サードは、どうにかそう返すことしか出来なかった。事情は理事長が把握しているはずだから、何かあれば彼の方から知らせを寄越すだろう。それまで、行動は控えめにしていた方が無難そうだ。

 ひとまず、ここは、とっとと逃げ出すに限る。

 サードは、退出すべく立ち上がった。すると、レオンやユーリス、エミルやソーマは無害な顔でなりいきを見守る中、ロイが意地の悪い笑みを浮かべて「そういえばお前」と声を掛けてきた。

「父親は好きか?」
「は……?」
「入学早々、全校生徒と教員の前で、尊敬していると言っていただろう」

 サードは、一年前に『例の原稿』を読み上げた日のことを思い返した。実は演説の途中、散々からかいもしたトム・サリファンの気難しい仏頂面が脳裏に浮かんで、この原稿に書かれているの一体誰だよ別人だろ、と妙な笑いが込み上げそうにもなったものである。

 とはいえ、黒歴史であるには変わりない。笑えたのは、あの途中にあった褒めたたえる文章部分だけでで、その前後はずっと死にそうな気分だった。

 そして、ここでもスムーズに対応しなければならないのだ。これ、新手の嫌がらせじゃね、と思いながら、サードは引き攣り顔でロイに「その通りだ」と答えた。

「俺はトム――おっほんッ。父さんが誇らしいし、多くのことを教えてくれて、か、感謝して尊敬もしている」

 どうにかそう言い切った後、「じゃッ」と言って逃げるように生徒会室を後にした。