こんな気持ちになっちゃいけないのに。
恋なんて、私には必要ないもの。
カイくんはそんな囁きと私のドキドキと高鳴る鼓動を残して向こうへ行ってしまった。
「……ほんとにバカ」
カイくんがじゃない。自分のことがバカだと言っているのだ。
あんなふうにからかわれて……私は何しているのだろう。
どうせ、すぐに飽きられてしまう。
そう分かっているのに心が不意にカイくんを求めてしまう時がある。
───……あの子のことは忘れて。
おばさんにそう言われてからも彼のことを忘れたことなんて一度もない。
心の中から消そうとしても消えない。
周りから『もう忘れなさい』と言われ続けて、そのたびに何度も彼のことを忘れさせてほしいと願った。
でも、心は正直で彼という存在を一向に消そうとはしない。
どうか、消さないで。と心の奥の本音が必死に叫んで私自身に訴えかけているのだ。
「陽音!来てたんだね!」
江奈が輝かしいほどの笑顔を向けて私の肩を軽く叩きながら言った。
「おはよう、江奈は朝練終わりだっけ?」
「うん、そうだよ」