今回は精密検査が入る予定であるので、普段より時間が掛かってしまうことも考慮しなければならないだろう。この身体も『ガタが出始めている』ので、風紀の仕事が忙しいという理由だけで、その時間を短縮させることは出来なかった。

 サードの身体は、この一年で随分予定寿命を下回ってしまっていた。今回の詳細検診で、身体の寿命が、どれほど短くなったのかハッキリするらしい。

 さて、どのタイミングで抜けるべきか。
 そうサードが考えつつ日程表と睨みあっていると、不意に理事長がこう言った。

「『月食』の時が近い。君の身体に故障があるのは、望ましいことではない」

 理事長は淡々と言葉を発する人なので、表情もほとんど変わらない。日程表から視線を上げたサードは、彼の深い漆黒の瞳をしばし見つめ返した。

 故障、という言い方に対しての回答がすぐに浮かばない。一体何を指していて、どういう意図があっての質問なのか。恐らく嫌悪感などもあるのだろうと推測したサードは、ひとまず場の空気を和らげるべく、少年らしい笑みを浮かべてから、こう答えた。