「今、このやりとりを見ている者は何人いる? ここや扉の外にいる全員にかん口令でも敷くかい? ただの一人も事実を漏らさないと? この状況を疑問に思う人間が一人も出てこないと?」
 入り口を埋め尽くす観衆へ素早く視線を走らせた警備隊長は、すぐに殺意のこもった眼差しをエイロックさんに戻す。しかし、彼はそれを微笑でかわした。
「小さな違和感は、やがてここを破滅させる大きな亀裂を生むだろうよ。感情的な判断や小細工はやめて、俺らのことは生かしておかない?」
「そんなことにはならん! 貴様らはこの世界を破壊するテロリスト! ゆえに即座に処刑する! それだけのことだ!」
「取引とは」
 いきり立つ警備隊長を、輝夜様の威厳ある声が制した。輝夜様の反応に、エイロックさんは口端を上げて笑う。
「壊したものへの賠償金は間違いなく支払う。拘束さえ解いてくれればすぐにだ。代わりに、俺らの船を修繕する場所を提供してほしい」
「……」
「あと、積み荷の中には食材があってな。無駄にしたくねぇから、商売の許可が欲しいんだ」
「図々しい! 輝夜様、このような戯言に耳を貸す必要はございません!」
「ここじゃ手に入らない、異星の珍しい甘味が揃ってるぜ?」
『異星の珍しい甘味』という言葉に、部屋のあちこちからさざめきが沸き起こる。中央管理局の職員や警備隊の者までも、その瞳に好奇心を灯した。
「ただ消費期限が迫っててさ。このまま腐れば捨てるしかねぇ。それを美味いうちにみなさんに楽しんでもらい、正当な対価をいただきたいって話だ。そんな悪い話じゃねぇだろ? 最終的に、その儲けも賠償金としてあんたらの懐に入るんだし」
(エイロックさん……)
「要するにそちらの損害は全額弁償。船が直るまでの間、俺らに居場所をくれってこと。修理を終え次第俺たちはここを出ていく。それでここの平穏は保たれる」
 エイロックさんの瞳に強い光が宿る。
「俺たちはあんたらのことに余計な口出しは一切しない。……どうだい?」
 エイロックさんは口元に笑みを浮かべてはいるが、瞳は決して笑っていない。全身に緊張を漲らせ、五感の全てで空気を感じ取ろうとしているのが伝わってきた。
 そんな彼へ輝夜様は感情のない眼差しを向ける。誰もが固唾を飲み、事の成り行きを見守った。
「受け入れよう」
 沈黙を破ったのは輝夜様だった。
「輝夜様!? まさかこんな要求を……」
「彼らの船をドックへ」
 輝夜様は警備隊長の言葉を聞き流し、中央管理局の幹部へ指示を出す。
「はっ! 今すぐに手配いたします」
 輝夜様が視線をエイロックさんへ戻すと、彼は拘束されたまま、片足を優雅に引き恭しく頭を下げた。
「お心遣い、感謝する」
「ただし」
 輝夜様の無機質な声が続く。
「少しでも下らぬ真似をすればその時は、……わかっておるな?」
「……あぁ」