「まだまだ遅いよ」

 悪魔がひらりと身をかわして言い、左手の甲で――とんっ、と軽くソーマの身体を払った。

 その一瞬後、ソーマが巨大な鉄球砲でも受けたかのように吹き飛んだ。少し離れた場所で攻撃のタイミングを待っていたユーリスが、飛んできた彼の身体を慌てて受け留め、一緒になって地面の上を転がる。

 ソーマが攻撃を受けた一瞬、ギシリ、と軋む気配をサードは耳で拾っていた。骨と内臓が損傷するような音がなかったのは、幸いだ。

 やはり生身の人間と悪魔では、能力に差がありすぎる。

 サードはすぐに悪魔へ向かうと、連続的に攻撃を打ち込んだ。少しの余裕すら与えないほどに攻撃すれば、いずれ隙が出てくるだろう。

 休まず繰り出すサードの爪が、ぎりぎり悪魔の皮膚を掠る。次々と攻防が変わる中、再び剣を噛み砕かれた悪魔も、爪での攻撃に移行して彼の皮膚を浅く裂いた。

 双方共に、傷や怪我に意識を向けるという感覚を持ち合わせていなかったため、躊躇や遠慮もなかった。けれど、それは人間相手であればないような反応で、痛みへの反応がないと気付いた悪魔が、攻撃の手を緩めて「おや?」と首を傾げた。

 その僅かな隙を逃さず、サードは悪魔の脇腹を抉って、直後には肩を半分ほど引き千切っていた。