電車に乗ってやってきた町外れの郷土史資料館は五十年前からそこにあるらしく、入る前から何となく嫌な感じを感じていた。

嫌な感じ、というのはその場所やその建物、たまに人間なんかにもまとわりついている紫暗の靄のことだ。

まだ約八年程度しか生きていないけれど、これまでの経験からその禍々しい色をした靄がまとわりついている所には必ず妖怪がいるか悪いことが起きる。

前の小学校がそうだった。


入口で立ち止まっていれば先生から「松山くん、ちゃんと列に並んで」と注意を受けた。その隣には怖いと有名な学年主任の先生もいて、ぎゅっと掌を握る。


「松山くんどうしたの? 先行っちゃうよ?」


クラスの最後尾の女の子が不思議そうな顔をしながら通り過ぎた。

それでもその場から動こうとしない自分に困ったように眉を下げた担任は助けを求めるように学年主任へ視線を送り、その視線はやがて「さっさと歩け松山!」という学年主任の怒鳴り声に変換された。

怒鳴られたことで帰って弾みがついたのか、ぎゅっと目を瞑り中へ駆け込む。

恐る恐る目を開けると、そこには何の変哲もないよくある少し寂れた公民館のような施設が広がっているだけだった。


「あれ……?」


もっとおどろおどろしい光景を覚悟していたのに紫暗の靄は外に広がっていただけで、施設の中は埃臭い乾いた空気が広がっているだけだった。

確かに空気は重苦しいけれど、こういう施設は何処もこんな感じなんだろう。