとした俺とすれ違ったレインとリヴァー
 レインは目を丸くしてそう呟く。

 心なしか少し二人の顔が赤らんで見えたが……

 「それは、そうとそんな洒落こんで貴様は何処へ行くのだ?」
 目を細めそうレインが俺に尋ねる……

 「いや……ちょっとクラスメートに誘われてな、少し読書を」
 そう俺が返すが……

 「《《クラスメート》》?」
 その遠まわしの言い方に逆に食いつく。
 
 「レイン様……レス様はこれからもお世話になるお相手ですよ、余り私物化するとレス様に嫌われてしまいますよ」
 そうリヴァーがフォローする。

 「うむ……わかっている、まさかそのクラスメートというのがクリア=スノーとかいう女じゃないかと、ちょっとだけ疑っただけだ」
 その台詞にすこしだけどきりとした。
 彼女だと、何かまずいのだろうか……


 その後もリヴァーの助けもあって何とか外に出る。

 待ち合わせ場所……
 以前に、レインに教科書を買って貰った本屋。
 そこで待ち合わせをした。

 「ほぉ……小僧にしては中々、良いセンスをしているな」
 護衛するようにその場に居合わせたアストリア。
 俺の姿を感心するように見ている。

 「お前はもっと地味な服装を好むと思っていたが……」
 そう笑いながらアストリアが言う。
 その傍で、クリアが少し顔を赤らめながら俺を見ている。


 「……あぁ、俺じゃないよ……生徒会長のセンスだよ」
 俺は少しふてくされたように言う。

 「……なおさら、誇るべきだ、《《そんな真似》》ができる奴、わたしはお前以外に見たこと無い……まさか、あいつの心まで開くとは、小僧、お前はつくづく面白いな」
 そうアストリアが笑った。


 「アストリア?」
 少しだけ面白くなさそうにクリアがその名を呼んだ。

 「ごめん、ごめん……クリア様、それじゃ、小僧……いやレスをお連れして帰りましょう」
 そうアストリアはちっとも詫び入れる素振りもなく言う。
 


 スノー邸につく。
 アクア邸も負けぬ大きさの豪邸ではあるが……
 

 スノー邸に入ると、アストリアはすぐに別の場所に行った。

 クリアに案内されてひとつの部屋に訪れる。


 書庫かとも思えるような……広い部屋のほとんどが本棚に埋め尽くされている。
 
 「私の部屋です」
 まるで、俺の反応を恐れるかのように……そう少し怯えたように告げる。

 「すげぇ、本当に本が好きなんだな」
 俺は素直にそう感想を漏らすが……

 「……引きますよね……レスさんも私を軽蔑しますか?」
 そう目線を反らし尋ねる。

 レスさん《《も》》……か。
 そう言葉を噛み砕きながら……


 「……俺に比べれば可愛いもんだぜ……たぶん、俺の部屋を見たらクリアが俺を軽蔑するレベルだ」
 そう返すが……クリアは顔を真っ赤にして……

 「しませんっ……絶対に……」
 そうクリアが否定する。

 「好きの感情を大切にできるレスさんの好きなものを軽蔑なんて……」
 そう、過去を振り返りクリアが少し強い口調で否定を続けた。


 しばらくして、俺は部屋の本を数札、クリアは俺が持ってきた、俺が元居た世界の様子がわかる本を所望したため、それらの漫画や小説を手渡した。

 互いに、集中して読むように黙って本を読み続けるが、
 その目線が気になり、クリアの方を見ると、目と目が合う。

 あわてて、クリアが持っていた本で目線を隠し、本に集中しているふりをしている。


 自分の好きなものを共有している相手が居るというのは、やはり嬉しいものだ。


 「どう、クリア、好きな作品や好きなキャラは居たか?」
 俺はつい、無邪気にそんな質問をしてみる。

 「あっ……えっと……」
 読んでいる本を下げ、再び目元だけを覗かせる。

 「あの、もう一度全部、集中して読み直したいので、またお借りしてもいいですか?」
 そうクリアは俺に返す。

 「あぁ、ぜひ……それより、やっぱり一人の方が集中して読みやすいか?」
 そろそろ……遠慮するべきだろうか。
 

 「いえ、駄目ですっ……えっと、そのそうじゃなくて……レスさんの時間が許す限りは……駄目なんです」
 最後のほうは自分でも何を言っているのかわからず小声になる。


 「あの……レスさんは、そのお気に召したのはありましたか?」
 そうクリアが聞いてくる。

 俺は何作品か自分が気に入った作品をあげ、数時間再び読書を続けると、
 さすがに立ち上がり、アクア邸に帰ることにする。

 少しだけ寂しそうに……今回はクリアも承諾する。


 「また……遊びに来てもいいか?」
 俺がクリアにそう尋ねると……

 「は……はい、ぜひ!」
 そう慌てて答える。

 ……しかし、俺がこっちに持ち込めたモノは数がしれている。
 どうしたものか……
 俺の世界のものをこちらに持ち出すような……そんな便利な魔法が……


 「なんだ……帰るのか?」
 屋敷の玄関にあたる場所の壁を背にアストリアが立っていた。

 「……送って来よう、クリア様の大事な客人だ」
 そう、ほかに目的がありそうな口調でアストリアが言った。

 そこで、クリアとは別れを告げて屋敷を出た。


 帰り道……

 「小僧、どうだ……今回の交流戦、小僧の活躍……周囲の見る目が変わったのではないか?」
 そうアストリアが俺に問う。

 「……小生意気な、時を止める1年坊主……まぁ、いきるには、時を止める以外の能力が低すぎるがな、奴が封じた10秒間さえ耐えしのげば、再度能力を発動する前にあやつをぶっ飛ばすだけの話だ……だが、それでも1学年で魔力が増幅されているあやつに対抗できたのは、貴様と数名いたかどうかであろう」
 そう、アストリアが評価する。

 「で、何よりも……お前が、表向き、学園最強と言われているあのスコールに勝ったというのは、実に学園に影響をもたらすだろうな……今は状況を読み込めていない奴らも次第に小僧を評価し始めるだろう、だが……それをよしとしない奴らもいるのは確かだ……生徒会をうまく味方に引き込んだことは大きいが、まだ裏にはよくない連中は沢山いるのも確かだ」
 そうアストリアが俺に助言する。


 「と……なんだ、貴様を熱愛する者がお前の遅い帰宅を心配しているようだぞ」
 アクア邸に近づき、一人の男の気配に気がつきそうアストリアが言った。

 「それじゃ、わたしはあらぬ嫉妬で敵意を向けられぬよう立ち去るとしよう」
 そう言って、来た道を再び振り返り、立ち去った。


 「……遅かったな、レス……」
 スコールの傍までよると、そう話しかけられる。

 「……トリアに何か変な事を吹き込まれたんじゃないだろうな?」
 そう、聞かれるが……

 「……彼女には良くして貰ってる……今も此処まで夜道を案内してくれた」
 そう返した。

 「そうか……だったらいい」
 そう言って、二人でアクア邸の方へ戻る。

 「聞いたか……もしくはお前の事だ、なんとなく勘付いているのかもしれないが……あの学園には少し闇がある……俺はレインを懸命にすみに追いやるだけで守ったつもりだったが……今後はそうもいかないだろう……お前のお陰で、俺も随分と権力も威厳も失ったからな」
 そう少し嫌味を含めたような笑いをする。

 「……あいつの助けになってやってくれ……」
 そう、スコールが小さく俺に乞う。

 「……俺もそれなりにお前の力になろう、それでどうだ、レス……生徒会に入る気は無いか?お前なら歓迎してやる」
 そうスコールが俺を勧誘するが……

 「悪い、遠慮する……そういうの苦手なんだ……そもそも器じゃない」
 そう返した。

 「……確かに、お前はそんな感じだな」
 誘っておきながら、スコールはそう言って笑った。




 ・・・



 スノー邸、クリアの部屋。
 クリアは俺が気に入ったといった本を手に取ると、
 元々、自分のお気に入りの本棚に入っていた本を元に戻す。

 それとは別に、別の棚に収めていた俺が気に入った本を元の場所に戻さず……
 お気に入りの棚に入っていた本を数札抜き取るとその本と差し替えた。

 「あなたが守ってくれた好きを……共有したいです」
 「あなたと共有できるそれを……あなたにもっと近づけたいのです……あなたが守ってくれた好きをそんな風に扱ってしまう私を軽蔑しますか?」

 身鏡に映る自分の姿……そんな自分に問いかけるように……