もっと食べろと、トム・サリファンは一緒の暮らしが始まってからいつも言った。けれど、腹が減らないから無理だとサードは教えた。だって決まった時間に、決まった量の乾燥フードとサプリメントを摂り、定められた時間内に『悪魔の血の丸薬』を服用する以外に、この身体はほとんど何も求めないからだ。

 繰り返される実験で、正常な痛覚が遠のくと共に多くの何かを失ったような気がする。今でも、胸に込み上げる感情の正体は分からないままだ。

 きっと今は腹が空いているに違いない、という僅かな感覚と時間を頼りに、地上での研修期間の半年で、どうにか一日三度は食事をとるよう習慣付けた。

 柔らかいパンが気に入って、トム・サリファンが仏頂面でパンを焼いている時、匂いに気付くたびキッチンを覗き込んだりもした。

 あれは、療養食から通常食への移行だったのだろう。トム・サリファンは「私は独身だ、自炊くらいする」「ここに使用人を入れられないから仕方がない」とぶっきらぼうに言いながら、白衣の上から大きなエプロンをつけて、いつも医学寄りの料理本を片手にキッチンに立っていた。