「うぉ、気付かなかった!」
犬型獣人を先頭に彼らは大股で近づいてきた。
(こっち来た!)
血の気が引く。
(宇宙人と言えば、キャトルミューティレーション? それともチップを埋め込まれる!?)
怪しげな本の情報が脳内を駆け巡る。
その場から逃げ出すことも出来ず、あっさりと私は彼らに取り囲まれてしまった。
「ヒッ」
「君、大丈夫かい?」
身を縮める私を、彼らは気づかわし気に見下ろしている。
「え……、あ……」
兎型獣人がしゃがみこみ、私と目線を合わすと首を傾げた。
「破片がぶつかったりしてない? ケガは?」
「い、いえ、私は、特に……」
「なら良かった。ボクはフラウド・ドナルレス。フラウドって呼んでね。キミの名前は?」
「わ、私は伊部琴菜……」
「イベ・コトナ……琴菜ちゃんだね、覚えた!」
ふくふくと動く白い口元が愛らしい。
「あー、フラウド! お前ほんっと油断も隙もないな! 社長を差し置いて!」
言いながら、犬型獣人は私の側に片膝をつく。
「俺はエイロック・ハグオ。よろしくな、琴菜ちゃん」
「は、はい。えっと、ハグオ社長……?」
「え~、そんな他人行儀寂し~ぃ。ダーリンでいいよ」
ウィンクを決めている彼からは、社長の威厳を感じない。
「社長、琴菜さんを困らせるのはおやめください」
そう言いながら、眼鏡をかけた黒猫獣人が私に向かって優雅に頭を下げた。
「申し遅れました。私、ハグオ社の経理を務めております、タロク・エセマイズと申します。タロクとお呼びください」
「あ、はい。ご丁寧にありがとうございます」
私も慌てて頭を下げる。そして私たちは自然の流れで最後の1人を見やる。皆の注目を浴びたヤモリ型獣人は、気まずげに目を逸らした。
「……シラフェル・スイラルカム。シラフェルでいい」
不愛想だが、嫌な印象は受けなかった。
(友好的な人たちみたい。連れ去られたりしないのかな?)
ほっと息をついた私だったが、次の瞬間視界がくるりと回転する。
「え?」
「一応、医者に診せた方がいいだろうな」
気が付けば、私はエイロックさんに抱えあげられていた。
(えぇえっ!?)
あまりにも何の抵抗もなく抱きあげられてしまったことに、驚愕する。
(まるで医療リフトだわ!)
「社長さぁ。どさくさ紛れに可愛い子に触れてラッキーなんて思ってないよね?」
「フラウド、お前と一緒にすんな」
「な~んて言ってるけど、油断しないでね琴菜ちゃん。これだからオッサンは」
「オッサン言うな」
やいのやいのと言い合う二人を微笑ましく思いながらも、私は別のことに感動を覚えていた。
(なんて頑丈な腕。太くて逞しくてがっちりと私を捕えている。それに柔らかさのない筋肉質の胸。低い声。これって、文献で読んだ「男」?)
長年、資料でしか知らなかった存在の登場に、知らず体が打ち震える。
(若木の様なこの匂い。これは文献に記されていなかった特徴かも。この匂いに、しっかりと固い体。まるで巨木に身を預けているみたい)
「くだらない冗談を言っている場合ですか」
黒猫のタロクさんが、細くため息をつく。
「こちらの不注意で異星の方に怪我をさせたとなれば、大問題ですよ」
(『異星』……!)
彼の口にした言葉に、ドキリとなる。やはり彼らは宇宙人、いや異星人なのだ。
「琴菜ちゃん、病院どこ? 医務室でもいいや。このまま運ぶから」
エイロックさんの声が聞こえる。けれど私の頭の中は、目の前の出来事で飽和状態だった。心臓は限界の動きをしている。
(いたんだ。地球ではとっくに滅んでしまったけど、宇宙にはまだ……)
行き過ぎた興奮が限界に達してしまったのだろう。
(「男」が存在していた……!)
脳裏が真っ白に染まり、私は意識を手放した。
犬型獣人を先頭に彼らは大股で近づいてきた。
(こっち来た!)
血の気が引く。
(宇宙人と言えば、キャトルミューティレーション? それともチップを埋め込まれる!?)
怪しげな本の情報が脳内を駆け巡る。
その場から逃げ出すことも出来ず、あっさりと私は彼らに取り囲まれてしまった。
「ヒッ」
「君、大丈夫かい?」
身を縮める私を、彼らは気づかわし気に見下ろしている。
「え……、あ……」
兎型獣人がしゃがみこみ、私と目線を合わすと首を傾げた。
「破片がぶつかったりしてない? ケガは?」
「い、いえ、私は、特に……」
「なら良かった。ボクはフラウド・ドナルレス。フラウドって呼んでね。キミの名前は?」
「わ、私は伊部琴菜……」
「イベ・コトナ……琴菜ちゃんだね、覚えた!」
ふくふくと動く白い口元が愛らしい。
「あー、フラウド! お前ほんっと油断も隙もないな! 社長を差し置いて!」
言いながら、犬型獣人は私の側に片膝をつく。
「俺はエイロック・ハグオ。よろしくな、琴菜ちゃん」
「は、はい。えっと、ハグオ社長……?」
「え~、そんな他人行儀寂し~ぃ。ダーリンでいいよ」
ウィンクを決めている彼からは、社長の威厳を感じない。
「社長、琴菜さんを困らせるのはおやめください」
そう言いながら、眼鏡をかけた黒猫獣人が私に向かって優雅に頭を下げた。
「申し遅れました。私、ハグオ社の経理を務めております、タロク・エセマイズと申します。タロクとお呼びください」
「あ、はい。ご丁寧にありがとうございます」
私も慌てて頭を下げる。そして私たちは自然の流れで最後の1人を見やる。皆の注目を浴びたヤモリ型獣人は、気まずげに目を逸らした。
「……シラフェル・スイラルカム。シラフェルでいい」
不愛想だが、嫌な印象は受けなかった。
(友好的な人たちみたい。連れ去られたりしないのかな?)
ほっと息をついた私だったが、次の瞬間視界がくるりと回転する。
「え?」
「一応、医者に診せた方がいいだろうな」
気が付けば、私はエイロックさんに抱えあげられていた。
(えぇえっ!?)
あまりにも何の抵抗もなく抱きあげられてしまったことに、驚愕する。
(まるで医療リフトだわ!)
「社長さぁ。どさくさ紛れに可愛い子に触れてラッキーなんて思ってないよね?」
「フラウド、お前と一緒にすんな」
「な~んて言ってるけど、油断しないでね琴菜ちゃん。これだからオッサンは」
「オッサン言うな」
やいのやいのと言い合う二人を微笑ましく思いながらも、私は別のことに感動を覚えていた。
(なんて頑丈な腕。太くて逞しくてがっちりと私を捕えている。それに柔らかさのない筋肉質の胸。低い声。これって、文献で読んだ「男」?)
長年、資料でしか知らなかった存在の登場に、知らず体が打ち震える。
(若木の様なこの匂い。これは文献に記されていなかった特徴かも。この匂いに、しっかりと固い体。まるで巨木に身を預けているみたい)
「くだらない冗談を言っている場合ですか」
黒猫のタロクさんが、細くため息をつく。
「こちらの不注意で異星の方に怪我をさせたとなれば、大問題ですよ」
(『異星』……!)
彼の口にした言葉に、ドキリとなる。やはり彼らは宇宙人、いや異星人なのだ。
「琴菜ちゃん、病院どこ? 医務室でもいいや。このまま運ぶから」
エイロックさんの声が聞こえる。けれど私の頭の中は、目の前の出来事で飽和状態だった。心臓は限界の動きをしている。
(いたんだ。地球ではとっくに滅んでしまったけど、宇宙にはまだ……)
行き過ぎた興奮が限界に達してしまったのだろう。
(「男」が存在していた……!)
脳裏が真っ白に染まり、私は意識を手放した。