数日後、私は「カフェ・ビースト」の前で驚きに足を止めた。
(お客さんが入ってる?)
窓からは、客が笑顔でケーキをつつく様子が見える。楽し気な話し声は外まで漏れ聞こえ、扉の前で待つ人の姿もあった。
「いらっしゃいませー! ただ今10分ほどお待ちいただ……って、琴菜ちゃん! 待ってたよ」
エイロックさんは尻尾をぱたぱたさせると、私の手を引き店内へ招き入れてくれた。
「あの、並んでるお客さんが……」
「言っただろ。あの席は君のための特等席だって」
私は、周囲からじろじろと見られながら、いつもの席へと案内される。
「満席ですね」
「琴菜ちゃんの宣伝のおかげだよ。ありがとうな!」
(そんなはずは……)
当惑する私の耳に、客たちの声が飛び込んでくる。
「本当だ、食べたことない味!」
「そっちのも一口いい?」
「これ、リピするしかないでしょ」
「千財さんがおいしいって言ってたしね」
(えっ? 千財さん来てたの?)
一週間が経った。
来店者は日を追うごとに増えていく。顔の広い千財さんをきっかけに、口コミで評判が広まったようだ。
「ねぇ、ウサギさん。一緒に写真いい?」
「喜んで!」
振り返ると、フラウドさんが客と並んでカメラに笑顔を向けていた。
「もっと寄ってよ。画面からはみ出しちゃう」
「こうぉ?」
「あは、近っ! 撮るよ~」
客の顔に嫌悪の色はない。
「メガネねこちゃん、こっちいいですか?」
「ワンちゃん社長、お願いします!」
他のメンバーも、ひっきりなしに呼ばれ、笑顔で注文に応じている。
「あっ、シラフェルさん!」
「……琴菜」
店の中に、ヒョウ柄の浮かぶ金色のヤモリ獣人を発見する。今日の彼はツナギではなく、カフェエプロン姿だった。
「メカニックのお仕事じゃなかったんですか?」
「社長に呼ばれた。俺をリクエストしている客がいるから、短時間でも顔を出せと」
「人気ですね」
「どうだかな」
遠くから『トカゲちゃん、こっち来て!』の声が上がる。
「トカゲじゃねぇ。……行ってくる」
不承不承ながらも仕事をこなす彼の姿に、少しおかしみを覚えた。
ふと、視界の端を見覚えのある人影がかすめる。
(あ……)
私が気付くと同時に、相手もこちらを見る。そこにいたのは、千財さんたちだった。
「……なによ。こっち見ないで」
彼女は不機嫌をあらわに、鼻にしわを寄せる。
「千財さんたち、来てたんですね」
「あたしらの勝手でしょ? ここに来るのに、あんたの許可がいる?」
(そうじゃないのに……)
「おまたせしました!」
現れたのは、エイロックさんだった。
「琴菜ちゃん、本日の日替わりケーキだよ。召し上がれ!」
「わ、今日もキラキラしてる。いただきます」
私はケーキを口に運ぶ。
「おいしい!」
「はは、いつもながらいいリアクション!」
エイロックさんは楽し気にウィンクをする。
「フラウドに伝えとくよ、琴菜ちゃんが褒めてたって。きっとあいつ喜ぶぞ」
そう言うと、エイロックさんは手を振り席を離れて行った。
(本当においしい!)
千財さんたちの視線を頬に感じてはいたが、私はケーキとお茶に集中することにした。
(お客さんが入ってる?)
窓からは、客が笑顔でケーキをつつく様子が見える。楽し気な話し声は外まで漏れ聞こえ、扉の前で待つ人の姿もあった。
「いらっしゃいませー! ただ今10分ほどお待ちいただ……って、琴菜ちゃん! 待ってたよ」
エイロックさんは尻尾をぱたぱたさせると、私の手を引き店内へ招き入れてくれた。
「あの、並んでるお客さんが……」
「言っただろ。あの席は君のための特等席だって」
私は、周囲からじろじろと見られながら、いつもの席へと案内される。
「満席ですね」
「琴菜ちゃんの宣伝のおかげだよ。ありがとうな!」
(そんなはずは……)
当惑する私の耳に、客たちの声が飛び込んでくる。
「本当だ、食べたことない味!」
「そっちのも一口いい?」
「これ、リピするしかないでしょ」
「千財さんがおいしいって言ってたしね」
(えっ? 千財さん来てたの?)
一週間が経った。
来店者は日を追うごとに増えていく。顔の広い千財さんをきっかけに、口コミで評判が広まったようだ。
「ねぇ、ウサギさん。一緒に写真いい?」
「喜んで!」
振り返ると、フラウドさんが客と並んでカメラに笑顔を向けていた。
「もっと寄ってよ。画面からはみ出しちゃう」
「こうぉ?」
「あは、近っ! 撮るよ~」
客の顔に嫌悪の色はない。
「メガネねこちゃん、こっちいいですか?」
「ワンちゃん社長、お願いします!」
他のメンバーも、ひっきりなしに呼ばれ、笑顔で注文に応じている。
「あっ、シラフェルさん!」
「……琴菜」
店の中に、ヒョウ柄の浮かぶ金色のヤモリ獣人を発見する。今日の彼はツナギではなく、カフェエプロン姿だった。
「メカニックのお仕事じゃなかったんですか?」
「社長に呼ばれた。俺をリクエストしている客がいるから、短時間でも顔を出せと」
「人気ですね」
「どうだかな」
遠くから『トカゲちゃん、こっち来て!』の声が上がる。
「トカゲじゃねぇ。……行ってくる」
不承不承ながらも仕事をこなす彼の姿に、少しおかしみを覚えた。
ふと、視界の端を見覚えのある人影がかすめる。
(あ……)
私が気付くと同時に、相手もこちらを見る。そこにいたのは、千財さんたちだった。
「……なによ。こっち見ないで」
彼女は不機嫌をあらわに、鼻にしわを寄せる。
「千財さんたち、来てたんですね」
「あたしらの勝手でしょ? ここに来るのに、あんたの許可がいる?」
(そうじゃないのに……)
「おまたせしました!」
現れたのは、エイロックさんだった。
「琴菜ちゃん、本日の日替わりケーキだよ。召し上がれ!」
「わ、今日もキラキラしてる。いただきます」
私はケーキを口に運ぶ。
「おいしい!」
「はは、いつもながらいいリアクション!」
エイロックさんは楽し気にウィンクをする。
「フラウドに伝えとくよ、琴菜ちゃんが褒めてたって。きっとあいつ喜ぶぞ」
そう言うと、エイロックさんは手を振り席を離れて行った。
(本当においしい!)
千財さんたちの視線を頬に感じてはいたが、私はケーキとお茶に集中することにした。