「社長、琴菜(ことな)さんの様子が!」
「お、おい、琴菜ちゃん? 失神か、これ? しっかりしろって!」
 その時、機械扉の開く音がした。振り返った四人の目に、何十もの銃口が映る。
「動くな!」
 警備隊長の目が、エイロックの抱えた琴菜を捕らえた。
「その者を降ろせ! そして全員両手を頭の後ろに組んで地に伏せろ!」
「あのっ、ボクたちはあの……」
「言った通りにしろ!!」
 四人は命令通りに琴菜を降ろし、そして地面へ伏せる。駆け寄った警備隊が素早く獣人たちの両手を背後に捻り上げ、電子手枷を取りつけた。




「う……、ん……」
 瞼を開くと、目に映ったのは白い天井とカーテンだった。
(……あ!)
 自然保護区での記憶がよみがえり、私は慌てて身を起こす。
(どうして私、こんなところに? エイロックさんたちは?)
 その時、カーテンがサッと開き、医療スタッフが顔を出した。
「伊部さん、目が覚めたのね」
「あ、あのっ」
「血圧確認するから、もう一度横になって。体温は……、うん、平熱。倒れたって聞いたから、驚いたわよ」
「……倒れた?」
 どこで?
 じゃあ、あれは夢だったのだろうか。空が割れ、そこから宇宙船が現れたのも。獣頭人身の「男」が現れて、私を抱き上げたのも。
(そうよ、夢よね。あんな非現実的な出来事……)
 絶滅種に興味を持ちすぎたあまり、そんな夢まで見るようになってしまったかと、自嘲的に笑う。本当に私は、普通じゃない……。

「伊部さん、眩暈はない? 痛むところは?」
「いえ、特には」
「なら良かったわ」
 医療スタッフはニコニコしながら器具を片付ける。
「でも驚いたでしょ。空から異星の船が降ってくるなんて」
(え!?)
「幸いぶつからなかったから良かったものの、一歩間違えばあなた命を失っていたわ」
 医療スタッフは慣れた手つきで書類を取り出す。
「ショックで気絶したようだけど、特に外傷は見当たらないし、不幸中の幸いと言ったところかしら。でも精密検査をしておくわね。これに目を通してサインをしてくれる?」
「あ、の……」
「そうそう。しばらく自然保護区は立ち入り禁止ですって。あなたよく出入りしていたらしいから伝えておくわね」
(夢じゃない!?)

 私の心臓は早鐘を打ち始める。
「あの……っ」
 カラカラにへばりつく喉に、唾を送り込む。
「獣の頭をした人たちは、今どこに?」
「彼らなら、輝夜(かぐや)様の元へ連行されたわ。取り調べだって」
「!」
 わなわなと手が震える。
(地球上から絶滅した「男」が、今、すぐ近くにいる!)

「伊部さん、今夜は念のためここで休んでね。容体が急変した場合……」
 私は彼女の言葉を最後まで聞かず、ベッドから滑り降り医療ルームを飛び出す。
「伊部さん!? どこへ行くの?」
 背後からの声を振り切り、私はま廊下を走った。