「しかし、見えない状況にしたら、私たちの方にとっては不利になるのではありませんか? いつ上にいる悪魔から攻撃をされてもおかしくはない。もし会長の動揺を誘うために攻撃を放たれたとしたら、回避するのは難しいですよ」

 レオンが懸念を伝えると、ユーリスは「今のところは平気そうだよ」と肩をすくめて見せた。

「悪魔は今、ロイ君との戦いに夢中みたいだし。そもそも俺たちの血も『宣誓契約』に含まれているから、悪魔は魔法攻撃は仕掛けられない。ひとまず戦いに交えてくれるまでに、こっちの『死食い犬』を倒しておけば、俺らも後で悪魔との戦いに集中できる」

 その時、近くで一際大きな爆音が上がって砂埃が舞った。運動場の砂埃の向こうから魔獣が迫る気配を察知して、サードは反射的に身構えた。

 気付いたユーリスが、「風よ! 我が声に応えよ!」と左手で素早く魔術陣を切った。直後に強風で砂埃が吹き飛ばされ、エミルの華奢な背中と、彼に殺されて絶命した『死食い犬』の光景が目に飛び込んできた。

 エミルは、正面から魔獣の開いた口に大剣を突き刺していた。彼の身体よりも長い大剣の刃は、魔獣の喉から心臓までを正確に貫くような軌道だった。

 呆気に取られて見つめていると、こちらに気付いたエミルが「ん?」と可愛らしい声を上げて振り返った。

「あ! みんな無事だったんだね~」

 彼は可愛らしい声でそう言うと、まるで重量感を覚えさせない軽い動きで、魔獣の口に突き刺していた大剣を引き抜いて近寄ってきた。