生徒のいる授業棟を避けて階下を目指していると、唐突に非常警告音が廊下に響き渡って、サードは目を丸くした。

「あれ? まだ一時間以上はあるよな? 念のために退出時間が早まったのか?」

 もしくは、今期では見事な日食になるという『例の月食』が、想定時刻よりも早まったのだろうか。

 どちらにしろ、ロイが交渉に納得してくれない場合、こちらが『皇帝の首飾り』を奪取する予定であるので、それまでには正門辺りに隠れ潜んでいなければない。

 サードは、実に奇妙で可愛らしい生き物を抱えたまま、数秒ほど考えた。これまでの経験と結果からすると、全校生徒の避難は三十分以内では完了するだろう。

 避難経路は、授業棟の非常階段口となっており、特別行動をとる生徒は風紀委員長のみとなっていた。他の生徒は、役職に関係なく所属するクラスへ合流するか、定められた避難経路を辿る。

「これから三十分以内に、正門あたりに行かなきゃならないが……。さて、どうしたもんか」