「社長! えっ? なんなの?」
(まさか、電子手枷から電流を!?)
 凶悪犯の動きを封じるため、電子手枷に備わっている機能だが、今の彼に必要だっただろうか?
「てめぇら。社長に何を!」
 シラフェルさんが管理局の職員たちに怒鳴る。目の合った者たちが悲鳴をあげ、警備隊が柵越しに銃を構えた。構わず、シラフェルさんは警備隊に向かって迫る。
 しかし。
「あがぁあっ!?」
 今度はシラフェルさんが、ビクンと身をのけぞらし、その場に膝をついた。
「シラフェルさん!」
「クソ……!」
 口端からよだれを垂らしながら、シラフェルさんがもう一度ギャラリーを睨んだ時だった。
(こら)えろ、シラフェル」
 シラフェルさんを押しとどめたのは、エイロックさんの苦しげな声だった。エイロックさんはふらつきつつもゆっくりと身を起こし、立ち上がる。
「だが、社長!」
「俺は平気だ」
 エイロックさんは、壇上の玉座に胡乱(うろん)な目を向ける。冷たく見下ろす輝夜様をじっと見つめ、やがて彼は皮肉めいた笑みを口元に浮かべた。
「よくわかんねぇが、そういうことなんだな? OK、OK、理解した」
(そういうこと?)
「その代わりと言っちゃなんだが、ちっと取引しねぇか、輝夜さん?」
「取り引き?」
 眉をひそめた輝夜様に代わり、警備隊長が声を荒げる。
「貴様、無礼だぞ!! 輝夜様に直に口を利くばかりか取引を持ち掛けるとは!」
 照準をエイロックさんに合わせ、警備隊長は言葉を続ける。
「輝夜様、銃殺のご命令を! 直ちに遂行いたします!」
(銃殺!?)
 謁見室にざわめきが広がる。面白がるような笑いを浮かべる者、当惑した表情をする者、互いに目配せしながら。
 けれど、獣人たちは怯まなかった。
「おや、故意に起こしたわけでもない事故で裁判もなく処刑とは」
 タロクさんが冷ややかに笑い、肩をすくめる。
「ここは、ずいぶんと野蛮な文化圏なのですね」
「我らを侮辱するか!」
 警備隊は柵越しに構えた銃のロックをはずす。号令一つあれば、即座に発砲する構えだ。
「では、罪状は何でしょう?」
 タロクさんの叡智に溢れた瞳が警備隊長を見返す。
「この地に我々の船が墜落したことは、多くの人々が知っています。我々の処刑について、皆が納得する理由はつけられるのでしょうか」
「問題ない。貴様らはテロリストだ」
「なるほどなぁ!」
 電撃のショックから立ち直ったエイロックさんが、陽気に笑う。
「俺らは船で、輝夜さんの元へ特攻した不穏分子ってことか。だがその説明じゃ、疑問を抱く者がそのうち出てくるぜ」
「なんだと」