な質問だった気がする。瑠夏は僕の問いかけにすぐには気づけず、私ではない誰かなのだと思い込んでいるようだった。
しかし、ほんの僅かに視線を向けてみると、間違いなく自分に話しかけているという事に気づいた。何が起こったのかと、動揺したのがわかりやすく顔に出た。これでもかと目を丸くして、かと思えば目線をあちらこちらに泳がせる。あまりにイレギュラーな事態に対して、彼女自身まったく用意ができていない様子だった。
思い出す限りそれが、瑠夏と交流を持つきっかけだった。以来僕は、友人とある程度話をしたら、勇気を出して瑠夏に声をかけるようになった。殆どが休憩時間に行われた。
きっとこれなら喋ってくれるだろうと、読んでいる本について尋ねた。本のあらすじや、面白いか、面白くないのか。一日にどのくらい本を読んでいるのかなど。会話のとっかかりは、常に瑠夏の手にしている本だった。
初めはしどろもどろになって、話もままならない瑠夏だったが、次第に口から出てくる言葉に落ち着きを見せていった。声量こそ小さいものの、言っている内容は理解できるようになったし、感情がこもるようになって、話している最中に口角を上げたりもした。焦って瞬きが増えるのも、目に見えて緩和されていった。自分で言うのもあれだが、割と仲良くなった方だと当時は感じた。だがそれが、悲劇の始まりとなる。
終業式の日、全校生徒が体育館に集められた。学級ごとに並べられ、これから長期休暇に入る子供達へ、教頭や校長先生たちが注意事項を口にしていった。注意事項とは、異口同音であり、要は校外で面倒を起こすな、というものだった。これに気づかないほど僕たち子供は馬鹿ではないので、途中からは集中力が切れたのもあって、各々小さな声でおしゃべりを開始した。
僕も、一つ前に並んでいた仲の良い友人男子に話しかけられた。彼は僕の方を振り返って、何やら笑顔を浮かべてこちらを眺めた。嫌な顔をしているな、などと思いながら僕も相手の顔をじっと見つめた。目は合わせたくなかったから、主に唇と額とを交互に眺めていた。
一〇秒ほど沈黙が保たれた後に、急にそいつは口を開いた。
「なあ、圭也って、金城瑠夏と付き合ってんの?」
圭也、とは僕の名前だった。僕が、瑠夏と付き合っている。ありえない話だ。だから僕は即座に、首を振って否定した。
「でも、最近仲良いじゃん」
「一人で寂しそうにしてたから、話しかけようと思っただけだよ。付き合いたくてやったわけじゃない」
「聞いた話だと、グループ学習の時女子のグループに金城さんを仲間に加えてほしいって頼み込んでたそうだけど、それは本当?」
しかし、ほんの僅かに視線を向けてみると、間違いなく自分に話しかけているという事に気づいた。何が起こったのかと、動揺したのがわかりやすく顔に出た。これでもかと目を丸くして、かと思えば目線をあちらこちらに泳がせる。あまりにイレギュラーな事態に対して、彼女自身まったく用意ができていない様子だった。
思い出す限りそれが、瑠夏と交流を持つきっかけだった。以来僕は、友人とある程度話をしたら、勇気を出して瑠夏に声をかけるようになった。殆どが休憩時間に行われた。
きっとこれなら喋ってくれるだろうと、読んでいる本について尋ねた。本のあらすじや、面白いか、面白くないのか。一日にどのくらい本を読んでいるのかなど。会話のとっかかりは、常に瑠夏の手にしている本だった。
初めはしどろもどろになって、話もままならない瑠夏だったが、次第に口から出てくる言葉に落ち着きを見せていった。声量こそ小さいものの、言っている内容は理解できるようになったし、感情がこもるようになって、話している最中に口角を上げたりもした。焦って瞬きが増えるのも、目に見えて緩和されていった。自分で言うのもあれだが、割と仲良くなった方だと当時は感じた。だがそれが、悲劇の始まりとなる。
終業式の日、全校生徒が体育館に集められた。学級ごとに並べられ、これから長期休暇に入る子供達へ、教頭や校長先生たちが注意事項を口にしていった。注意事項とは、異口同音であり、要は校外で面倒を起こすな、というものだった。これに気づかないほど僕たち子供は馬鹿ではないので、途中からは集中力が切れたのもあって、各々小さな声でおしゃべりを開始した。
僕も、一つ前に並んでいた仲の良い友人男子に話しかけられた。彼は僕の方を振り返って、何やら笑顔を浮かべてこちらを眺めた。嫌な顔をしているな、などと思いながら僕も相手の顔をじっと見つめた。目は合わせたくなかったから、主に唇と額とを交互に眺めていた。
一〇秒ほど沈黙が保たれた後に、急にそいつは口を開いた。
「なあ、圭也って、金城瑠夏と付き合ってんの?」
圭也、とは僕の名前だった。僕が、瑠夏と付き合っている。ありえない話だ。だから僕は即座に、首を振って否定した。
「でも、最近仲良いじゃん」
「一人で寂しそうにしてたから、話しかけようと思っただけだよ。付き合いたくてやったわけじゃない」
「聞いた話だと、グループ学習の時女子のグループに金城さんを仲間に加えてほしいって頼み込んでたそうだけど、それは本当?」