輝夜(かぐや)様の元へ連行されたらしいたけど)
 私は息を切らせ、中央センターへと飛び込む。
(謁見室? 審問室? それとも……)
「ねぇ、見た? 異星人」
 誰かの声が耳に飛び込んできた。
「見た見た、不気味。あれ『男』なんでしょ?」
「!」
 通り過ぎてゆく二人の、今来た方向に目を向ける。
 謁見室の前に人だかりができていた。皆、中に足を踏み入れず、扉の陰から覗き込んでいる。その表情は、見世物を見ている人のものであった。
(あそこだ……!)
 私は謁見室に入ろうとした。けれど幾重にも重なる人垣に阻まれ、前に進めない。
「すみません、通してください!」
「無駄に大きいよね。あの生物、絶対にかさばって邪魔でしょ」
「わかる。それに声、聞いた? 怖いし野蛮」
 大袈裟に身震いする彼女らの横をすり抜ける。
「ねぇ、あいつら『男』なら、足の間にオガエルの総排出腔みたいな器官あるの?」
「キッモ。原始的! もはやエイリアンじゃん! あ、異星人(エイリアン)か」
「すみません、通してください!」
 私は強引に、二人の間に体をねじ込ませた。
「ちょっと、なに?」
 咎める声を聴き流し、私は謁見室へ足を踏み入れた。
(な……!)

「おい! この扱いはどういうこったよ!」
 室内には、見覚えのある四人がいた。ただし服は引き剥がされ、下着一枚の姿にされている。背後に回った両手首には電子手枷が装着されていた。
(エイロックさん! みんな!)

 謁見室の最奥の玉座には、金の縫い取りが見事な赤い衣をまとい、蒼いアイラインを隈取のように施した女性が座っている。壇上より全てを冷たく見下ろす彼女こそ、この世界の頂点に立つ存在、第13代輝夜様だ。
 部屋の壁際には、中央勤務の職員と警備隊がぐるりと立ち並ぶ。皆、一様に、惨めな姿をさらす闖入者たちへ蔑みの目を向けていた。
 四人の虜囚は、可動式の柵で囲まれていた。

「事故ったことは謝ったし、賠償金もきっちり支払うって言ってんだろ!」
 怒りをあらわにしたエイロックさんは、先ほどの雰囲気とはまるで違っていた。壇上の輝夜様をねめつけ、大きく開いた口から鋭い牙を覗かせている。
「いきなりひん剥いて縛り上げて身体検査たぁ、まるっきし犯罪者扱いじゃねぇか!」
「何あれ。野蛮」
 近くから、嘲りの声が聞こえて来た。
「絶対に野放しにしちゃダメな生物でしょ」
 その言葉に、憤りを覚える。
(あんな扱い受ければ、誰だって怒るに決まってる!)
「……ねぇ。伊部だよぉ」
 人混みの中から、よく知る声が聞こえて来た。
(! 池逗さん、それに隣にいるのは千財さん!)
 私と視線が合うと、千財さんは口元を歪めて笑った。
「早速オスのにおいでも嗅ぎつけて来た?」
「……!」

 その時、部屋の中央から声が飛んで来た。
「あんたはさっきの、琴菜ちゃん!」
「! エイロック、さん……」