それなのに私たちは日々を生きているうちに一人だけの力で生きているように思い込むのである。

周りの気遣いや優しさを忘れて自分だけが偉いような気になるのだ。


「いい加減、いまこの時を生きれてるっていうのが幸せだってことに気づけよ」


まるで私が心の奥に閉じ込めていた自分の無力さや絶望をかき消すように強く、強く、私を抱きしめながら言った。

『亡くなる命もあれば、生まれる命もある』

そう、室さんが言っていたように今日、この瞬間に亡くなる命もある。

それに反して、今日この瞬間に生まれた命もあるのだ。
亡くなった人が、渉くんが、生きたかった日々を私はなんの苦労もなく、息をして自分の足で立って生きている。

渉くんは……私がこのまま海で沈んで亡くなったとしてもあっちで会ったときにどう思うのだろう。

きっと……いや絶対に悲しむし、怒るだろう。
だって、彼は誰よりも人の命を大切にして生きていた人だから。

そんなこと……冷静になって考えれば分かったはずなのに。