床に叩きつけるだけでは、ダメージが少ないだろう。

 サードは、戦闘本能のままに手刀を固め、『敵』を潰しにかかろうとしたところで――相手が知った顔であることに気付いて、相手の顔面を抉る直前に手を止めた。

 すると、床に叩きつけられた長身の男子生徒が、青白い顔にぎこちない笑顔を浮かべて「や、やっほー」と力なく挨拶してきた。

「いきなり攻撃してくるとか酷いよ、サード君……」
「勝手に名前を呼ぶんじゃねぇよ、生徒会会計。元戦闘用奴隷である俺の後ろに、気配を殺して近づく方が悪い」
「つ、次からは気を付けます」

 サードが溜息をこぼして上から退くと、しばし呆けていたリューが、慌てたようにその男子生徒を助け起こしにかかった。

 癖毛を持った少し色素の薄い柔らかい金髪、少し大きめで垂れた瞳は鮮やかな紫の瞳。緊張感もなく柔和な笑顔を浮かべた長身で美麗なその少年は、生徒会会計を務める三学年のユーリスだった。

 侯爵家の次男であるユーリスは、学年に隔たりなく友人の幅を広げており、サードにも気軽に声をかけてくる変わり者である。