悪魔には表情筋というものがないのか、そう口にしている間も仮面のような不気味な笑顔は崩れなかった。動いているのは唇だけで、どの男が『皇帝』だったかを捜すように、鈍い光を灯す赤い目がサード達を順繰り見やっていく。

 人間の顔の区別が付かないというのは、本当であるらしい。

 そう察しながらも、サードは生まれて初めて感じる強い畏怖と同時に、ようやく全力で潰しあえる『最高の獲物』を前にしたような高揚感を覚えた。随分昔に失った激しい空腹感に似た乾きに、知らず唾を飲み込む。

 先程倒したものとは比べ物にならないほど巨大な『死食い犬』が、獰猛な歯を剥き出しに低い呻り声を上げた。身体は見事な艶を持った黒く柔らかな体毛に覆われ、口から覗く歯茎もまるで死体とは思えないほど瑞々しい色をしていた。空中をがりがりと掻く大きな爪は、鋭利な鎌を思わせる。

 もしかしたらスミラギの仮説の通り、悪魔は、元を辿れば本当に魔物やら魔獣やらと同じ種であったのかもしれない。