体内の悪魔細胞と人間細胞が、崩壊と再生の足並みをちょうど揃えたらしい。そっと触れて内臓の強度を確認してみると、まだ潰れる気配はない。

 それでも動かすたび、筋肉がギシリと硬直するような気だるい違和感は起こりつつあった。安定している今を過ぎてしまったら、あとは一気に最後まで壊れ続けるのだろう。

 そばに誰がいようと、もう構わない事にした。一時の安定した穏やかさを思い、サードは少しだけ目を閉じた。
 
 先程触れてきたロイの手や、トム・サリファンに腕を掴まれて「お前は『サード』だ。さぁ捕まえたぞ、悪ガキめ」と引き止められた手。スミラギに「逆さ吊りにしてあげます」と脇腹に抱えられた時の感触や、甘いココアの熱が、本当はどのような温度と力強さを持っていたのか――は、考えないようにした。

 人の心があるほど最期は辛くなる、とトム・サリファンが言った事があった。

 未練や心残りを与えるくらいならば、兵器として殺してやれと、地下の研究施設で誰かが喚いていた言葉も覚えている。