けれど、まぁ悪い事ばかりではなかった。外の世界を少しだけ見て、触れ、それを目に焼きつける事が出来て、良かった。

「…………おい、聞こえてるか?」

 ふと、心地良い眠りを妨げられるように肩を揺すられた。

 サードは、嫌々ながら目を開けた。すると、座っているロイがこちらを覗き込んでいる顔があって、忌々しげに睨み付けた。

「……なんだよ。まだ死んでねぇよ。いちいち声を掛けるんじゃねぇ」
「いちおう訊いておいてやる。お前、将来『皇帝』になった俺に仕えたいと思っているか?」

 尋ねるロイの顔には、見た事もない爽やかな笑顔が浮かんでいた。かすり傷や煤や汗に汚れてていも、王子様然とした美貌は目に眩しく、どこか艶やかな色気すら感じさせるが、――何故か彼の目は笑っていない。

 それは、スミラギの絶対零度の目に似ていた。つまり自分は今、理由は分からないが、奴から圧力をかけられているのだろう。

 けれどサードは、フッと強がって不敵な笑みを返して見せた。

「くそくらえ」

 ここぞとばかりに、そう答えていた。もう自分は『サード・サリファン』を演じる必要がないのだ。今まで、ずっと言いたかった自分の言葉で口にする。