お前だって、痛みで震えているじゃないか。

 そう言葉を返そうとしたサードは、すぐに声を出す事も出来なくて、結局は開きかけた唇をそのまま閉じた。痛覚が戻ったような、目の奥がチカチカとする久しいほどの激しい痛みに、静かにしている他に術がなかった。

 悪魔の心臓を貫いたロイの剣は、背後から拘束するサードの腹部も貫いていた。身を貫いたその剣は、超治癒再生を阻み、耐えがたい激痛となって五感を走り抜ける。

 心臓を貫かれた悪魔の方が、こちらとは比べ物にならないほどの強烈な苦痛を感じているはずだ。それなのに悪魔は、相変わらず呑気な笑顔を浮かべていた。

 悪魔の心音が弱まるのを感じながら、サードは拘束する力をもう一度だけ強めた。胃から込み上げた血が口の中に溜まって、とうとう唇から溢れ出すのを感じながら、ぼんやりと「痛いな」と思った。


「痛いなぁ」


 その時、悪魔が、どこか懐かしむようにそう呟いた。

 ふと、スミラギの「悪魔がもとは魔物だった」という話がサードの頭を過ぎっていった。どこでどう変異したのか分からない。でも悪魔にも、痛みが存在していた頃があったのではないだろうか?