エイロックさんは後ろ手に拘束された下着姿で、大股で近づいてきた。
「医療施設に搬送されたって聞いたけど、ちゃんと診てもらったか？　自分の足で歩いてるってこたぁ、無事ってことでいいのかな？」
　出会った時と同じ、人懐こい笑顔のエイロックさんに、私の周囲の人は悲鳴をあげる。
「きゃあ！？」
「ちょっと、来ないでよ！」
　柵越しにも関わらず、まるで蛇や虫にたかられたかのように、彼女らは嫌悪感をあらわにする。だが、エイロックさんにギャラリーを気にする様子はなかった。
「何かあったら言ってくれよ、琴菜ちゃん。非は完全にこちらにある」
「は、はい」
「治療費以外にも、できるだけの補償をするから安心して」
「わ、わかりました」
「ん？　どした、琴菜ちゃん？　目を背けて。俺のこと怖い？」
「そうじゃなくて……」
「社長」
　タロクさんが冷静に制する。
「今の自分の姿を思い出してください。若い女性にはいささか刺激が強いかと」
「へ？　ぅおう！？　そうだった！！」
「しかし、ずいぶんな扱いをなさいますね、あなた方は」
　身ぐるみ剝がされてもなお、エレガントに胸を張り、タロクさんは壇上へ鋭い目を向ける。
「常識的に考えて、こういった身体検査は、奥まった場所で同性の職員が執り行うのが通例でしょう。にも関わらず、大広間で衆人環視のもと行うとは。いささかデリカシーや品位に欠けるのではありませんか？　立場が逆であれば、セクハラだなんだと大問題になるところですよ」
　タロクさんはゆらりと尾を揺らす。
「さぁ、今すぐ男性の職員を呼んでください。あなた方にほんのわずかでも平等意識があるのなら」
　だが、彼の言葉に返ってきたのは、乾いた忍び笑いだった。
「クスクス……、やだ……」
「男性の職員、ふふっ……」
（あ……）
「何がおかしいのですか」
　周囲の反応に不快を示したタロクさんに、中央管理局の幹部が笑いながら伝える。
「申し訳ございません、ミスター。ここには男性の職員などおりませんので」
「いない？　ただの一人もか？」
　シラフェルさんの反応に、耐えきれぬとばかりに室内の人間が吹き出した。
「きゃはははは！」
「あなた方、ククッ、笑っては失礼ですよ」
「だってあの方、無知が過ぎるんですもの」
「地球ではとうの昔に男が絶滅したというのに！」
「はぁあ！？」
　エイロックさんが目を剥く。
「地球の男が絶滅！？　お前ら、何言って……！」
「きゃあ！？」
「こっち来ないで！」
　その時だった。
「ぐぁっ！？」
　エイロックさんが悲鳴をあげ、大きく身をのけぞらせたかと思うと、その場に崩れ落ちた。
「エイロックさん！」