そこで、サードは「はぁ?」と素っ頓狂な声を上げて、ユーリスへとを戻した。

「国家機密って、そんなはずねぇよ。だって調べられても荒が出ないように、ちゃんと調整されているって聞いたぞ? 設定では『サード・サリファン』は推定十歳前後で拾われ、養子縁組の申請が通ったことになってる」

 いつ調べられてもいいように、設定は細部まで作り込まれていた。地下施設から出て一週間、サードはトム・サリファンと一緒になって、自分たちにあてられた設定を事細かく頭に叩きこんだのだ。

 あれは、めちゃくちゃ苦労した。

 文字の暴力だと思った。

 束になった書類全部を一字一句正確に頭に叩き込む作業に、サードとトム・サリファンは「チクショー目が痛い」「飽きる」「文字を見たくない」と文句と愚痴を言い合っていた。そして一週間後にやってきた諜報員の前で、その成果を発表してようやく解放されたのである。

 サードがそう思わず反論すると、ユーリスが「へぇ」と興味深そうに首を傾けた。