おかげで、すぐに安否を確認することは叶わない。何より、前方を大きく遮る、この『死食い犬』の頭が邪魔だ。

 魔獣の殺気立った赤い目と、数秒睨み合っていた。

 互いに一番の反撃するタイミングを待ちながら、殺すことだけに意識を集中するサードの赤い目と、食らいつきたい魔獣の赤い目が鈍く光を灯す。

 その直後、サードは素早く手を離すと、噛みつこうと頭を振り上げた『死食い犬』の横面に強靭な蹴りを叩き込んでいた。魔獣の顔骨は想像以上に硬く、骨にダメージを与えられなかったと察してすぐ、顎の下から第二撃を放つ。

 顎下を蹴り上げられた魔獣の巨体が、その威力に僅かに浮いてぐらりと揺れた。一瞬の隙が出来たのを見て取り、サードはチャンスだと自身の爪を構えた。

 だが、不意に、片目を血で濡らしたソーマが宙を舞うのが見えてハッとした。そのそばには、彼を宙へと突き上げた『死食い犬』が、跳躍しようと四肢で地を踏みしめて屈んでいる姿があった。