の部分には、卒業生のために作成されたコサージュが安全ピンを使って取り付けられていたが、構わずにブレザーごとぐるぐるに丸めてリュックサックに入れた。中で形が崩れようが、関係はない。寧ろ形が崩れていればいいのにとすら願った。
 地面に置いていたリュックサックを再び背負うと、背中にひんやりとした、けれど不快な感触が伝わってきた。ブレザーを着て走っている間に、思っていた以上の汗をかいていたようだった。太陽を隠す雲がない事からも、気温がいくらか高くなっていて当然と予想もできたはず。もっと早く上着を脱いでいれば、と考えられずにはいられなかったが、過ぎた事だ。ここにきて考えを変えても、もう遅い。
 ふと気がつくと、信号が青に変わっていた。考えに気を取られて、切り替わった瞬間を見逃した。いつ青になったのか定かではなかった。
 停止線のすぐ横で一台の空色の軽自動車が信号待ちをしていて、運転している中年の女性が、ルームミラーを見上げて何かを喋っていた。おそらく、後部座席に座った誰かと会話をしているのだろう。車内の雰囲気は実に和やかで、女性は嬉しそうな笑顔を作って話に夢中になっている様子。
 楽しそうに話している女性の目の前を、僕はそそくさと走り去った。もしあの人に、信号を見落とした馬鹿だと思われていたら嫌だからだ。それになんとなく、笑いながら話している話題のタネが僕にありそうだとも思えた。ひょっとしたら、間抜けヅラをしてフリーズしていた僕を笑いものにしているのかもしれない。
 笑いものにされていると思えば、自然と足に力が入った。どこまでも速度を上昇させられるという、自信にも似た感情が湧き出てくる。湯水の如く湧いて出た感情を動力源として、僕は整備されたアスファルトの道を進んだ。
 大体二〇分くらい走っていると、周囲に見える景色も変わってくる。舗装された道や、車がたくさん通るような大きな道路は姿を消し、代わりに畑が目立っていく。見渡す限り、どこまでも畑が続いている。付近に大きな建物など一つもなく、おそらく農家が使っているのであろうプレハブ小屋があるくらいのものだ。
 走っている道にも変化はある。
 元はしっかり整備された道だったのだろうが、経年劣化やなんらかの事情でひび割れたり、砂利や砂が目立つものになっていた。マウンテンバイクのサスペンションがうまく機能していくらか衝撃を和らげてくれたが、それでも僕の体は上下に、小刻みに震えた。普段僕は荒れた道をあまり走らないので、臆病になってできる限り速度を殺して進んだ。速度を落としたせいで、より長い時間体が揺すられるわけだが、無理をした結果転倒して怪我をするよりマシだ。
 緩やかな上り坂があったと思えば、緩やかな下り坂もある。ほとんどを砂利と土とに覆われた細い道を進んでいくと、視線の先で一台の車が横切った。かなりの速度を出してお