毎朝、登校班の六年生に手を引かれて泣きながら通ったその小学校は二年生の三学期で転校する事になった。
両親から転校の話をされた時は、もうあの学校へいかないでいいという事に飛び跳ねて喜んだ気がする。三年生に進級するタイミングで、今度は愛媛にある小学校へ入学した。
進学先の学校は前に比べると小綺麗で、創立されてからまだ十数年という事で怖いものはあまり住み着いていなかった。恐らくこの頃から、自分に見えていないそれが妖怪と呼ばれるものなのだと理解していたはずだ。
帰宅して習い事に行くまでの間の許された時間で見ていた妖怪アニメに登場する妖怪に何となく似ていたからだ。
妖怪を上手くスルーする方法も編み出した。
まず目を合わせないこと、目が合ってしまっても見えていないフリをすること、あからさまに怖がらないこと。あからさまに怖がれば奴らは近付いてきて、もっと怖がらせようとしてくるからだ。
そしてどうしても怖くて仕方ない時は「あっち行け!」と大きな声で叫べば、奴らは鉄板に落ちた水滴みたいにジュワッと弾けて消えてしまう。
そうやって独自の対応術を編み出した僕は、新しい学校で新しい友達にも恵まれ、それなりに楽しく過ごしていた。
事件が起きたのはその年の二学期、社会科見学で訪れた郷土史資料館でだった。