「あ！雲羽そこは黄色で薄めに光入れたらいいんじゃない？」

「あ、確かにそうかも！」




散らかったシートの上に、あちこちに散らばった絵の具。
シートの上は既に絵の具まみれで、至る所に絵の具が飛び散っている。
灰色のシートのはずなのに、いつの間にか色鮮やかで賑やかなシートになっていた。
太陽の光に照らされて、それぞれの色が輝き出す。


「うん！やっぱり月ちゃんのいう通りにしてよかったぁ〜」

「そう？でも雲羽の塗り方丁寧で細部までこだわってるから私は好き」


アドバイスをしただけなのに、雲羽は心の底から感謝したような嬉しそうな表情で笑った。
大したことじゃないのに、そう言いながらふっと口元が緩むのは抑えられない。
提案してよかった、そう思っていると後ろからザッザッと足音が聞こえてきた。


「おっ、めちゃくちゃ綺麗じゃん！俺も塗る！」

「てんの位置はここ、その横が星ね」


汗を光らせて駆け寄ってきたのは、天陽だった。
運動が大好きな彼は、きっと坂を登っては下りてを繰り返していたのだろう。
天陽に筆を渡してから、ところでと辺りを見渡す。


「てん、星どこ行ったの？」

「星なら写真撮ってて、めちゃくちゃ集中してた！」


写真かぁ、だったら邪魔しないほうがいいかな。
そう思いつつ、常にマイペースで不思議な行動を起こす星のことだから一応見に行こう。
………なんて口実を作っては星を探すために立ち上がる。
本当は星の撮る写真を見たいだけ、色鮮やかで美しく映っている世界を見たいから。
少し歩くと、思っていたよりも星は近くにいた。
空を見上げては、儚げに見つめ続ける横顔を見ていられなくなってしまい、足音を立てて近づく。
あんな風に空を見上げてばかりになったのはいつからだろう。
空を見上げている時の星はそのまま、どこか遠くへ行ってしまうような、空に吸い込まれてしまうそうな気がするから見ていたくなかった。
ガサガサとわざと足音を立てると、私に気付いたのかハッとしたように星が振り返った。


「ぁ、月」

「星、また写真撮ってたの？」

「うん、綺麗に撮れた」


そう言って、満面の笑みを浮かべてくれる星を見て、ふぅと息をつく。
だんだん回復しているようでよかったと思いながら。
太陽の光が厚い雲の隙間から一筋の希望の光のように見える写真。
少し角度を変えては、澄み切った青空に一面の紫苑の花が咲いている写真。
どの写真もこの丘でしか見れない世界で唯一の私たちだけが知っている景色。
感動したのと同時に、星はやっぱり写真撮るのが大好きなんだなぁと実感する。
思えば星は初めて会った時からカメラを首から下げていた。
…………空の写真を撮るのはきっと、家族のことがあるからだろうと思った。
そう思うと急に悲しくなってきてしまい、慌てて星に話しかける。


「星、今てんが描いてるからそろそろ行かない？次は星の番だよ！」

なるべく明るい声色を意識してそう言うと、星は振り返ってうん、と頷いた。
何を考えているのかよくわからない不思議な声色で。
いつもと同じように手を繋いで急な登り坂を駆け上る。
登りきると、雲羽と天陽が仲良く絵を描いていた。
一番上が星、一番下は私、右が天陽で左が雲羽。
私たちの苗字にはそれぞれ方角を表す感じが入っているからその通りに描く場所は決めた。
白い正方形の用紙にそれぞれ好きなものを描き込んでいく。
星は先ほど撮った写真を描くらしく、いつになく集中していたけれど、どこか生き生きしていて楽しんでいるようにも感じる。
笑顔で描いている星を見て、もう一度私は提案してよかったな、と心の底から思った。




途中までは上手くいっていたお絵描きも、進むにつれて問題ができてくる。
まず、描く場所がごちゃごちゃになってしまった。
私が下の指定された範囲を描いて、星も上の指定された部分を描く。
すると、雲羽と天陽は真ん中の狭い範囲を分けなければいけなくなり、明らかに描く範囲が違う。
そこで一つ問題が発生。
そして、天陽は太陽を描いているため、赤い絵の具を使いすぎてしまい、赤を使いたかった星が使えなくなり問題発生。
それぞれが思い通りに描けなくなってしまった。
うーん、と唸りながらもじっと絵を見つめているとあることに気がついた。
星は夜空を描いてて、私も夜空を描いてる。
天陽は太陽が目立つ晴れの日の空を描いていて、雲羽は厚い雲から光が差し込んでいる絵。
これは…………上手く繋ぎ合わせればなんとかなるのでは…？