日記を書くようになった理由は、もう一つ心当たりがある。
小さい頃から自分にだけ見えていた"怖くて恐ろしいものの"せいだ。
小さい子供が暗闇や人気のない場所を怖がるのはよくある事だと考えていた両親は自分のことを"怖がりで臆病な繊細な子供"だと思ったらしい。
だからか、根性を叩き直すためと空手道場の体験に連れていかれた事もあった。幸いな事に僕があまりにも向いていなかったので、監督が「息子さんは他のスポーツの方が向いてますよ」と言ってくれて習い事が増えることはなかった。
まぁとにかく未就学児は自分以外の人には見えないイマジナリーフレンドがいるものだし、僕もその類だと思われたようだ。
怖いと泣けば呆れた顔で手を引いてくれたのを何となく覚えている。その頃はまだ良かった。まだ、幸せな記憶があった。けれど小学校へ入学した年に両親は態度を変えた。
小学校受験は父の3度目の転勤と被ってしまい、引越し先の公立の小学校に進学した入学式の日だった。
小学校は公立ながらに創立100年を超える伝統ある学校で、僕が見てきた"怖くて恐ろしいもの"が至る所に住み着いていた。
恐ろしさのあまり校舎の中へ入ることも出来ず、先生に宥められても頑なに入ろうとしない自分に、母は顔を真っ赤にして「いい加減にしなさい!」と高い声で怒鳴りつけ僕の頬を叩いた。
その日を境に僕が"怖くて恐ろしいもの"の話をすると、両親は僕を叩くようになった。そうして僕は"怖くて恐ろしいもの"は口にしてはいけないと学んだ。
けれどその記憶をただ自分の心の中や頭の中に留めておくのは恐ろしくて、恐ろしい記憶を頭の中から移そう必死にノートに綴っていたんだろう。