ユーリスとレオンの間に、僅かに微妙な空気が流れた。しかし、その時、複数の獣の足音が階段から迫ってくる気配を感じ取って、サードはそちらへと全神経を向けていた。

 サードは、そちらへ向かって歩き出した。背中越しに後ろ手を振って彼らに言う。

「つうわけだから、お前らはスミラギのところに行って、事が終わるまで大人しくしてろ。後は俺の方でやっておくから、勝手に動くなよ」
「あなたは私の上司ですか? お断りします。私に命令出来るのは、私の『皇帝』である会長だけです」

 レオンが説教するような口調で言いながら、サードの左側に並ぶように歩き出し、短い呪文を唱えて両手を合わせた。そこから淡い光と風が巻き起こり、美しい金の装飾が目を引く白い見事な聖剣が姿を現した。

「俺も『聖騎士』として責任と覚悟があるから、後に引けないんだよねぇ」

 ユーリスが朗らかに言い、サードの右隣に並びながら、口の中で短い呪文を唱えた。光と共に現れたのは白を基盤とした槍で、外で見た魔術師たちが持っていた物と違い、目立つ金の装飾と宝石が美しい。

 サードは、彼らに文句の一つでも投げてやろうとした。しかし、廊下の向こうに見えた『死食い犬』が、一気に向かって来る様子に目を留めると舌打ちして身構えた。

「足を引っ張るようだったら、保健室に直行してもらうからな」
「ふん。あなたが誤って攻撃でもしてきたら、構わずその物騒な手を切り落としますので、お構いなく」
「切り落とさせねぇよ!?」

 何言ってのお前。つか、マジで俺が嫌いなんだな。

 サードがレオンに言い返す暇もなく、獲物を定めた魔獣が淀んだ赤い瞳を向けて咆哮し、次々に飛びかかってきた。