サードは、別棟へ続く回廊前の時計で時刻を見やった。そろそろ、先に投薬してから五時間になる頃合いだと確認して、歩きながら胸ポケットに常備している『悪魔の血の丸薬』を口に放り込み、一気に噛み砕いた。

 吐き気がするほど苦くて甘い、悪魔の血の味がした。

 これを甘いと感じる味覚が、既に普通の人間の感覚からは離れているのだろうな、と、サードはぼんやりとそんなことを思った。

 計画の下準備は、ほぼ完了していた。『月食』の当日に全生徒を学園の外に避難させ、悪魔でさえ破れない強固結界を発動させる手筈も整え済みだ。外に配置されている衛兵の半分以上が、既に王宮魔術師と王宮騎士団の人間と入れ替わっている。

 どうせ死ぬのだったら、悪魔を道連れに、派手な終止符を打ってやろう。

 改めてそれを思った時、初めて理事長に会った際、未来について訊かれ「悪魔に脅かされる実験体のない未来が欲しいと思う」と正直に答えた一件を思い出した。理事長はあの時、「――君が恐れを知らないのは、守りたいものも、未来もないからだ」と叱りつけるように言ったのだった。