そう考えると、ますます欲しくなって、サードは「飼えないかなぁ」と呟いて仔猫を抱き寄せた。ピンクの肉球に頬を押し返され、それが可笑しくて笑い声を上げると、明るい鳶色にも見える猫の目が見開いた。

 その時、授業の終了を告げるベルが鳴り響いて、腕の中にいた仔猫が身をよじった。

 サードが解放してやると、仔猫は彼から少し距離を取るように草むらの手前まで逃げて、そこで一度足を止めてこちらを振り返ってきた。

「もう帰っちまうのか?」
「に、にゃー……」
「帰る場所があるんなら、それでいいんだ。困ったことがあった時は、助けてやるから、その時にはまたココにおいで」

 そう声を掛けると、仔猫は渋るように尻尾を揺らせた。それから草むらの中へ身を翻して、走り去って行ってしまった。

 小さな足音が遠ざかっていくのを聞きながら、サードは「よし」と膝を叩いて立ち上がった。放課後の会議に必要な資料を一旦風紀委員室へ取りに戻るため、何事もなかったような顔で、校舎へ向けて歩き出したのだった。