俺は昔からゲームは負けたことがなかった。負けなんて言葉は知らない。
 かと言って完全勝利はつまらない。接戦の末に勝つのが最高である。悔しがる相手の顔を見るのがたまらなく嬉しい。
 それぞれゲームは楽しむ、勝つために作戦を練る、研究をする、ストレスの発散のため。それぞれ理由はあると思う。
 俺は全部だ。中には作戦を練らずただ勝ちたいがために闇雲にゲームをする奴もいる。
 馬鹿だと思うが、中にはそれで成功する奴もいる。それはほんの一握りだ。ゲームにも運動や音楽のようにセンスがあると思う。それが良いのだろう。
 俺にはあるかって? 多分あると思う。多分、その言葉はダメだ。絶対にある。そしてあとは運、これも必要だろう。
 俺にもある。運も絶対ある。そしてなんだそのゲームと向き合ったか。どのくらい時間を費やしたか、それも関係すると思う。
 俺は寝る時間も極力削り、朝も早く起きて学校に行くギリギリまでゲームをする。学校の間はゲームはできないが友人とゲームの話をして情報を得る、そして作戦を練る。授業ノートよりも分厚いゲーム攻略ノートも作った。
 これを夏休みの自由研究の発表で出したら友達や他の学年の生徒にすごく驚かれたし、すごいと言われたが、先生はこれは遊びのことだから賞はやれないと言われて泣いたこともあったな。
 でも家に帰ったらゲーム好きの親父にはよくやった! と手作りのメダルを作ってくれて首からぶら下げてくれた。
 ゲームをしたのもゲーマーの父の影響もある。小さいうちからゲームセンターに通いいろんなゲームをした。
 うるさい音や眩い光はあっという間に慣れた。
 ゲーム機も家に何台か置いてあって好きなだけやれた。両親共に働いているからうるさく言う人はいないし、親父はやれやれ、ゲームもスポーツの一つだと笑いながらいい、母は呆れて何も言えないようで鼻で笑う。
 僕はメガネを小4でかけるようになったが苦ではなかった。これもゲーマーとしての勲章だ、なんてクラスで言うと笑われた。
 そう言えば今度転校してきた岡田くんも眼鏡をかけている。彼もゲームが好きだと言っていた。でもまだ転校してきたばかりで仲良くはない。だったらゲームで仲良くなろう、俺はそう思って岡田くんに声をかけた。
「いいよ、今日僕の家にこないか」
 あっさりと家に誘われて僕はガッツポーズをした。他のクラスメートは彼になかなか声をかけられなかったけど俺は声をかけられさらに家に誘われた。俺はゲーム以外でもなんでもできるさ。
 ゲームで漢字も計算も歴史も科学、英語、いろいろ覚えた。コミュニケーションもオンラインで俺よりもはるか年上の大人とも交流したことがある。

 岡田くんの家に行くと豪邸でスリッパもきれいなものを出されて、通された部屋にはソファーに大きなテレビ。スピーカーもしっかり配置されてて臨場感たっぷりである。
 俺の家はちっさい安物のテレビだからなぁ。まぁゲームできればいいんだ。

 そして綺麗に揃えられたゲームソフト。僕の得意なゲームを出してこれで勝負だ! と挑んだ。岡田くんは横で微笑んで戦った。

 僅差で俺が勝ったがこんなにも機敏に動けて鬼気迫るプレーをするやつには会ったことはない。岡田くんもそう感じたのか俺の手を握る。強く。
 そこから俺らのゲーム人生は加速した。新しいゲームが出るたび研究して共に戦う。個人プレーのRPGはそれぞれ家でプレイして何処までやり込んだかを毎日報告し合う。オンラインでできるゲームは通信しあって夜遅くまでやる。岡田くんは健康管理をしっかりしていて11時には寝るからそれまでなのだがなかなか俺には勝てないから悔しくて勝つまでと粘ると彼の睡眠時間を日を跨いだ1時まで伸ばしたこともあった。それも俺の腕によるものか?
 そんなこんなで受験もあり、進学もありで気づけば大学生になっていた俺らはそれぞれ入った大学のゲーム研究会で大学同士で戦うこともあった。
 容姿の冴えなかった岡田くんは大学進学と同時に眼鏡をコンタクトに変えて髪の毛も茶髪に染めて見事大学デビューだ。
 俺は特に何することもなくそのままであったが、岡田くんは女子たちに人気でファンクラブまでできていた。俺はと言うと男子たちに神として憧れられていたものの、女子からは一部のゲーマー女子以外からは目を逸らされ、岡田くんに流れていった。
 そんなのは関係ない。俺はとにかく岡田くんには負けない。永遠のライバル。ずっと負けなしで来たんだ。

 だが数年後、岡田くんと連絡が取れなくなった。恋人が妊娠したらしい。そのまま退学して就職をしたというのを耳にした。

 おい、女ができたのか。ゲームをやる時間以外に女と遊ぶ時間あったのか。もちろん俺には女はいなかった。
 ゲームはやめなかったが、岡田くんと連絡が取れなくなって彼と戦うことができず心に穴が開いたようだ。でもまた戻ってくるかもしれない。それまで俺はもっと強くなる。最強になる。

 そいや最後にあった時は
「君に絶対勝つ」
 と悔しく言ってたのを覚えている。絶対勝てない。俺が一番だ。

 そして月日は流れて、就職活動につまずいた俺は引きこもるようになった。コンビニのバイトはゲームのようにうまくいかなかった。
 だったらゲーム屋さんで働けばいい、だがそこの店長と口論になって辞めた。
 じゃあゲームセンターは? 俺の原点だ……と思った矢先に潰れてしまった。

 そんなこんなで家に引きこもってゲーム三昧。でもちゃんとお金は入る。動画配信である程度収入はある。そして親からの仕送りも。

 今俺がハマってるオンラインゲーム。まだ始まったばかりなのにかなりのユーザー数。
 俺は課金に課金を重ねて最強になった。アイテムが最強であれば強くなれる。俺は一番でなくてはダメだ。
 俺の親父にも言われた、一番でいることだ! と。ゲームセンターのゲーム機のランキングの一位に自分の名前を入れること、そして残ること。
 だからとにかくなんでも一番になることを目指していた。
 そして動画収入や仕送りを注ぎ込んでとうとう俺はこのゲームのトップに君臨した。みんなが俺を神と崇める。気持ちがいい。日本だけではないぞ、全世界のトップなのだ。
 気持ちがいい……。水やガスは止まっても電気代だけは頑張って止めないように確保はした。大丈夫だ。

 そういえば岡田くんは生きていれさえすればゲームはするだろう。結婚して子供もできてゲームする時間はあるのだろうか。仕事もしなくてはいけないだろうし。
 する暇がないだろうな。でも頑張って時間を作ってやっているかもしれない。もしかしたらこのゲームの中にいるかもしれない。だとしたら悔しい悔しいとこの俺に言っているだろう。だって名前は昔から同じ、ナーガで登録している。
 どうだ、岡田くん。君は俺に一生勝てないさ……。

 ぶつっ

 鈍い音がした。テレビ画面は真っ暗に。どういうことだ? 電気代はちゃんと振り込んだはず……電話……スマホ……電池が切れている。
 ゴミだらけの部屋から出た僕は郵便受けを探る。同じくこちらも汚い。郵便物が溜まっている。

「電気代、今月分振り込まれていません」
 どういうことだ? 俺は通帳を握り締めて銀行まで走り、ATMに通帳を突っ込んだ。

「残高……530円……」
 親にお金を振り込んでもらおうとしても電話がない。ゲームの課金によるカードの請求で貯金が尽きた。きっと来月も……。俺は膝から崩れ落ちた。しばらくご飯もまともに食べていない。風呂も入ってない。服も着替えてない。
 せっかく俺は一位になったのに……。





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 僕は地元から離れて妻の実家の近くに住んでいる。
 娘は二人。まだ可愛い盛りだ。学生時代に僕と同じくゲーム研究会に出入りしていたデザイン科の彼女と出会って結ばれて妊娠が分かり俺は退学して就職した。
 僕にとってはどうってことはなかった。研究会のOGに誘われてゲーム制作会社に就職できたのだ。研究会ではゲームをするだけでなくて制作もしていた。
 妻もキャラクターデザイナーとして会社に所属するようになり、そのノウハウを学び夫婦で独立してゲーム会社を作ることになった。
 しかしそのことはしばらく伏せておこうと。
 きっと長瀬くんが僕らのゲームをプレイしにくるだろう。そして必ず一位になる。

 僕は長瀬くんの独占欲が気に入らなかった。周りのみんなもそうだった。ゲームセンターに行くと必ず彼の名前が一位に載っていた。ウザかった。
 僕も僕で悔しかった。不正もしていないのになんでこんなに強いんだ。絶対勝つ、長瀬くんに勝つ。それしか考えていなかった。妻も大学の研究会のゲーム大会で独占欲の強い彼のワンマンさをみて僕をサポートしてくれた。ゲームに勝てないなら、そのゲームで痛い目に合わせてやろう、そう思ったのだ。

 そして案の定、長瀬くんは僕らのゲームを見つけてプレイをし、次々と勝ち続けていった。簡単に上り詰めるから途中からシステムメンテナンスをして課金をしてアイテムを持っている人が優位に立てるという設定にした。だが長瀬くんは簡単にアイテムを買い強くなるから困ったものだ……。
 値段設定を引き上げればアイテムを買うこともなく諦めていくだろうと思ったがダメだった。
 そして彼は一位の座に上り詰めたのだ。悔しい、悔しい。ここでも勝てないのか。

「あなた、最近ナーガのログインが無いのよ」
「えっ」
 妻やスタッフが画面を見ると確かに一週間以上ログインが無い。毎日のようにログインしてプレイをしていただろうに。
 そして次々と他のプレイヤーがのし上がってくる。きっと彼らが上り詰めて長瀬くんを追い越すだろう。
 そして1ヶ月が経ち、とうとうナーガの名前が違うプレイヤーの名前でかき消された。その時に僕は周りのみんなと手をたたきあい喜んだ。中には同じゲーム研究会のものもいた。僕らがあいつに勝ったんだ!
 長瀬くん、僕は君に勝つことができた。ようやく。



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 俺は目を覚ました。横には親父とお袋が泣いてた。一人息子の俺からの連絡がなく心配したから知り合いに頼んで家まで来てくれたらしく、そこにいなかったから探し回って俺が銀行の近くで倒れているのをたまたま発見して病院に運ばれた、とのことだ。
 もうあれから一週間……ゲームはもちろんできない。毎日やってたのにゲームはできないなんて。
 ゲーム好きな親父でさえも、もうやめろと言われてしまった。母ちゃんはスッゲー泣いてる。
 借金は頭金を親父が持ってたゲーム機やソフトを全部売っ払って用意してくれた。中にはレトロなゲームもあって高値で売れた。僕も遊んでたから親父と一緒に泣いた。母さんは呆れてた。当たり前か。
 俺は栄養失調だとか。あと精神科にも行けと。はぁ。しばらくは実家に住むことになったし、仕事は頭下げて以前働いていたコンビニで働くことになった。馬鹿にされながらもコツコツ働く、そうしようと。

 またゲームができる日が来る。すると店長がやってきた。
「しゃきっとせぇ。だから前の店長と口論して辞めたんやろ。そんなお前にモチベーション上がるように考えたんやけどさ」
 と紙を渡された。
「お前は一位になりたいんやろ、コンビニ界での一位ってなんや?」
「店長?」
「なにいうてんのや! 社長やろ!まぁその上は会長だけど」
 そうか、ゲームでなくても一位になれる。
「がんばりぃや。父ちゃん母ちゃん泣かすなよ」
 と店長に背中を叩かれた。このコンビニでは経験日数、業務習得、本部による試験でアルバイトでも社員になれる仕組みがあるらしい。

 これならやれる気がする。と、休憩室のテレビに映るニュース。聞き覚えのあるゲーム会社の名前。あのゲームの会社だ! そして見覚えのある顔。
 岡田くんが社長? どういうことだ。店長が新聞を見せてくれた。
「プレイヤーから金を巻き上げるだけ巻き上げて。課金しまくったプレイヤー数人が自殺したらしい、中には窃盗したやつや子供が親の金を使ってたとかなー。それに関する会見らしいぞ」
 俺ももしかしたら……にしてもなぜ岡田くんがゲーム会社の社長?

 わかった、俺を一位にしたく無いからアイテムを次々と投入させたんだな。……馬鹿か。他のやつまで巻き込んでまで俺を一位にさせたくないって。

 ん、こいつも社長になった……くそ、負けてられない。

 でも俺はあのゲームで一位になった。やっぱり俺は勝ったんだ。岡田くんに。
 今度は俺もこのコンビニの社長になればもう勝ち目なしだ。

「お前本気か? 冗談で言ったのに」

 俺はコンビニの制服をビシッと着て休憩を上がった。

 終