謁見室が閉鎖された後、私は皆の目を盗み、ドックへと向かった。
(いた……!)
 自然保護区で見た異星の船は、既にそこへと運ばれていた。四人の獣人は手首の拘束を解かれ、元通りの服装になっている。その姿に私はほっと息をついた。

「ふ~、問答無用で処刑ってのだけは免れたみたいだね」
 白兎のフラウドさんが力なく笑う。
「油断するな」
 金色の鱗にヒョウ柄を浮かばせたシラフェルさんは、不機嫌な声を上げる。
「この『女だけの星』にとって俺たちは排斥すべき異分子だ」
「だよな。ギリなんとかなったけど、いつ事情が変わるかわからねぇ。みんな、慎重に頼むぜ」
「そうですね。まずは社長、あなたが気を付けてください」
「んだと、コラァ!」
 緊張から解放された様子で話す彼らの姿に、つい吹き出してしまう。
「ん?」
 私の口から洩れたわずかな音を、エイロックさんの耳は敏感にキャッチした。
「おぅ、琴菜ちゃん! 隠れてないで、こっち来たらどうだ?」
「えっ……」
「体の具合はどうだ? 医者の診断書持って来たんなら、こっちよこしな」
(えっと……)
 彼らと話をしてみたい。けれど、彼らは長らくこの星に存在しなかった「男」だ。そう思うと、やはり緊張してしまう。
 それに彼らは先ほどまで、非人道的な扱いを受けていた。彼らから見れば私は、無体を働いた人間の一員だろう。そう思うと、どんな顔をして彼らの前に出て行けばいいか分からなかった。
 私がその場でもじもじしていると、タロクさんがエイロックさんの肩を叩いた。
「社長、琴菜さんが怯えています」
「なんでだ? 今はちゃんと服着てんぜ?」
「我々はこの世界に存在しない『男』です。しかも異星からの訪問者。さらに言えば許可を得ず、正規ルートも通らず押し入った不法入国者です。警戒されて当然でしょう」
「あー、まぁ、そうだよな」
「でもさ、男がアウトなのはわかるとして、今時、異星人に抵抗ある人なんているの?」
 不思議そうに赤い目を見開くフラウドさんへ、タロクさんは静かな声で答える。
「どうやらここの人たちは、外部との交流を断っているように見受けられますので」
(? 異星人に抵抗? 外部との交流?)
 彼らの話す内容が理解できず、私は首をかしげる。
「琴菜さん、我々に御用ですか?」
 御用というほどのものはない。ただ興味がある、それだけだ。この世界に存在していない「男」が目の前にいるのが物珍しい。そんな衝動だけで、彼らと接触してもいいのだろうか。それに、一体何を話せばいいのだろうか。
「……」
 私はしばし逡巡した後に、口を開く。
「あ、あなたたちの声、とても低いと思って……」
「ん? おぉ? そっかぁ」
「それに私たちより体が大きくて、腕も硬くて太い……」
「……男だからな」
 シラフェルさんの静かな声に、私は改めて彼らを意識する。
「男……」
 小さく復唱した後、私は我に返る。何をわけのわからないことを言っているのだろう。それより先に、私たちの仲間が彼らにしたことを謝罪すべきじゃないだろうか。
「あのっ、さっきは……」
「ねぇねぇ、琴菜ちゃん、ひょっとして男を見るのは初めて?」
 フラウドさんの質問に、私は謝るタイミングを逃す。
「はい、本物を見るのは。書物でなら少しだけ」
 私の答えに、タロクさんは小さく「ふむ」と呟いた。
「琴菜さん。あなたは他の方々に比べ、我々に対して好意的に見えますね」
「……はい。ずっと、興味がありましたから」