僕はもう一度、首を振った。終業式に至る日まで、僕がしていたのはただ金城瑠夏に声をかけるだけなのだ。主に休憩時間を使い、適当な話題を口にするだけ。彼女の方も、短く返答をするだけの会話とも呼べないもの。
仲の良い友人と言い切れる関係性でないのは、僕が一番に理解していた。だからこそ、周囲の人間に向かって瑠夏への態度を変えてほしいと懇願するなど、ありえない話だ。
一体誰がそんな話を、と僕は訊いた。だが相手は、答えられなかった。偶然どこかで聞いたのだと。
ため息をついてから、再三噂の内容を否定した。相手も本人が言うのなら、と僕の話を幸いにも信じてくれた。僕はほっと胸を撫で下ろしながらも、噂を流した犯人が誰なのか気になった。同じ教室の中に、根源である奴がいるはずだ。
そうはいっても、その日は終業式であり、詳しい調査などできるはずもない。僕は仕方なく、僅かな引っ掛かりを覚えながら夏休みを過ごす事にした。問題が起こり始めたのは、二学期が開始された後だった。
二学期になれば、噂話など霧散してしまうだろうと考えていたのだが、結果は違うものだった。噂が消えるどころか、寧ろ話がより大きくなっていたのだ。
夏休みの間に、僕と瑠夏が二人で歩いているのを見かけた、とか手を繋いで公園のベンチに座っていたなど、事実を曲解するのではなく、事実そのものを作り上げた噂が流れ始めていた。
当時僕を含め、全員が幼かった。中学校に上がったばかりで、皆一様に恋人を作る事に対して抵抗を感じていた。恋人がいると恥ずかしい。だって周りの友達には、恋人がいないのだから。
僕の居た地域特有の考え方かもしれない。或いは、全国の中学一年生が共通して持っている価値観なのかもしれない。どちらでもいい、とにかく僕は、ありもしない話が生まれたのをきっかけにいじめにも似た扱いを受ける事となった。
噂に気がついたのは、二学期が始まって三日目だった。なんとなく周囲の態度がよそよそしいと感じていた僕は、原因らしきものを発見して、合点がいった。あいつだけ、恋人を作って夏を満喫したんだろうと根拠なく信じられている。真相を直接、本人たちには確かめない。誰かから聞いた話こそが真実であり、当事者の二人は照れ隠しで真相を否定するに違いない。クラスで流れている空気は、大方そんなものだった。
瑠夏に加えて、僕とも距離を取ろうとしている。もはや教室の中で孤独を満喫するのは、僕と瑠夏の二人に増えていた。
裏を返せば、隠していた事が浮き彫りになって二人とも気まずいのだという話も耳に飛び込んできた。僕はあえて、瞬時に噂の否定には入らなかった。慌てて説得を試みても、「それみたことか、圭也はこんなにも慌てているぞ」と言われかねない。自然に噂が消える
仲の良い友人と言い切れる関係性でないのは、僕が一番に理解していた。だからこそ、周囲の人間に向かって瑠夏への態度を変えてほしいと懇願するなど、ありえない話だ。
一体誰がそんな話を、と僕は訊いた。だが相手は、答えられなかった。偶然どこかで聞いたのだと。
ため息をついてから、再三噂の内容を否定した。相手も本人が言うのなら、と僕の話を幸いにも信じてくれた。僕はほっと胸を撫で下ろしながらも、噂を流した犯人が誰なのか気になった。同じ教室の中に、根源である奴がいるはずだ。
そうはいっても、その日は終業式であり、詳しい調査などできるはずもない。僕は仕方なく、僅かな引っ掛かりを覚えながら夏休みを過ごす事にした。問題が起こり始めたのは、二学期が開始された後だった。
二学期になれば、噂話など霧散してしまうだろうと考えていたのだが、結果は違うものだった。噂が消えるどころか、寧ろ話がより大きくなっていたのだ。
夏休みの間に、僕と瑠夏が二人で歩いているのを見かけた、とか手を繋いで公園のベンチに座っていたなど、事実を曲解するのではなく、事実そのものを作り上げた噂が流れ始めていた。
当時僕を含め、全員が幼かった。中学校に上がったばかりで、皆一様に恋人を作る事に対して抵抗を感じていた。恋人がいると恥ずかしい。だって周りの友達には、恋人がいないのだから。
僕の居た地域特有の考え方かもしれない。或いは、全国の中学一年生が共通して持っている価値観なのかもしれない。どちらでもいい、とにかく僕は、ありもしない話が生まれたのをきっかけにいじめにも似た扱いを受ける事となった。
噂に気がついたのは、二学期が始まって三日目だった。なんとなく周囲の態度がよそよそしいと感じていた僕は、原因らしきものを発見して、合点がいった。あいつだけ、恋人を作って夏を満喫したんだろうと根拠なく信じられている。真相を直接、本人たちには確かめない。誰かから聞いた話こそが真実であり、当事者の二人は照れ隠しで真相を否定するに違いない。クラスで流れている空気は、大方そんなものだった。
瑠夏に加えて、僕とも距離を取ろうとしている。もはや教室の中で孤独を満喫するのは、僕と瑠夏の二人に増えていた。
裏を返せば、隠していた事が浮き彫りになって二人とも気まずいのだという話も耳に飛び込んできた。僕はあえて、瞬時に噂の否定には入らなかった。慌てて説得を試みても、「それみたことか、圭也はこんなにも慌てているぞ」と言われかねない。自然に噂が消える