私は今日もそれに気づかないフリをする。

いつか、いつか、踏み込んでいいようになったら私もカイくんの全部を受け止めるから。
そう、心に誓って。


「ハハッ……!ごめんってばー!」


段々、いつものように会話ができるようになってきた。
それも全部、カイくんのおかげだ。


「ったく、お前ってやつは」

「あ、そういえば一回帰ったのになんで戻ってきたの?」


ずっと、気になっていた。
一度帰ったはずのカイくんが何故またこの海に戻ってきたのか。


「なんつーか、お前のことが気になってさ。今日ずっと思い詰めた顔してたし」

「……そっか。そんな顔してたんだ。心配してくれてありがとう」


無意識にそんな顔をしてしまっていたんだ。
それで、わざわざ戻ってきてくれたなんて彼はどこまでお人好しなんだろう。


「マジ戻ってよかったわ。戻ってなかったら今頃、俺泣いてたし」

「うっ……それは謝るけど、なんでカイくんが泣くの?」

「はぁ?普通に好きなやつが危ない目に遭ったら泣いちまうだろ!」

「あ、それはどうもありがとう……」


なんて返すのが正解なのかがわからなかった私はとりあえずお礼を口にした。

カイくんって意外と泣き虫だったりする?
いや、泣き虫というよりかは情に熱いタイプなのかもしれない。
誰よりも家族とか友達とか大切にしていそうだし。


それから家まで送ってもらって、お母さんに海で濡れてしまったと説明をしてカイくんにお父さんの洋服を貸してあげた。

さすがにずぶ濡れで返すわけにはいかないし。
今日1日、色んなことがあったけれど、その分色んな大切なことを感じることのできた日だった。

あの日から止まっていた私の時間が再びゆっくりと動き始めた気がした。

カイくん……本当にありがとう。