シラフェルさんが腕組みをしながら首をかしげる。
「ここは女だけの世界だ。なぜ存在しない男に興味を?」
「私にもわかりません。でも、女と女が結ばれ血を繋いでゆくのが当然の世界で、私はなぜかそれを受け入れられないんです」
彼らは互いに顔を見合わせる。
「とうの昔に絶滅した『男』について文献で調べるたび、心惹かれて仕方ありませんでした」
フラウドさんが赤い瞳をくるりと輝かせる。
「そうなんだ。心惹かれるって、例えば?」
「例えば……」
本音を語ることを初めて許された気がした私は、つい饒舌になってしまう。
「男は女に比べ、声は地鳴りのように低く、体躯は巨人のようだとか。あぁ、そうだ。岩肌を思わせるごつごつした腹部、丸太のごとき太い腕。その辺も本に書かれていた通りだって、抱きあげられた時に感動したんです」
「へぇ。他には?」
「好戦的で荒々しい、とか……」
シラフェルさんが小さく笑う。
「そこは個人差があるが、な」
「ん~、知識としちゃ大体合ってんじゃねぇか? けど、俺らはこの星の人間じゃないからなぁ」
エイロックさんは私に親しみやすい笑みをくれる。
「琴菜ちゃんの憧れの対象と俺たちは少し違うかもよ? けど、好意的に見てもらえるのは嬉しいね。なにせここの住民にとって、俺たちは歓迎されない存在だ」
「社長!」
「あっ、先ほどはすみませんでした!」
ようやく謝るタイミングを与えられ、慌てて頭を下げる。
「地球の仲間が、皆さんに不快な思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい」
「いやいや! 琴菜ちゃんは悪くないって!」
エイロックさんは歩み寄ってくると、膝をつき、私と目線を合わせた。
「不法入国したのは俺ら、しかも施設の一部を破壊して。それは責められても仕方ないことだ。それに俺たちにあんなことをしたのは、琴菜ちゃんじゃないだろ? だから謝んないでよ」
「は、はい」
私が顔を上げるにつれ、エイロックさんも目を合わせて立ち上がる。そして屈託なく笑うと、手を差し出ししてきた。
「?」
「握手。この星ではそれが友好の挨拶なんだろう?」
戸惑いながら、私はエイロックさんの手に自分の手を重ねる。キュッと握られると、掌に肉球が押し当てられ、手の甲を柔らかな獣毛がくすぐった。
「よ……、よろしくお願いします……」
「男」に触れる興奮と背徳感に、私の胸は高鳴る。頬から耳にかけて火照っているのが、自分でもわかった。
エイロックさんを見上げると、嬉しそうに笑っている。
「やばい。しぐさがいちいち初々しい。琴菜ちゃん可愛い」
「え? えっと」
「落ち着けオッサン」
「誰がオッサンだ、シラフェル!」
「社長、遊んでないで。そろそろ始めますよ」
タロクさんの冷静な言葉を受け、エイロックさんは私の手からするりと自分の手を抜いた。
「じゃ、行ってくるね」
エイロックさんはスーツの上を脱ぎ、コンテナの上に放り投げると、シャツの袖をまくった。
「本当ならお茶でも出して、おわびも兼ねてゆっくり琴菜ちゃんをもてなしたいところだけど。今はそんな時間なくてね」
言いながら、エイロックさんはハッチの中へと入って行く。
「シラフェル。この箱、カトラリーだよ」
「わかった。フラウド、こっちの箱のカップは無事だ」
「社長、スペースの使用許可下りました。明日から営業できます」
まるで祭りの準備のように忙しく立ち回る彼らに、私は疑問をぶつける。
「皆さん、何をされるんですか?」
ハッチから荷物を抱えて出て来たエイロックさんは、それを降ろしニカッと笑う。
「明日この場所に来てくれよ。そうすれば分かる」
「ここは女だけの世界だ。なぜ存在しない男に興味を?」
「私にもわかりません。でも、女と女が結ばれ血を繋いでゆくのが当然の世界で、私はなぜかそれを受け入れられないんです」
彼らは互いに顔を見合わせる。
「とうの昔に絶滅した『男』について文献で調べるたび、心惹かれて仕方ありませんでした」
フラウドさんが赤い瞳をくるりと輝かせる。
「そうなんだ。心惹かれるって、例えば?」
「例えば……」
本音を語ることを初めて許された気がした私は、つい饒舌になってしまう。
「男は女に比べ、声は地鳴りのように低く、体躯は巨人のようだとか。あぁ、そうだ。岩肌を思わせるごつごつした腹部、丸太のごとき太い腕。その辺も本に書かれていた通りだって、抱きあげられた時に感動したんです」
「へぇ。他には?」
「好戦的で荒々しい、とか……」
シラフェルさんが小さく笑う。
「そこは個人差があるが、な」
「ん~、知識としちゃ大体合ってんじゃねぇか? けど、俺らはこの星の人間じゃないからなぁ」
エイロックさんは私に親しみやすい笑みをくれる。
「琴菜ちゃんの憧れの対象と俺たちは少し違うかもよ? けど、好意的に見てもらえるのは嬉しいね。なにせここの住民にとって、俺たちは歓迎されない存在だ」
「社長!」
「あっ、先ほどはすみませんでした!」
ようやく謝るタイミングを与えられ、慌てて頭を下げる。
「地球の仲間が、皆さんに不快な思いをさせてしまいました。本当にごめんなさい」
「いやいや! 琴菜ちゃんは悪くないって!」
エイロックさんは歩み寄ってくると、膝をつき、私と目線を合わせた。
「不法入国したのは俺ら、しかも施設の一部を破壊して。それは責められても仕方ないことだ。それに俺たちにあんなことをしたのは、琴菜ちゃんじゃないだろ? だから謝んないでよ」
「は、はい」
私が顔を上げるにつれ、エイロックさんも目を合わせて立ち上がる。そして屈託なく笑うと、手を差し出ししてきた。
「?」
「握手。この星ではそれが友好の挨拶なんだろう?」
戸惑いながら、私はエイロックさんの手に自分の手を重ねる。キュッと握られると、掌に肉球が押し当てられ、手の甲を柔らかな獣毛がくすぐった。
「よ……、よろしくお願いします……」
「男」に触れる興奮と背徳感に、私の胸は高鳴る。頬から耳にかけて火照っているのが、自分でもわかった。
エイロックさんを見上げると、嬉しそうに笑っている。
「やばい。しぐさがいちいち初々しい。琴菜ちゃん可愛い」
「え? えっと」
「落ち着けオッサン」
「誰がオッサンだ、シラフェル!」
「社長、遊んでないで。そろそろ始めますよ」
タロクさんの冷静な言葉を受け、エイロックさんは私の手からするりと自分の手を抜いた。
「じゃ、行ってくるね」
エイロックさんはスーツの上を脱ぎ、コンテナの上に放り投げると、シャツの袖をまくった。
「本当ならお茶でも出して、おわびも兼ねてゆっくり琴菜ちゃんをもてなしたいところだけど。今はそんな時間なくてね」
言いながら、エイロックさんはハッチの中へと入って行く。
「シラフェル。この箱、カトラリーだよ」
「わかった。フラウド、こっちの箱のカップは無事だ」
「社長、スペースの使用許可下りました。明日から営業できます」
まるで祭りの準備のように忙しく立ち回る彼らに、私は疑問をぶつける。
「皆さん、何をされるんですか?」
ハッチから荷物を抱えて出て来たエイロックさんは、それを降ろしニカッと笑う。
「明日この場所に来てくれよ。そうすれば分かる」